高村涼太、裸のつきあいをする
涼太は半ば強制的に新しく出来た銭湯へ来ていた。あまり乗り気ではなかった涼太だったが、色々な種類のお風呂がありそれなりに楽しめた。言わずもがな大河の筋肉はボディビルダー並みの肉体美で、背中を洗ってもらう事になったのだが、力が強すぎてかなり痛かった。ひりひりする背中に洋服を通し髪を乾かしている隣で大河は鏡で自分の筋肉を眺めてスマホで撮影していた。色々なポーズで写真を撮っていて楽しそうにしていた。これから撮った写真をSNSに上げたりするのだろうか?その様子を横目で見ながら髪を乾かしていると、満足した大河が服を着始めた。
「久々に人と話しながら長湯したから喉乾いたな」
「そうですね。若干上せました」
久々に長湯した涼太の頬はリンゴみたく赤くなっていた。大河は心配そうに顔を覗かせると、涼太を涼める場所へ移した。
「ここで休んでろ。俺、飲み物買ってくるから」
胸をドンと叩き白い歯を見せると、涼太の肩を叩いた。それを見た涼太は「お願いします」と背もたれに腰を掛けて溶けるように脱力した。大河は元気よく飲み物売り場へ歩き出した。
「ほら、姉ちゃん達俺の奢りだ。遠慮なく飲め!」
牛乳瓶を二つ、彼女たちの前に差し出すとそれをおずおずと受け取った。先ほど大河とぶつかった凛と晴はぺこぺこ頭を下げながらお礼を往復する。かしこまった二人を見ながら可笑しくなった大河はまた白い歯を見せながら笑った。
「す、すみません。一方的にぶつかった挙句、飲み物までごちそうになってしまって……」
「いやーでも、いい人で良かったよー。ぶつかったかいがありましたっ!」
「凛? もう少し反省したらどう?」
調子に乗る凛の頬を抓る。抓られた凛の頬が餅みたいに伸びてやられている本人は痛そうだが、愛嬌のある顔のせいで微笑ましい光景になっていた。年は同じ位だが親子みたいな関係性を築き上げていた二人を温かい目で見ていた大河だったが、涼太を待たせていることをふと思い出し、思わず大きな声を上げてしまった。仲睦まじい様子を見せていた二人も思わず驚いた表情で大河を見つめる。大河は急いで内容量が多いスポーツドリンクを買った。
「姉ちゃん達すまねえ。連れを待たせてるからこれで失礼するぞ」
「あ、ありがとうございます」
「牛乳ありがとー! 次会ったら私が奢るねー!」
「おう! 楽しみにしてるぞ!」
のぼせている涼太の元へ向かうため、急いでその場を後にする。二人は笑顔で手を振ってその場を去る大河を見送った。
「すまん! 遅くなった」
急いで戻った大河は涼太へスポーツドリンクを手渡す。受け取った涼太は本能のままに勢いよく飲み始める。体が内側から冷やされカラカラだった体から色味が戻ってくる。一リットルあったスポーツドリンクだったが、ものの十秒ほどで飲み干した。
飲み終えた涼太は安堵の表情で再び脱力して背もたれへもたれかかった。
「ありがとうございます。助かりました」
「おう! いいってことよ」
ゆっくりと立ち上がると軽くストレッチする。ぽきぽきと全身の骨がなる。体が伸びてすっきりした涼太は大河へ再びお礼と共に頭を下げた。水分を取り復活した涼太は大河と銭湯を後にした。行く前は乗り気ではなかったが、行ってみると案外悪くないと涼太は微笑んだ。その後、ファミレスへ入り雑談をを交えながら料理を食べ、深夜帯になったところでお開きになった。帰る道も途中まで一緒だったので、銭湯で大河が遅くなった理由を聞いてみた。
「ああ、実は人とぶつかってな。可愛い顔した姉ちゃんと大人っぽいクールな姉ちゃんに詫びのジュースを奢ってたんだよ」
「なるほど、そういうことだったんですね」
大河は思い出すように空を見ると楽しそうににやけていた。この様子からしてぶつかった人たちは中々可愛かったようだ。
「涼太も運が良ければ会えたのにな。また会えたら連絡先絶対交換するぞ」
「そんな可愛かったんですか?」
「そりゃ女優レベルだったぞ! もしかしたら近い未来ドラマにでるかもだな!」
「へえ……会ってみたかったなぁ」
残念そうに呟く涼太。だが本当に近い未来、彼女たちがドラマに出る事と涼太と邂逅することになるのはまた次のお話。
話が途切れて間が出来たタイミングで大河と帰る道が別になった。涼太は頭を下げて感謝と共に大河と別れた。相変わらず大河はガハハと豪快に笑い白い歯を見せた。
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