お色気なシーンって上手く書けないんだよなぁ
晴は半強制的に銭湯に訪れていた。凛の話によると、最近出来たらしく色々な種類のお風呂もあり、娯楽施設もあるらしく俗に言うスーパー銭湯という形態の公衆浴場らしい。中に入ると銭湯とは思えないほど室内は広く綺麗だった。中に入るなり凛は子供のようにはしゃいで目を輝かせる。
「すっごー! 晴ちゃん見て見て!ちょーでっかいUFOキャッチャーあるよ!」
「子供じゃないんだから、はしゃがないの。それよりも早くはいりましょう」
浴場へ向かおうと歩き出すが、凛は巨大UFOキャッチャーが気になるらしく駄々をこね始める。それをなだめながら凛の首根っこを掴んで浴場へと歩き出した。小さい子供を持つ母親の気持ちが分かったような気がした晴だった。浴場に入ると室内は想像以上に広かった。昔遠出して行ったプールを晴は思い出していた。凛も同じことを思っていたのか巨大UFOキャッチャーを見た時以上にはしゃいでいた。
「ひっろー! ねえ、さっそく入ろう!」
「まずは体を洗ってからね」
走ってそのままダイブしそうな凛の肩を掴むとシャワーの前で座らせた。
「ねえ、晴ちゃん。私、疲れたから洗ってー」
「しょうがないわね。主役様のご命令なら喜んで」
晴は微笑むと凛の背中を洗い始める。人の背中を流すのは晴にとって初めてだったので、猫を撫でるように凛の背中を洗う。くすぐったいのか凛は少し体をくねくねさせていた。意外と人の背中を洗う行為というのは難しいと感じると同時に少し楽しさを感じていた。背中を洗い終えるとすっきりした顔の凛は晴の背中に回り込んだ。
「今度は私が洗いますよぉー。へへへぇ……」
「悪代官みたいな反応やめてくれる?」
今度は凛が晴の背中を洗い始めた。スケベ親父のようなセリフを吐いていたが、意外と洗うのはかなり上手く手慣れていた。気持ちよく思わずうとうとしてしまう。その様子を見た凛はとても嬉しそうににやにやと晴の顔を覗いていた。
「なかなか上手いわね」
「いつも妹の背中を洗ってるからね~」
晴が褒めると誇らしげな表情と共に胸を張った。褒められて上機嫌になった凛は鼻歌を歌いながら、肩もみも始めた。主役にやらせるのは申し訳ないと感じていた晴だったが、肩もみも腕も中々上手くてついついされるがままになってしまった。凝っているのかゴリゴリとした感触が揉むたびに伝わる。
「かなり凝ってるね。やっぱり疲れてる?」
「ごめん。凛の方が疲れているはずなのにやらせてしまって」
晴の言葉に凛は首を横に振る。仕上げに肩と頭をプロっぽく優しく叩いてマッサージは終わった。少し名残惜しく感じてしまったが、これ以上やらせるのも晴のポリシーに反するので、今度は晴が凛の肩もみをやることにした。凛は顔を輝かせて嬉しそうに提案を受けいれた。まだ湯船に浸かっていなかった二人は場所を移した。
「はあ~癒されるぅ~。お風呂に晴ちゃんの肩もみはソッコーで寝落ち確定だよぉ」
「あなたも負けず劣らず肩こりがすごいわね……!」
凛の肩から伝わる感触はまるで岩みたいで揉むのも一苦労する固さだった。揉むたびに晴の手がプルプルと震える。
「そういえば妹さんがいるって言ってたけど一緒に住んでるの?」
「うん。上京した時に私がヒステリックにならないようにってついてきたんだよねえ」
よくできた妹だと晴は思った。一人っ子の晴は弟や妹がいなかったので、凛が素直に羨ましいと感じた。しかし、姉妹を持つ者には持つ者の苦悩があるらしくため息を皮切りに愚痴を語り始めた。
「いやーでも、やっぱり一人暮らしがしたかったなー。毎日、早く起こされるし、ジャンキーな食べ物食べれないしで不便なんだよね」
「立場逆転してないかしら?」
晴のツッコミに笑いが起きる。凛は想像以上にだらしのない性格らしく、名前も顔も知らない妹に心の中で同情をした。
「でも、羨ましいわ。私一人っ子で兄妹いないから」
晴の言葉に凛は顔を見上げる。湯気が寂しそうな表情の晴を隠すように立ち込めている。その顔を見た凛は振り返ると、霧の壁を突破して晴に抱き着いた。またしても突発的な行動に晴は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をする。女の子特有の柔らかい感触に遅れて甘い匂いが晴の副交感神経を刺激した。同じシャンプーを使っているはずだが、何故こうも違った匂いになるものだろうか?
晴の胸辺りですりすりと頬ずりしている凛の顔を見ると甘えた猫みたいな表情をしていた。
「どうしたのよ?」
「それじゃあ……今日から私がお姉ちゃんになってあげるよ!」
「それは遠慮しておくわ」
「なんで?!」
即答した。明らかに逆だろと冷たい視線を放った。何故か晴と凛の周りだけ湯気が濃くなった気がした。
「すっきりしたー! フルーツ牛乳買おっ!」
「ずっとこのテンションでいくのかしら?」
色々な風呂を堪能した二人は火照った体を冷やすために飲み物を買おうとしていた。銭湯にいくと瓶の飲み物を買いたくなるのは日本人としての性なのだろうか周りに人が集まっていた。凛はテクテク歩く晴を置いて颯爽と飲み物売り場へ向かう。
「そんなに急いだら人とぶつかるわよ!」
そういった矢先、凛は人とぶつかって激しく尻もちを着く。言わんこっちゃないと頭を抱える。ぶつかった相手は巨人という例えがぴったりな恰幅のいいプロレスラーのような肉体の持ち主だった。さすがの凛も気迫に押されたのか子犬のようにワナワナと震えている。晴もフォローを入れに傍へ向かう。凛へたどり着くには距離が離れている。その間、巨人の男は分厚い手を凛へ伸ばしてくる。これはまずい。強面の顔面から察するに相手はカタギに見えない。このままだと凛が危ないと思った晴は必死の形相で男と凛の間に割って入る。
「晴ちゃん! ど、どうしよっ! ヤバい人にぶつかっちゃった!」
「ぼ、暴力沙汰はよしなさい! 警察呼ぶわよ!」
晴は男を睨みつけて最大限の威嚇をする。男が強行手段に及べば晴だってタダでは済まない。逃げ出したい気持ちを押さえて男を睨みつけていると、近づいてきた大きな手を引っ込めた。
「あ、いや……俺はただそこの人が派手に転んだから、手を差し出そうとしてただけだぞ……?」
「えっ……?」
「あー……何か勘違いしてるみたいだから言うけど、俺はれっきとした現役大学生だぞ」
察したように頭を掻きながら学生証を見せてきた。二人が学生証を見ると、男は爽やかな笑顔と白い歯を見せつけてきた。
「俺、こんなナリだらかいっつも勘違いされんだよなぁ。あ、俺は速水大河、怖がらせたお詫びに一杯奢らせてくれ」
ガハハと豪快に笑う大河を見て二人はぽかんと口を開けたまま固まってお互いの顔を見合わせていた。
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