強引な展開なのは分かってんだ……!
「ほら、買ってきてやったぞ」
「○リガ○君とか久々だな」
コンビニから帰ってきたアリスはアイスを手渡す。公園のベンチへ座っていた涼太はアイスを食べ始めた。久々に食べたガ○○リ君は思ったよりも固くて齧るたびに歯がキーンと染みた。一方のアリスは吸うタイプのバニラアイスを頑張ってチューチューと健気に吸っていた。
「さっき高村が覗いていた部屋にいた奴ってもしかして……フラれた女か?」
「う……! キモいとこ見られちまったな……」
自分の奇行を思い出し思わず恥ずかしくなってアリスから目を切る。アリスは不満そうに、涼太を見つめる。
「うん。マジでキモかった」
ばっさり放ったアリスの言葉が突き刺さる。自然と齧りつく口が大きくなってハムスターみたくなっていく。
「つーか、一応女の私と二人きりで食事行ってんのに、昔の女とこ行くなよな。正直、いい気持ちはしねーぞ」
「ああ……反省してる。マジでごめん」
ばつが悪そうに顔を逸らすと、アリスは背中を力いっぱい叩いた。突然の衝撃に咥えていたアイスの棒を吐き飛ばして咳き込んだ。その様子を覗き込んでアイスを吸っていた。
「げほっげほっ……! 何すんだよ!」
「つーか、高村が惚れたその女ってどんな人なの?」
にやにやしながら聞いてくる様子に、イラつきが芽生えていた。色恋沙汰をからかわれるのは、どんな人でもいい気持ちはしないものだ。不機嫌な雰囲気を感じ取ったのか、アリスは浮かれていた気持ちを引っ込めた。
「わりぃ……調子乗った」
涼太はあえて無言を選んだ。お互いに気まずい空気になってどこも痒くない体を自然と搔いていた。
「私、今いい考えが舞い降りたんだけどさ……聞きたい?」
涼太にはこれから言う言葉がなんとなく分かっていた。だからか、アリスの言葉を遮るように肩に手を置いていた。
「逢坂。そろそろ帰るか!」
「えっ?」
「今日は悪かったな。今度は寿司でも食うか!」
アリスは何となく拒絶されたのが分かった。喉まで出かかっている言葉は声にならず、唇だけが小さく動いているだけだった。言いたいのに、この瞬間を逃したら恐らく二度と声に出せない言葉なのに、声に出せない。
それは言ったところで涼太が受け入れることはないから。その未来が見えていたアリスの本能が体を強張らせた。無理に明るい声を出した涼太に対して出来たのは、同じく明るい声で威勢をはることだけだと悟った。
「おう! もちろん、回らない寿司だよな!」
「バカ言うなよ! 高校生がそんなとこ行けるかよ。もちろん回る寿司一択だ」
「ケチくせ。五十皿食ってやるから覚悟しろよ!」
これでいいんだ。笑っているはずのアリスの拳は血管を浮き出るほどに強く握り拳を作っていた。
次に涼太がドリームビリオンを訪れたのは一週間後だった。いく理由はなかったが、着ぐるみのおっさんのその後が気になった涼太は下校途中に行くことにした。おっさんを探すのは苦労しなかった。デニーロの着ぐるみを着てJK達に囲まれていた。どうやらあのパレードの一件でデニーロの人気がさらに上がり、小さい子供以外にもデニーロが認知され今やJKにちやほやされる始末だ。動きからみるに鼻の下を伸ばしてるに違いない。そう考えると沸々と怒りが湧いてきて何かしてやりたいと考えた涼太は人気がない場所へ移動したのを確認。気配を消して背後に立つと膝カックンをかました。
そうすると面白いぐらい綺麗にかかり驚きの声と共に崩れ落ちた。その衝撃で頭が吹き飛び、おっさんの顔が露わになる。
「なぬぅ?! 何奴だ!」
「娘ぐらい離れた女に囲まれて鼻の下伸ばしてんじゃねーよ」
「はっ! 君はあの時の少年!」
涼太の顔を見るや否や歓喜の表情で両手を掴んでぶんぶん振り回した。
「いやー君のおかげでドリームビリオンの売り上げが三十パーセント上がったんだ! 君はここのヒーローさ!」
腕を肩に回すと園内の様子を指差す。確かに平日なのに人が多いような印象を受けた。特に下校途中の高校生や大学生が過半数を占めている。喜ばしいことなのだろうが、涼太にとってはどうでもよかった。ひとまず着ぐるみのおっさんが元気そうなのを確認した涼太は踵を返す。
「おい、少年。もう帰るのか?」
「ああ、つーかこんなところガラじゃねーしな」
歩き出そうとした涼太をおっさんは肩を掴んで止めた。振り向くと真剣な眼差しで見つめている。
「本気で着ぐるみバイトしてみる気はないか? 君なら好条件で雇うぞ」
おっさんの誘いに涼太は呆れを含んだ笑みをこぼした。
「お断りだ。百万貰ってもやらねーよ」
涼太は再び歩き出す。着ぐるみのおっさんは断られるのが分かっていながらも僅かな希望を抱いて聞いてみた。結果は予想通りで残念そうに口をへの字に曲げた。
出口を目指して園内を歩いていた。カップルが多いせいか窮屈で圧迫感が付き纏う感覚に涼太は息苦しさを感じた。自然と早くなる足音、楽し気な園内には似つかわしくない音で、雑音で輪を乱したか隊列のように涼太は向かいにいた人へぶつかった。
「あ、すみません!」
「い、いえ……私も前を見てなかったので」
ぶつかった人物に視線を向けた涼太は驚きのあまり後ずさる。申し訳なさそうに顔を上げる人物、川口晴は涼太の胸辺りをみると、小さく悲鳴を上げた。徐々に冷たさを感じて右胸を見ると、ワイシャツが広範囲に濡れていた。どうやら二人の間に落ちている紙コップのようだった。
「ご、ごめんなさい! 私、なんてことを!」
「ああ、大丈夫ですよ! 気にしないでください」
「そういうわけにはいかないです! クリーニング代は出させていただきますから!」
そういうとスマホを取り出して画面に見せつける。
「今そんなに手持ちがないので、連絡先教えてください。後、クリーニングは領収書をとってくれるとありがたいです」
「いや……本当に大丈夫なんで……!」
強引に横切ろうと動きだした。しかし次の瞬間、涼太の上半身が大きく後ろへとのけ反った。原因は言わずもがな晴が怒りを滲ませた表情で腕を力強く掴んでいた。
「何でそんなに意地を張るんですか?!」
涼太の予想に反して噛みついてきた晴に目を丸くして驚く。急な展開に頭が真っ白になるが、そんなことお構いなしに晴は言葉を続ける。
「あなたにとって損なことはないんだから、素直に私の提案を飲みなさい。それとも断らなければいけない理由でもあるの?」
「あ……いやー特には無いです……?」
「だったら連絡交換する。いいね?」
涼太は首を小さく縦に振るしかできなかった。されるがままに涼太は連絡先を交換し、会う約束までさせられた。すべて終えると晴は笑顔に戻り、涼太へと振りまく。
「それじゃあクリーニング終わったら、連絡してよね! 無視したら……分かってるよね?」
「ああ……もちろん」
「それなら良し。じゃあ、私はデニーロに会ってくるからまたね!」
晴は機嫌よく人混みの中へ消えていった。予想以上の気の強さに触れた涼太はただただ立ち尽くしていた。すると、タイミング良く着ぐるみのおっさんがニヤついて涼太の前へ現れた。その顔は無性に腹立たしかったが、それと同時に晴と同じくらい今欲しい物が目の前に現れた。
何でも願いを叶えてくれるランプの魔人みたく、涼太の欲しい物が分かるのか魔法風に何もない空間から何かが入っている紙袋を出現させた。
涼太は無言でそれを受け取った。
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