肉と野菜と覗きはバランスよく
「た~か~む~ら~? 今日、時間あるよな?」
「逢坂!? ま、待て! 昨日は悪かった!」
ドリームビリオンへ遊びに行った翌日、アリスは怒り心頭といった感じで放課後の教室で涼太に詰め寄っていた。それに対して涼太が出来た行動は全身全霊の土下座だった。無理もない。アリスの視点から見れば放置された挙句、同じ学校の生徒を口説いていたのだから気分のいい物ではないだろう。逃げ出そうとした涼太の首根っこを摑まえると、壁に叩きつけ足で逃げ場を失くす。
「昨日、バイト代貰ってんだろ? それで焼き肉奢れよ」
この状況を見るに涼太に拒否権は無いようで、首を縦に振るしかなかった。
「っしゃー! 今日は食うぞ!」
「あんまり食いすぎんなよ」
早速アリスに連行される形で焼き肉へと赴いた二人。アリスは子供のようにウキウキで、メニュー表を見るとタブレット端末で次々と注文していく。涼太はアリスが肉しか注文しないのを見越して野菜だったり、キムチなどの小鉢を注文していく。先に肉が何品かくると、アリスは肉を次々と焼いていく。焼けた肉のほとんどがアリスの胃袋へと消えていき、そのたびに幸せそうな顔で落ちそうな頬を押さえている。
食べ進める中、野菜が運ばれてきた。それを網の上に置くとアリスの顔が徐々に曇ってきた。
「おい! 雑草焼いてんじゃねー!」
「雑草な訳あるか。ピーマンと玉ねぎだよ」
網から取り除こうと箸が迫るが、トングで見事凶行を阻止する。妨害を受けながらもなんとか焼くと、アリスの前へ差し出す。その時の顔は「嫌」その一言に尽きる顔をしていた。
「おいおいお兄さん……! 焼き肉にきて野菜を食うなんて、ラーメン屋にきてラーメン食わないのと同じ位の愚行だぜ?」
「別に野菜食ってもいいだろ。それにピーマンは焼くと若干甘くなるんだぜ」
ピーマンを近づけると十字架を突きつけられた悪魔みたいな拒否反応を示した。この反応から見るにアリスは本当に野菜嫌いらしい。その反応が可笑しくて、ついつい調子に乗る涼太だが、すぐにアリスのゲンコツ制裁が下ったのでピーマンを引っ込めた。
「ちっ……調子乗んなよ!」
「つーか、冗談抜きで食ってみろよ? 美味しいから」
食べやすいように焼き肉のたれを垂らして少し焼くと、アリスの小皿に再び乗せた。不服そうに悩んだ素振りをしばらくすると、目を閉じて口をパクパクさせて身を乗り出した。
「何してんの?」
「食べさせてくれるなら食ってやってもいいぞ」
意味が分からなかった。今までそういうノリの悪ふざけがなかったのもあって、涼太は困惑していた。これじゃあまるで、恋人みたいなノリじゃ……はっと我に返り喉までかかった言葉を押し殺した。アリスと自分に限ってはそんなことはない。きっと失恋した自分をからかっているんだ。平常心を取り戻した涼太は首を横に振りピーマンを箸で持ち上げた。
「早くしろよ。食ってやんねーぞ」
ここで尻込みしてしまえば、アリスの思うつぼ。そう考えた涼太は何も考えないようにして、ピーマンをアリスの口に放りこんだ。
ゆっくり味わうように咀嚼しているが、顔はとてつもなく嫌そうだった。飲み込める大きさになると、喉を鳴らして飲み込んだ。
「どうだ?」
「意外と悪くないな……うぅ」
そういいながらコーラで口内を消毒していた。
「高村?! お前、正気か?」
「残念ながらな。安心しろ、これ食い終わったら好きなだけ肉くっていいぞ」
「そ、そんな~!!」
そんなアリスを見ながらも、無慈悲に野菜をどんどん焼いていく涼太。その時、アリスの目には涼太が悪魔のように見えた。
「ふう……結構食ったな」
しばらく焼き肉を堪能した涼太はお手洗いに赴いていた。用を済ませ席へ戻ろうとすると隣の個室から笑い声が聞こえた。話が盛り上がっているなとそれだけで終わる話だったが、今聞こえる笑い声に聞き覚えがあった涼太は気になって足を止めてしまった。
光が差し込んでくるすき間から覗くと、涼太の想像通りな光景が広がっていた。
「まさか晴ちゃんから直接、食事を誘ってくれるなんて珍しいね! 僕って男は幸せだなぁ!」
「この前、無理やり連れて行ったからそのお詫びよ」
晴とイケメン青年とのデート現場にまたもや遭遇してしまった。ス○ンド使いもびっくりするほど、涼太は二人と惹かれあう運命みたいなものを感じていた。涼太の場所からは青年の顔しか見えておらず、晴は手前で後ろ姿しか拝めなかった。
青年は変わらず爽やかな笑顔を顔に張り付けて焼いた肉を食べていた。涼太はこの顔に説明しがたい嫌悪感を抱いていた。恋敵だからなのか、そもそも人間としていけ好かないのかは涼太も分からない。
「でも、晴ちゃん全然お肉食べてないけどどうしたの?」
「私はダイエット中だから控えているのよ」
そう言ってウーロン茶を口に含む。焼けるたび肉のいい匂いが晴の食欲を刺激するが、口を固く閉ざして食欲を押し殺す。晴がダイエットをしている理由、一週間後にオーディションが決まっているからだ。ドラマの内容はゾンビから日本を取り戻す武闘派JKといった役なので、普段より一層体を絞りオーディションに挑もうとしている。しかし、そんなことを全くしらない青年は無邪気な表情で肉を進めてくる。
「申し訳ないけど遠慮するわ。気持ちだけ受け取っておく」
「えー! まあ、無理強いはしないけど、一つだけお願い聞いて欲しいな」
青年がにやりと笑う。言いたいことが分かった晴は少しうんざりする。
「あーんして欲しいな。晴ちゃん」
「子供じゃないんだから自分で食べなさいよ」
青年は少し子供っぽい一面があり、一緒にいる時何かしらこういう要求をしてくる。正直、晴はうんざりしているが、恋人ととはこういう絡みをするものなのだろうと割り切っていた。晴は小さい子供をなだめるように、青年の口へ肉を運んだ。
一連の流れを見ていた涼太は悔しそうな目で二人を睨んでいた。張り付いている涼太は明らかに不審者で今にも店員に注意されかねないのだが、その危機を救ったのはなかなか戻ってこない事を心配に思って通路にでたアリスだった。
「高村、何してんだよ?」
「あ、逢坂!? ごめんごめん! 何でもない」
「何でもないことないだろ。なんでそこに突っ立て……」
アリスが涼太の傍に来ると、話し声がアリスの耳にも伝わる。聞き覚えのある声にアリスは察した。それと同時に涼太をその場から引き離した。
「店でるぞ。次、アイスな」
「ちょ!? アイスならここでも食えるだろ?」
涼太の問いに答えず、アリスは会計を済ませて焼肉屋を後にした。無言の圧を感じた涼太は腕を掴まれたまま、アリスへとついていった。
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