第15話 友里根の提案

 依夜いよに近づいて色々と問い詰めるチャンスを得ることができず、優作ゆうさくはがっかりしながら集落をぶらついていると、友里根ゆりねが追いかけてきた。いつもはククルカと一緒にいるのに、今回はどうも一人で優作を追いかけて来た様子だった。


「ちょっと待って」

「なんか用か?」

「あんた、剣術の合同訓練に参加したいの?」

「いや、合同訓練はどうでもいいけど、依夜の護衛の当番には選ばれたい」

「どうして?」

「あいつと俺は幼馴染なんだ。なのに何も話してくれないから、一緒にいなければならない状況を作って色々と問い詰めたいんだ」


 優作の言葉に、友里根は興味深そうに尋ねてきた。


「依夜様と幼馴染? そういえば初めて会った時もそんなこと言っていたわね。本当に?」

「ああ。何ならあいつが何歳まで寝小便垂れていたかまで知ってる」

「何歳なの?」

「七歳だ」

「ふーん。あの堅苦しい依夜様が、七歳まで寝小便垂れてたんだ」


 友里根が意外そうな表情を浮かべた。確かにあの堅苦しい依夜からは寝小便を垂れていたということ自体、想像できないのだろう。しかし、優作の知っている依夜はあんなに堅苦しくはない、もっと馬鹿っぽくて子供っぽい女の子だったのだ。


「……それで、何の用なんだよ」

「そうだった。あんた、あたしと取引しない?」

「取引?」

「そう。あたしがあんたに剣術を教えてあげる。その代りにあんたはあたしに弓を教えて」

「ちょっと待て。弓ならククルカさんに教わればいいんじゃないのか?」

「それは無理。あの人は本物の天才だから、あの人から弓を教わるなんて不可能。教わるならあんた程度じゃなきゃ無理なのよ」


 友里根によると、ククルカは弓矢クアイ氏族一の弓取りであり、当代の上座狩人ロル・マタンキクルとして、その名は周辺国にまで轟いているという。それほどの凄腕なら、今度本気で弓を引くところも見てみたいと思う優作だった。


「でも、別にククルカさんじゃなくても、ほかに護衛団にもそこそこの腕のやつとか、いるんじゃないのか?」

「護衛団の他の人たちとはあまり仲良くないし……そもそも、あたしは弓の合同訓練には参加できないから」

「え、どうして?」

「……あんたの剣と同じ理由」


 つまり、友里根は弓が下手すぎて合同訓練に加われず、優作の剣と同じように、練習が出来ずに行き詰っていたということだった。


「……で、どうなの? 取引する気はあるの?」

「別に弓を教えるのは構わないけど、おまえも剣に関しては天才の部類じゃないのか? だとしたら凡人の俺がおまえに教わっても、無駄なんじゃ……」

「心配いらないわ。あたしは日々の積み重ねで剣術を磨いているから。まあ、そうは言っても、もちろん今のあたしが強いのは才能もあるだろうけど、そもそも才能が必要な段階まであんたに教えるつもりはないし」

「なるほど」


 確かに優作は剣を極めるつもりなんてない。せめて護衛として依夜に傍いることさえできれば、それで十分なのだ。


「わかった。その取引乗った」

「あんたが話の分かる奴でよかったわ。それじゃあ、明日の日の出から、さっそく秘密の鍛錬を始めるわよ」


 優作は友里根と明日の朝、訓練場で早朝鍛錬をする約束をして別れた。


 護衛団の宿舎へと戻る途中、優作はふと、友里根はなぜ弓を使えるようになりたいのだろうかと疑問に思った。剣だけでも十分すぎるほど強いので、依夜の護衛に付くことはできるだろうに、何か別に理由でもあるのだろうか。


「なんか俺だけ理由を言わされたのは不公平な気がするし、明日、会ったときにでも聞いてみるか」


 そんなことを考えながら、優作は明日からの早朝訓練に思いを馳せた。

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