第13話 剣の腕前

 優作の言葉にククルカは眉を顰める。


「おまえには必要ないと言ったはずだが?」

「でも禁止されたわけじゃないですよね?」

「まあ、それはそうだが……」

「護衛団に入るなら、特別扱いはいりません。俺はただ飯ぐらいになるつもりはないので」

「ほう。ただの甘ったれではないと言いたいのか。いいだろう。そこまで言うなら合同訓練に参加できるだけの力があるのか、確かめてやろう」


 ククルカは笑みを浮かべると、訓練場に向かうと言って歩き出した。環濠に囲まれた集落の中心部には少しだけ開けた広場があった。そこでは他の護衛兵たちが剣を打ち合わせていたり、弓の訓練を行ったりしている。ただ、そこまで広くはないので、十数人程度が一度に訓練を行おうとすると少し狭く感じる。


「ここは予備訓練場だ。もっと広い本格的な訓練場は集落の外にある」

「なるほど。簡易的な訓練場ってことですか」


 簡易的とはいえ、戦闘訓練をこなすのに必要なものはあらかた揃っていた。


「今日はあいにく合同訓練を行わない日なのでな。ちょうどいいので、私と友里根でおまえの実力を測ってやる」

「実力を測ってどうするんですか?」

「護衛団は本来、生え抜きの精鋭部隊だ。ゆえにおまえがいくら参加したいと言っても腕が見合っていなければ合同訓練に参加することは認められない」

「なるほど……わかりました。よろしくお願いします」


 ひとまずは標準装備である剣と弓を順番に使ってみて現在の実力を調べる運びになった。優作はまず、ククルカから木剣を手渡される。


「さすがに実力がわからないから、真剣を持たせるわけにはいかない」

「まあ、そうですよね」


 優作としてもいきなり真剣なんか持たされても困るところだったので、少し安心した。

 優作は受け取った木剣を軽く振ってみた。案外しっかりした木でできているのか、ずっしりと重さを感じる。慣れないうちは、両手で持った方がいいかもしれない。


「おまえの剣の相手は友里根にしてもらう」

「はい。わかりました」


 優作はとりあえず、昔テレビで見た記憶を頼りに剣道の正眼の構えをしてみる。それを見た友里根には、ため息を吐かれた。


「完全にど素人じゃない。肩張りすぎ。力入りすぎ」

「え、そうか。じゃあ、こんな感じか」


 優作は友里根に指摘されて、できる限り脱力した感じで構え直す。


「まあ、最初よりはマシかしら」


 友里根もククルカから木剣を受け取ると、片手で構える。やや半身になって、剣を突き出すような構えだった。その姿は堂に入っており、対峙しているだけで優作は緊張が高まっていくのを感じた。


「いつでもいいわよ」


 友里根は余裕に満ちた表情で、優作が攻撃するのを待っている。完全に舐められているようだったが、優作は初めて会った時の友里根の剣技を思い出し、それも当然かと納得した。あの時は本当に一瞬で優作は首元に剣を突き付けられていた。正直なところ優作がいくら本気で切りかかろうと、友里根には勝つことはできないだろう。


(でも、一撃くらいは入れてやりたい)


 おそらく友里根は優作のことを、たいしたことがないと思って油断しているはず。その隙をつくことができれば、一撃くらいは何とかなるのではないかと、その一点に活路を見い出した優作。


「さっさと来なさいよ」

「わかったよ」


 優作は小さく木剣を振りかぶり、友里根の構えている木剣目掛けて振り下ろした。身体ではなくあえて武器に攻撃することで意表を突く作戦だ。そして、武器をわずかでも弾くことができたら、そのまま体当たりを喰らわしてやろうと考えていた。まさか友里根も優作が木剣以外で攻撃してくるとは思わないだろう。


 優作の振り下ろした木剣が友里根の木剣を叩き落とし――はしなかった。当たったと思った瞬間、友里根は優作の木剣による一撃を手首の返しによってあっさりと受け流してしまった。そのため、振り下ろした優作の一撃はそのまま地面に突き刺さり、大きな隙ができてしまう。そこを友里根が見逃すはずもなく、足をしたたかに打ち据えられた。


「いってぇ……」


 優作があまりの痛みに怯むと、友里根は容赦なく、続く一撃で優作の手から木剣を弾き、がら空きの胴を蹴り飛ばしてきた。


「な、何すんだよ!」

「剣での戦いとはいっても、戦場では剣以外で攻撃されることだって、普通にあるわよ」

「それはそうだが……」


 優作も、まさにそうしようと思っていたところだが、そんなことをする間もなかった。


「……それにしても弱すぎ。お話にならないわね」


 友里根はやれやれと言った様子で木剣を地面に突き立てると、優作を見下すような目で見据えてくる。


(悔しい……)


 さすが優作も勝てないことはわかっていたが、それでも同い年くらいの女の子に手も足も出せず、一方的にやられてしまったショックは大きかった。


「全く。依夜様がなんであんたみたいなのを特別扱いしているのかわからないわ。こんなんじゃ、護衛団としては糞の役にも立たないじゃない」

「友里根。この男については意見無用であると言ったはずだが?」

「わかってますってば。ただの独り言ですよ」


 友里根は不機嫌そうな顔をして優作の方へと向き直る。


「ほら、いつまで座り込んでいるのよ。次は弓をやってみなさいよ」

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