第6話 殺人未遂事件

 教授の研究室に怪しい女がやってきて、婚姻届けを突きつけるなどいう夢を見てから、二週間くらい経った頃であろうか。

 そんな夢を見たという記憶がほとんど消えかかっていた頃のことである。一週間もすれば、その夢のことは覚えていても、その夢を見たのがいつだったのかということを覚えていないという状況に陥っていたが、急に思い出すきっかけになる出来事が起きてしまうと、まるで昨日のことだったように、その内容が頭の中に呼び戻され。その夢を見た時期というのが、二週間前だったという、要するにあらかたの記憶が戻ってきたのだった。

 その日は、珍しく夢を見たという意識があったわけではない。ちょうど朝から大学に行く日で、いつものように、朝モーニングサービスを食べに、馴染みの喫茶店に寄った。

――あの奇妙な話をしていたというのは、いつのことだったのかしら?

 と思い起こしてみたが、すっかりいつだったかということは覚えていなかった。

 だが、週に一度いくお店ということもあって、一週間後には、

「まるで昨日のことのよう」

 という意識になっていた。

 そして次の週には、

「おとといのこと」

 というように、一週間を一日の単位として自分の中で刻む時間があることを感じさせた。その意識を理解しているのだから、自分でも不思議な感覚だったのだ。

「やあ、いらっしゃい」

 といつものように、マスターが声を掛けてくれた。

 その日は、いつもよりも学生の姿が少なく、その分、サラリーマンが多いような気がしたが、そういえば、おかしな秘密結社の話をしていた学生たちをもうそこで見ることはなかった。

 あの話にどこまで信憑性があったのか分からないが、記憶の中で、ある程度引っかかった状態があるため、きっとなかなか記憶の奥に封印することはないのだろうと思われた。

「記憶などという曖昧なものは、そう簡単に消えはしないが、なかなか覚えているものでもない」

 というのが、玲子の考え方であった。

 しかし、あの連中が話していたことは、どうしても頭の中から離れない。あれがいかにも、

「予知夢」

 を意識させるものであったということは自分でも意識しているので、そのせいもあってか、鮮明とまでは言わないが、忘れるという要素が見つからないくらいだった。

 そんな時、普段は昼から登校するはずの友達が、入り口の扉を開けて入ってきた。まさか知り合いとこんな時間に遭うなど、想像もしていなかっただけに、入ってきた時もその存在に気付かなかった。

 ただ、

――何となくせわしい人が入ってきたな――

 という程度だったが、自分を訪ねてやってくる人がいるということも、想像していなかったことだった。

「玲子、やっぱりここにいたのね?」

 と言って、隣に座った彼女は、普段からあまり相手に気を遣うことはないタイプの女性だった。

 それは玲子の方とて願ったり叶ったりで、変に気を遣う人間を相手にしていると、こっちが疲れるというものだ。

 だから、ズケズケと入ってきて、隣にいきなり座っても、まったく違和感があるわけではなかった。それでも、何か普段とは少し違っていることが分かったので、

「どうかしたの?」

 と聞いてみると、

「うん、ちょっと今朝の新聞を見てごらんなさいよ」

 というではないか、

「新聞? 何かあったの?」

「うん、あったのよ。あれはM新聞に載っていたんだけどね」

 と言って、新聞受けから、問題のM新聞を持ってきた。

「ここ、見てごらんなさいよ」

 と言われて、そこを見ると、

「K大学文学部の、佐藤教授が負傷」

 という見出しになっていて、記事の内容を読むと、

「昨夜、八時頃、K大学文学部の佐藤教授が、大学からの帰宅途中、歩道橋から転げ落ちて、全治二週間のけがを負った。命には別条はないが、教授の供述によると、誰かに突き飛ばされたということで、現在、警察の方で、傷害事件として捜査を始めた」

 というような内容の記事が書かれていた。

「あなた、よく気が付いたわね」

 と玲子がいうと、

「私、朝起きて新聞を読むのが日課になっているのよ。就職活動もそろそろなので、新聞を読むようにしているんだけど、うちの大学の名前があったのでビックリして見たら、なんと佐藤教授の名前が書いてあるじゃない。これは尋常ではないと思って、急いであなたに知らせようと思ってね」

 と、彼女は、教授のゼミ生であった。

 だから、というわけではないのだろうが、とりあえず大学に行ってみようと思っていたところ、

「玲子がちょうど朝からの講義があったのを思い出して、来てみたんだけど、やっぱり知らなかったのね」

 というではないか。

「ええ、まったく知らなかったわ。でも、誰かが突き飛ばしたなんて、物騒な話ね」

 というと、

「ええ、それがね。実はこの間から少し教授の様子がおかしかったのを私は気付いていたんだけどね」

「おかしかった?」

「ええ、何かに怯えているような、それでいて、怯えているわりには、あまりまわりを警戒していないような、そんな矛盾している雰囲気があったのよね。矛盾しているように見える行動って、結構目立つものじゃない。だから私にもその違和感が分かったんだけど、でもまさか、本当にこんな事件が起こるなんて、ビックリだわ」

「場所はどこなんでしょうね?」

 と玲子が聞くと、

「私はゼミ生だから、ゼミの仲間たちと一緒に何度か教授の家に遊びに行ったことがあるのよね。そこはマンションなんだけど、住宅街を通り抜けて、住宅街の奥の方にあるんだけど、マンションの近くあたりはあまり人通りもなくて、大通りに面しているところでも、歩道を歩いていると、なかなか人と出会うことがないくらいなのよ。きっとそのあたりの歩道橋だったんじゃないかしら?」

 と、彼女は言った。

 もちろん、新聞の短い記事だけなので、まったく信憑性のない話だが、玲子は何となくでも想像することができた。

 そして、思い出したのが、教授の部屋で見た婚姻届けの女である。

 あれは夢だったはずなのに、今また記憶から弾き出されるように出てきて、当たり前だと言わんばかりに、意識の方に帯同している。

――予知夢だったということかしら?

 と思うと、ゾッとしてきたが、これは人にいうような話ではない。

 第一、話をしても誰が信じるというのか、限りなく信憑性がゼロに近い話ではないか。まるで子供のようなこんな話、バカにされるだけがオチである。

 するとそれを聞いていたマスターが、

「そういえば、この間、佐藤教授がいらしてたんだけどね。その時、奥の方で数人の学生がタムロしていたんだけど、その様子をしきりに気にしていたのを覚えていますよ」

 と、話に割り込んできた。

 マスターが人の話に割り込んでくるなどということはあまりなかったことなので、よほど気になる話だったのかと思ったが。マスターのその言葉で、玲子とその友達はまるで金縛りにでも遭ったかのように、一気に緊張が増してくるのを感じていた。

「どういう話をしていたんですか?」

 と友達が聴いた。

 玲子も聴きたかったが、自分から聴くのが怖かったと言ってもいい。なぜなら、何となくその答えが分かったような気がしたからだった。果たしてマスターの口から出てきた話は、まさしく玲子が思っていた通りの話であり、初めて聞いた話ではないということを友達には悟られないようにしないといけないと思うのだった。

「内容としては、何とも雲を掴むような変な話だったんです。話のすべてが聞こえたわけでもなかったからですね。でも、ハッキリと聞こえたのは『殺人未遂までなら』という言葉だったのは確かですね」

 というではないか。

「殺人未遂までって、それってどういうこと? まるで殺人未遂未満の犯罪を引き受けるとでも言いたいのかしら?」

 と言った友達を、玲子はビックリして見つめた。

 玲子の考えとしては、

「殺人未遂まで」

 という言葉だけで、犯罪請負を連想するというのは、よほど礼装能力が強いか、自分もかつて似たような経験をしたことで、無意識に連想したことでもない限り、浮かんでくる発想ではないような気がした。

「そういうことなんじゃないですかね? ただ、どうして教授ともあろう人がそんな言葉を気にしていたのかがよく分からないんですが、何かピンとくるものがあったんですかね?」

 とマスターがいった。

「ということは、教授は自分が彼らに何か殺人未遂未満のことを依頼したいという思いでもあったということなのかしら?」

 と友達がいうと、

「そうだったのかも知れないよ。人というのは、何を考えているか分からない時があるからね。特に佐藤教授は、よくここに一人で来て、本を読むでもなし、新聞を読むでもなし、ただボーっとしていることが結構あるからね。そんな時は一体何を考えているのか、私には分かりかねますね。やっぱり大学のお偉い先生なんだって思ってしまう」

 今まで大学生や教授連中を相手にずっと商売してきたくせに、どうもこのマスターは、大学生や教授たちを見ていて、羨ましく感じているようだ。

――大学進学もできずに、高卒でどこかに就職して、そして脱サラしたのかな?

 と思った。

 そして、大学に行けなかった思いを、ささやかに大学の近くで店を開くことで叶えようという考えだったのかも知れない。

 最初はそれでもよかったのだが、そのうちに気が付けば、学生たちに嫉妬してしまっている自分がいたというのが、現状なのかも知れない。

 なるほど、こうやって毎日のように学生を見ていれば。自分の過去と照らし合わせて、まったく違う人生であることから、恨めしい気持ちが出てきたとしても無理もないだろう。出してはいけないという気持ちと、ストレスを抱えたくないという矛盾した気持ちをいかに発散させられるかが、マスターの悩みなのではないだろうか。

 そういう意味で、玲子などのように一人で来る学生に話しかけたりするのも一つなのかも知れない。そんな時マスターは、自分が学生にでもなったような気分になるのだろうか?

 ただ、マスターの前職について一度聞いてみたことがあった。

「マスターは前どこで働いていたんですか?」

 と聞くと、

「ああ、地方銀行だったんだけどね。途中で脱サラして喫茶店経営を始めたのさ。でもね、最初から喫茶店をしようという思いがあったわけではないんだ。ずっと銀行員で終わるつもりもなかったんだけど、仕事をしていると、急に虚しきなってきてね。自分がいくら頑張っても出世は頭打ちだし、給料も仕事に見合うだけのものはない。しかも取引先や上司からはいろいろ言われて、その板挟みには、いい加減息苦しさで窒息しそうな気分になったものだったよ。だからと言って、喫茶店を初めてから順風満帆だったというわけでもない。何しろサラリーマンのように、毎月決まった月給が貰えるわけではないからね。冊皿して一番の不安は、その不安定さだったんだ。目に見えない不安ほど怖いものはないからね。でも、実際にやってみると、やりがいはあった。会社のように、成果を上げても、結局は会社の利益が出るだけで、こっちにはほとんど何もないからね。やる気はなくなるというものだよ」

 と言っていた。

 結構、生々しい話だったことで、ほぼその話にウソはないだろう。少しは盛った部分はあるかも知れないが、必要以上なものではない。そう思うと、マスターの気持ちが分からなくもないということと、これから迎える就職活動に、今までになかったリアルな不安感が押し寄せてくるような気がして、

――聞かなきゃよかった――

 と感じたのも事実である。

 他の学生たちに対してはどうか分からないが、玲子に対しては、最近かなり打ち解けているように思えた。玲子の方からも結構話しかけることもあるし、この店に通うのは、マスターと話したいからだと感じているのも事実だった。

「でも、殺人未遂までということは、絶対に殺したりはしないということよね? でも、謝って殺してしまうということもないわけじゃない、その場合どうなるのかしら?」

 と友達が言った、

「そうよね、そうなると殺人罪になるわけだけど、報酬どころの問題じゃないわよね、前もってそういう話は依頼主と引き受ける方とでなされているのかしら?」

 と玲子がいうと、

「いや、それよりも、最初からそれなりに何か規則のようなものが決まっていて、その規則を依頼主に提示したうえで、それでも依頼するかどうかを、再度聞くんじゃないのかな?」

 とマスターはそう言った。

「そうね。それが一般的かも知れないわね。いえ、そうじゃないと、こんなバカげた死具とは成立しないわよ。要するに寸止めがどの時点まで通用するかというゲームをやっているようなものですものね」

 と友達がいうと、

「それって、いわゆるチキンレースのようなものなんだろうね。アメリカの若者などは、よく度胸試しにやったと聞くよ。日本でも映画やドラマでたまに昔の番組をやっていたりするけど、港から、海に向かって車を競争させて、どっちが海に落ちるギリギリまでブレーキを踏まないかというレースよね。もちろん、海に落ちればそれは負けになるんだけど、実際に始めると、勝ち負けよりも恐ろしさの方が先に立って、怖くてブレーキを踏んでしまう者でしょうからね」

 とマスターが詳しく補足した。

 玲子も、チキンレースという言葉は聞いたことがある。

 ここでいうチキンというのは、

「臆病者」

 という意味で、

「どちらが臆病なのかを競う競技であり、決して度胸のあるのがどちらなのかという競技ではないことは、チキンという名前が示しているんでしょうね」

 と、玲子は言った。

「でも、やっている本人たちは、飼った方に対して度胸があるという称号を与えることでしょうね。もっとも、そんな称号を貰ったとしても、もう二度とやりたくはないと思うんでしょうけど」

 と友達がいうと、

「そういう意味では、彼らの言っていた殺人未遂まで引き受けるというのは、もう遊びやゲームの世界ではないよ。犯罪が絡んできているのだから。もっとも犯罪をゲーム感覚でする人たちもいるから、そういう類のグループなのかも知れない」

 というマスターに対し、

「でも、ゲーム感覚でやっていいものなのかしら? 生殺与奪の権利という言葉があるけど、誰が誰に対してそんな権利を持っているというのかしらね? 親だって自分が生んだという理由だけで、子供を殺すことは許されない。逆に許すことができるとすれば、親だけなんじゃないかって思えてくる」

 そんな友達の話に対して、

「やっぱり、そんなことが現実にあるなんて、ありえないですよ。あれは私の聞き違いだったのかも知れませんね」

 とマスターがいまさらのようにいうと、

「じゃあ、教授がけがをしたというのは?」

「ただの偶然でしょう。この場合の偶然というのは、かなり薄いところではあると思うんだけど、殺人未遂請負業の信憑性の方が限りなくゼロに近いと思えば、思い出してしまったことを安易にここで口に出してしまったことを、私は今後悔しているんだ」

 とマスターがいうと、

「それって、本当のことだったのかしら? 夢だったとかではなくて?」

 と聞くと、マスターが少し驚いて、

「実は、僕もそのことはずっと考えていたんだ。でも、どこかリアルさが残っていて、その証拠に目が覚めてからも、そう簡単に忘れられそうにもない。もし夢だったとしても、普通の夢とはわけが違う。そう思うとその夢がまるで予知夢のようなものだったのではないかと思うんだ」

 と言った。

「ひょっとすると、予知夢と考えられる夢は、複数の人が見ているのかも知れないわね。そうだとすると、実際に起こったことを、誰も夢に見たって怖くて言えないと思うのよ。それを暗示させるのが、夢をなかなか忘れないということ。それは肝心な部分、つまり一緒に共有してその夢を見ていた人が、夢の中で消えているのを、辻褄を合わせるように記憶しているという証拠なのかも知れない」

 と、玲子は普段から見ている予知夢をそのように解説した。

「そうなると、皆が見ている夢だということになるわよね。もちろん、究極だけど。だとすると、夢って普通は他の人と共有なんかできるはずがないって思うじゃない。だから、同じ夢を見ていると感じた時、無意識になのか意識的になのかは分からないけど、辻褄を合わせようとするんだと思うのね」

 と友達は言った。

「どういうこと?」

 と玲子が効きなおすと、

「つまりね。予知夢というものを普通は言葉としては聞いたことがあるけど、ほとんどの人が半信半疑、どちらかというと信じていない人の方が多いんじゃないかって思うのよね。それが、辻褄合わせによって生じることであり、皆が見ているものは夢ではなく、実際に起こっても不思議のないことを考えているだけなんだと思い込んでいるのかも知れないと思うのよ。確かに、それだっておかしいことだって思うわよ。夢でもないのに、しかも、根拠もないことを誰もが夢で見たかのように感じていることをね、でもそれを夢として片づけると、夢を共有していることになり、その矛盾とを比較して考えると、現実世界での矛盾の方が、納得できるというものでしょう? いや、納得したいと思っているのかも知れないわね」

 それに対して、玲子は、

「一概に、皆そうだとは言えないかも知れないわね。私の場合は、現実にないようなことを夢として架空の世界の出来事として考えようとする方なので、そういう意味では、この場合は二つの両極端な考え方があって、きっとそれはその人の性格によって左右されるものなんじゃないかしら?」

 二人の話をじっと聞いていたマスターだったが。

「確かに玲子さんの考え方には一理ある気がするな。どっちも信憑性が半々くらいにあるんだったら、どっちも正しくて、どっちも間違いなんじゃないかって思えてくるんだけど、僕はどっちなのかな?」

 と、マスタはまた考えてしまった。

「じゃあ、玲子さんの考え方でいけば、その人は必ずどちらかの考え方になってしまうということになるのかしら? その時々で変わるという考え方はないおかしら?」

 と友達がいうので、

「私にはないと思っているわ。やはりその人が臆病な人だったら、夢で片づけようとするだろうし、臆病ではないけど、非科学的なことをあまり信じない人は、夢自体は信じているんでしょうけど、夢という者をあまり多岐にわたって活用するような考え方にはならないと思うの」

 と玲子がいうと、

「じゃあ、あなたは、予知夢というものの存在は信じているの?」

「私は予知夢というものはあると思っているわ。ただ、それが普通の夢のように眠っている時に見る夢かどうかというのは分からないと思うの」

「どういうこと?」

「例えば、人は急にボーっとしていることがあるじゃない。特にいつも何かを考えているような人なんだけどね。その時には自分の世界に入り込んで、自分の世界を作っていると思うんだけど、それも、ある意味、夢に似ていると思うのね。つまり、起きていて見る夢とでもいえばいいのかしら?」

「ほう、その話には僕も興味があるね。起きている時に夢に似たものを僕も見ることがあるんだ。急に誰かに声を掛けられて、ふいに我に返るんだけどね。その時結構長い間考えていたつもりでも、時間はまったく経っていなかったりするの。自分の意識だけ、急に別の次元に飛んでいって、何かを持って戻ってきた時には、まったく同じ場所に戻ってくるとでもいえばいいのかな? それを考えた時、相対性理論の発想を思い浮かべるんだ。あれは高速で移動した場合、拘束であればあるほど時間が遅くなってしまって、戻ってきた時には数百年経っていたとかいう、いわゆる浦島太郎の玉手箱のような話だね」

 とマスターがいうと、

「あら? でも、今のお話では、時間が経っていなかったというんでしょう? 浦島太郎とは逆よね?」

「うん、そうなんだ。だから現実世界とは違うという意味で、それが夢の世界だったと考えることもできると思うんだ。そういう意味で、予知夢というのを二人とも信じてはいるが、それを夢として解釈するか、現実として受け入れようとするのかで割れているというのは、今の僕の発想ともリンクしていて、話し合ってみるには十分なお話ではないかと思ってね」

 という話にマスターが言及し始めたので、

「ちょっと待って、少し話が飛躍しすぎてやしないかい? 元々は教授が聴いたという、そのおかしな連中のことから始まったお話だったのよね」

 と友達が言った。

「そうだね、話を本当はここで終わらせたくはないけど、これでは話が脱線して、枝葉ばかりになってしまって、結論がまったく見えてこないような気がしてくる」

 とマスターがいうと、

「となると、ここでいろいろ話をしていても、結局は想像の域を出ることはないので、教授がどうして怪我をしたのか、確認してみるのが一番ね」

 と、友達が言った。

 玲子は一度自分の耳で聞いているという手前、その話の信憑性が分かっているような気がした。

 とにかく、その日は、

「予知夢というものにはいろいろな考え方ができて、科学的に証明ができるはずはないとしても、結局その正体を考える場合、科学とは切っても切り離すことのできるものではないのだ」

 という意味の会話を三人でしたという意識を持つのだった。

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