第3話 思い込みの激しさ
今回のこの事件は、玲子の性格である、
「思い込みの激しさ」
が招いたと言っても過言ではないだろう。
喫茶店で聴いた、
「殺人未遂までは承る」
というサイトの情報を、他の人が聴いているということを意識してのことなのか、それとも自分たちの内輪話しで盛り上がっているだけだと思い込んでいるからなのか、サイトの詳しい話までし始めた。
それを盗み聞くようにしてメモに取った玲子だが、その時は、まだこのサイトを利用してみようなどと思ってもみなかった。
その時はまだ実際に佐藤教授を狙い撃ちにするつもりがあったわけではない。まだ話を聞いた時点では、
「私と教授との信頼関係は絶対なものがある」
と考えていたからだ。
一度、教授のことを疑うという思い込みを発揮したせいもあってか、教授の真心に触れたことで、玲子は完全に、教授の崇拝者になっていた。
「誰が何と言おうとも、私は教授を信じる」
という強い意志を、思い込みが激しいといういい意味で尽くすことが、自分のためでもあると玲子は思ったのだった。
マイナスのどん底から、プラスの頂点に一気に上り詰めると、思い込みしかないのは当たり前のことで、何があっても、自分は思い故小見が激しく、それは悪いことではないと思っているので、一点を見つめてしまうと、そこはまるでスポットライトが当たったかのようではないか。
いつも夢の中でまっくらな中に映し出されるスポットライト、それはまさに思い込みの激しい自分のことを分かっていて、それを表現しているということに他ならない。
教授に直球で意見を言った時、もし教授が激高でもすれば、こんな気持ちにはならなかっただろう。真面目に接している自分のことをよく分かってくれ、教授も真面目に接してくれていることが分かったことで、教授に興味を持った。
まだ、その時には恋愛感情などはなく、まだ疑惑もすべてが解消されたわけでもなかった。ただ、玲子は自分のことを、
「少しでも信じれる相手であれば、徹底的に信用できるように、自分で証明しなければならない」
という衝動に駆られるのであった。
教授はそんな相手であった。玲子が怪しい目で見たとしても、そこにいるのは、いつもの教授に変わりはなかった。
要するに、どんな方向からどんな目で見ようとも、まったく変わった様子を感じないのは、相手がこちらがどんな方向であっても、正対して見てくれているという証拠であり、それが、
「誠意というものではないだろうか?」
と感じたのだ。
教授に誠意を感じると、自分が今まで誠意なるものを自分に感じたことのないことが、真面目で潔癖症な自分を作り上げてきたのだということを分からせてくれたような気がした。
佐藤教授はまだ四十歳を少し超えたくらいであろうか。教授になるまでにもあっという間だったというから、相当、その道の分野では、第一人者としての権威を持っているということなのだろう。
私生活では、まだ結婚はしていない。付き合っている人もいないことから、学生の間では、
「女性に対して贔屓をしている」
などという根も葉もないウワサが立ってしまったのではないだろうか。
教授というものが、
「自分の研究を好き勝手にできて、いいよな」
と言っている人もいて、勘違いされがちだが、一緒にいると、その孤独さがにじみ出て居るのがよく分かる。
誤解されやすいのも、きっと孤独の裏返しがわがままな態度に見えるからなのかも知れないと玲子は思った。
教授はとにかく、表に自分の孤独を表そうとはしない、隠そうとすればするほど、露骨に孤独を表に出しているあざとさを感じさせるものだが、教授の場合はそんなことはなかった。
本当に一人で勝手に研究をしているように見せているので、まわりは勘違いするのだろう。中にはそんな自分勝手に研究ができる教授を妬んでいる人が学生の中にいるかも知れない。
教授連中の中でなら分かる気もするが、自分たち学生の中で教授に嫉妬する人がいるとすれば、好きな女性を教授に取られたと思っての妬みではないだろうか。ただ、教授はウワサにあるような、相手の弱みに付け込んで自分のものにするということはしない。
いや、そういう輩の教授がいたとしても、それはあくまでもその時だけのことであって、決して尾を引いたりはしないだろう。長く相手を脅迫による拘束などをすると、いつ何時報復を受けるか分かったものではない。警察が介入してくれば、すべてが終わりなのだ。
そういう意味で、つまみ食い程度にしておかなければ自分の立場が悪くなると思う教授は、
「一人には一度きり」
と考えるものではないかと玲子は考えた。
だが、佐藤教授にはそんな下心はほとんどなかった。別に女が嫌いだというわけでもなく、
「女よりも研究の方が今は楽しい」
と思っている人で、男子学生の中には、そんなことは信じられないと思っている人も相当いるかも知れない。
それは自分に照らし合わせてであるが、二十歳前後の学生と中年男性の比較が一言でできるとも思えないし、一概に言えるものでもないが、どちらが精力に満ちているかを考えると、分かりそうなものである。
教授は研究が三度のメシよりも好きだと言っていた。
玲子も思い出してみると、子供の頃にゲームをしていて、ご飯を食べるのも忘れて熱中したことがあったのを思い出した。そんな思いは誰にでもあったはずで、それを思い出さずに相手だけを見ているから、誤解が生じるのだろう。
そもそも、彼女のことだけに、最初から盲目になっていたとしてもそれは仕方がないだろう。本当は、そんなバカな男子学生のことなど気にすることなく、教授のことは自分だけが分かっていればいいと思っているだけでよかったはずだ。むしろ、そんな自分の方が教授を健気に思っている気持ちを客観的に見ると、こんなにもいじらしい気持ちになるのが心地よかったのだ。
もちろん、自己満足でしかないのは分かっているのだが、人を好きになるというのはこういうことではないのだろうか。特に年上で、かなり年の差もある相手であり、さらに尊敬する教授ということになれば、だいぶ複雑な思いが頭の中に渦巻いていたに違いない。
――まさか、私がこんなことを教授に対して思うようになるとは思ってもいなかったな。何と言っても最初は、教授が相手の弱みに付け込んでいるという根拠のないウワサに振り回されたことから始まったのだ。これをミイラ取りがミイラになるということわざに単純に引っ掛けてもいいものなんだろうか?
と思うようになっていた。
教授に対して、自分が勘違いしていたということが分かった時、
――ひょっとすると、教授のことを好きになるんじゃないかしら?
と感じた。
しかし、そう感じた時、すでに好きになっていたのだということも、予感としてあったことは否めない。
教授を好きになったことは自分の中で驚くべきことであった。しかも、まだ教授のことを悪い人だという意識がある中で、すでに好きになっていたということである。つまりは自分に、予知能力のようなものがあったのではないかと思えたのだが、それはあくまでも自分が、
「悪いと思っている人を好きになどなるはずはない」
という思いの中にあることだった。
この思いは自分の中にある約束事のようなものであり、これを壊すことは自分が自分でなくなることのようにまで感じていることであった。
今、夢を見ている時、
「これは予知夢なのかも知れない」
と感じるのも、このあたりから派生した思いであった。
予知夢を見ると感じたのは、根拠のない思い付きなどではないのだった。
玲子は、自分のことを控えめな性格だと思っている。だからこそ、
「他人と同じでは嫌だ」
という性格に起因しているのではないかと感じるのだが、
控えめというのは、人よりも前に出ないということを一番に考えることで、あまり悪いことのようには思われない。特に女性の中には、昔からある
「大和撫子」
などという言葉があるように、控えめな性格の女性は好かれる傾向にある。
だが、最近はそうでもなく、活発な女の子の方が人気があるのは、それだけ男性が弱くなってきたからなのか、それとも、男尊女卑の考えが古いとされるからなのだろうか。
ただ、男尊女卑という考えを改めようとする考えは、明治の昔から脈々と続いてきたもので、今に始まったことではない。実際にそれが実現し始めたのは、戦後に自由主義になってからなのだろうが、そんなにすぐに万事が自由で平等というわけにはいかなかった。
今でも続く貧富の差、さらに学歴社会という風潮。
学歴社会は、逆に自由になったから生まれた産物と言えるかも知れないが、自由競争というものの裏には、勝者と敗者というものを作り出すという旧態依然たる歴史同様、いくら時代が変わろうとも、形を変えたとしても、その存在は残り続けるのだ。
自由競争、自由主義に対しての理想郷的な考え方が社会主義であり、その進化系が共産主義であった。
だが、今の時代でそれらがどうなっているかを考えると、結局共産主義的考え方でも自由主義の矛盾を解決することはできない。それを証明したにすぎなかったのだろう。
話は逸れてしまったが、玲子は自分が控えめな性格であるということを、子供の頃から意識してきた。同じことを考えていても、相手が先に発言しようと虎視眈々と狙っているのが分かると、素直に譲ってしまう。下手に前に出てしまうと、言い出しっぺになってしまい、自分がその言葉の責任を負わなければならなくなるということが分かっているからだ。
前に出ようとする人がそこまで意識しているのかどうかは分からない。しかし、前に出る人で、控えめではない人というのは、玲子が知っている限りでは、
「おだてに弱い」
という人が多かった。
おだてに弱いと、言われたことを実行しなければ気が済まない。
そのつもりで相手もおだてるのだ。
おだてられてその気になる方も気分がいいし、おだてる方も、自分が何もしなくても、相手が行動を起こしてくれる。何と言っても責任は行動を起こした人にあるのだ。これほど楽なことはない。
そういう意味で、お互いにメリットが大きいという意味で、責任を負わされた方も、それだけの技量があれば、乗り切ることはできるだろう。しかし、ただ単におだてに弱いだけでは、すぐに本性がバレてしまい、結局まわりの誰からも相手にされなくなってしまうことだろう。
「梯子を掛けておいて、相手が上ると、その梯子を蓮してしまうようなものだ」
そんな状況に陥ると、その人はきっと人間不信だけではなく、自己嫌悪も一緒に襲ってきて、押しつぶされてしまうだろう。
梯子を掛けた連中にはそこまで面倒を見切れるわけもない。おだてに乗ったのは誰でもない本人なのだから。
これはある意味、苛めよりも陰湿かも知れない。表向きはすべての責任はおだての乗って行動を起こした人にある。おだてた連中は、
「やつができるって言ったから、任さただけだ」
というに決まっている。
普段からおだてられたことのない人であっても、逆にいつもおだてられている人であっても、おだてられて悪い気がするわけはない。それまで人から相手にされなかったような人は、自分が急に大人物にでもなったかのような自信過剰に陥ってしまうことで、急速な変化についていけなくなってしまうのだろう。
おだてというのがどれほど怖いものであるか、おだてている方は分かっているのだろうか。自分たちが楽をしたいというだけで、人を担ぎ上げたことが、一人の人間の人格を壊してしまうという責任に気付いているはずもない。気付いていれば、そんなことはできないはずだからである。
玲子は、おだてる方も、おだてられる方も嫌いである。同罪とまでは言わないが、おだてられてその気になる方もどうかしていると思っている。
「自分のことを、結局は分かっていないだけなんじゃないか?」
と感じるのだった。
そんな風に考えるようになると、自分は絶対に先頭に立つことを望まない。先頭に立つということは、まわりから見れば、
「おだてられて、調子に乗っているんじゃないか?」
と思われていると感じるからだった。
そして、最近は自分が控えめな性格であることが、別の現象を引き起こしているような気がしてきた。それが、
「予知夢」
である。
先のことが分かるはずもないのに、まるで先のことを夢で見たかのように思うのだが、実際には、夢に見たことが近い将来現実になるという確信めいたものが自分の中にあった。
このことが他の人にはずっと黙ってきたことであったが、もしそんな話をすれば、
「あなたは、頭の中がお花畑なんじゃないの?」
と言われかねない、
お花畑というのは、
「何も考えていなくて、めでたい人」
のことをいう言葉のようだが、最初それを聞いた時、その意味がよく分からなかった。
最初に聴いた時感じたのは、
「お花畑というように、華やかな場所に自分がいて、自分は何もしなくても目立つことができる」
というような意味だと思っていた。
まったく正反対の考えを抱いているにも関わらず、自分の中でお花畑と言われると、まるでおだてられたかのように思えたことから、どちらにしても自分にとってはあまりいい意味ではないということは分かっていた。
だが、その頃から自分が控えめだと思うようになると、夢をたくさん見るようになった気がした。
「きっと自分のことが少しずつ分かってきた証拠なのかも知れない」
と思ったのだ。
ただ、控えめだということが予知夢に結び付いてくるのかということをよく分からなかった。
自分の中で予知夢というのは、
「自分のこれから起こることを夢に見る」
という感覚ではなかった。
どちらかというと、
「夢に見たことが現実になる」
という意味だったのだ、
言葉をひっくり返した解釈であるが、前者は積極的な考えで、後者は消極的な考えである。特に後者は現象という意味で、他人事のように感じられることでもあった。
さらにもう一ついうと、前者は、
「自分が大願を成就する力を持っていて、それを実現するために見るのが、予知夢である」
という考えで、逆に後者は、
「夢を見ることで、自分の大願が成就されるという意味で、夢を見ることがすべてであり、自分の力が及んでいるとすれば、夢の中の自分の成果である」
という考えだった。
玲子の考えは、明らかに後者である。
前者は積極性が夢によって実現させるための導きがあるというもので、後者は、夢にすべてを導かれることで、夢を見るということだけが力だという消極的な考え方であった。
実際に予知夢というものを見る人が他にもいると思うのだが、前者なのか、後者なのか分からない。考えられることとして、この二つが頭に浮かんだのだが、もし玲子が前者の性格であったとすれば、後者のことまで気がついたりしただろうか?
きっと気付くはずはないと思っている。あくまでも前者は猪突猛進。前者に行き着かなければ、後者もないのだ。
控えめというのは、消極的なせいで、ちょうどのタイミングを逃してしまうということを言われるかも知れないが、それに対しての事前の考えが頭の中にあり、決して暴走することはない。行き過ぎてしまって、後ろを振り向くこともできなくなってしまい、二進も三進もいかなくなる自分を想像もできない玲子だった。
玲子は自分が控えめな性格であることをよかったと思っているし、間違った仲間も作ってこなかったのは、控えめな性格が、慎重な性格を作り出し、決しておだてに乗ってしまうような愚かな人間ではないということを自覚するようになっていた。
そんな玲子が、この喫茶店でいかにも怪しげな会話をしている連中を無視できなかったのは、佐藤教授への想いが複雑だったからに違いない。
佐藤教授を恨むようになったのは、一週間くらい前だっただろうか。玲子はたまに教授の部屋を掃除するようになっていた。もう、その頃には二人は男女の仲になっていた。さすがに教授のマンションにまで押しかけることはなかったが、教授の研究室にはよく身の回りの世話をしようと、健気に通うようになっていた。教授の研究室には、ほとんど学生が来ることはないという話だったので、玲子の方も遊び感覚で来ることができて、気が楽だった。
玲子はここまで自分が健気だとは思っていなかった。潔癖症だというのも、思い込みの激しさに対してのもので、整理整頓などの物理的なものへの神経質さではなかった。不倫であるとか、浮気などということに対して潔癖なのであり、普通の恋愛であれば、別に何の問題もない。だから、教授とこのような関係になったことも、
「お互いに成人した大人の男女なんだから、別に問題ないんじゃない?」
と思っていた。
だが、まわりには決して知られないように心がけていた。事実として教授の講義を選択していて、単位の取得もまだの状態なので、知らない人が見れば、
「単位欲しさの行動」
と思われるかも知れない。
しかし、玲子の考え方としては、まったく逆で、
「もし、単位だけがほしいのであれば、一晩だけの付き合いだと割り切った関係になるはずなのにで、こんなに何度も足しげく通っているのは、健気な恋心からだと、普通は思うだろう」
と思っていた。
それなのに、誰にも言わないのは、自分の中で、どこか背徳な思いがあるのか、そんな自分の中にある矛盾した気持ちが、ジレンマとなって、ほころんでいたのかも知れない。
綻びは、自分でも分からないうちに嫉妬心を深めるものになっていたのではないだろうか。
特に思い込みの激しい玲子は、
「教授が他の女性と二人きりになるはずはない」
という思いがあった。
もし、そんなシチュエーションになったとしても、自分という者があるのだから、変な誘惑に流されるようなことはないという自信めいたものがあった。
だが、この自信はどこから来る、誰に対してのものなのだろう?
それを思うと、どこか揺らぐ気持ちを抑えることができない自分がいることに気付いていた。
あれは、教授の研究室で一人で掃除をしている時だった。教授からは合鍵を預かっていた。すぐに、教授はまずいと思ったのか、その合鍵を回収したので、今は持っていないが、教授にはそういうセキュリティ的なところで考えが根本的に甘いところがあった。
玲子の方も最初に合鍵を渡すと言われた時、
――そんなに簡単に合鍵を生徒に渡していいものだろうか?
と感じていた。
いやしくも、大学教授の研究室のカギである。そこには未発表の原稿だってあるはずである。
教授の中には、施錠されていて大丈夫だと思いながらも、本当に心配なものは、大型金庫を設置して、そこにしまい込んでいる人も多いだろう。教授の部屋にも金庫はあるのだろうが、それを果たして使っているのかどうか、合鍵を平気で渡して、しかも後になって慌てて回収するくらいなので、とてもセキュリティに厳しいとは思えない。
研究室の扉はオートロックになっていた。カギを開けて入ると、勝手に扉は閉まり、そのまま施錠される。したがって、カギさえ持っていれば、中に入ってしまうと、中に誰かがいるかどうかということは分からない。電気でもついていれば別であるが、電気を消して忍んでしまえば、分からないというものだ。
玲子はその時、たまたま窓際の掃除をしていた。教授の部屋は三階なので、表の通路を歩く人は見ていて分かった。こちらに歩いてくる姿の中に玲子は教授を見つけたのだが、その隣に一人の女性がくっつくように歩いていた。
さすがに、腕を組むまではなかったが、その様子はただならぬ雰囲気を醸し出していて、女性の方は、実に楽しそうな表情であるのに対して、教授は明らかに緊張していた。二人はそのまま研究室の建物に入ってくるのが分かったので、玲子はとりあえず、電気を消して、奥の部屋の忍んでいることにした。
本当はこのまま出ていこうかとも思ったのだが、このまま出ていくと、二人に鉢合わせをする可能性もある。それは自分が二人の関係を知らないということもあり、どんな表情をすればいいのか、最初から想像もできていないことが辛かったのだ。
教授室は、扉を開けた部屋は奥に教授の机があり、手前には応接セットが置かれている。その奥には書庫のようなものがあり、狭いところであるが、隠れるにはちょうどいい場所であった。
電気を消して、書庫に忍んでいると、まだ教授たちが入ってくるまでのわずかな時間であったが、自分の胸の鼓動が聞こえてくるようであった、二人の関係がどうのというよりも前に、自分が出ることもできずに、ここで二人の話を聴かなければいけない立場になってしまい、その内容がもしも悲惨であったとすれば、女が帰った後、自分がどうすればいいのかを考えられないことが怖かった。
普段から、何かの行動をする時は、その行動が引き起こす結果について、いつも考えているのだが、その日はまったく考えられなかった。
この場に自分の身を置かなければいけなくなったことで、教授とその女の二人に、少なくも恨みを感じた。
――なんで、この私が――
という思いである。
こんな状況はハッキリと言って、プライドが許すものではない。自分の胸の鼓動の激しさと、額から滲んでくる汗とが、自分のプライドをズタズタにしているのではないかと思うと、実に強い憤りを感じるのだった。
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