03 息、続かないから



(図書室。カリカリとペンを走らせる音)

(静かな空間に囁く声が響く)


「……ねぇ」


「……ねぇってば」


「もう勉強飽きちゃった」


「ね~、ちょっと休憩しよ?」


(反応は無い)

「……いじわる」


「もういいよーだ。ひとりで筋肉の本探してこよっと」


(ガタッと椅子を鳴らし、席をたつ)

(数拍おいて、「俺」が席をたち主人公を追う)


「あれ、追っかけて来た。勉強はいいんですか? ガリ勉くん」


「別に~。拗ねてないもん」


「図書室では静かにって……ウチらしかいないんだし、良くない?」


「拗ねてないですぅー」


「……じゃあ、アタシの機嫌が直るようなコト、して?」


「ご褒美の前借り? やったー!

 今日は腰方形筋ようほうけいきん、お願いしまーす」


「後ろ向いて。

 腰方形筋は、下部かぶ肋骨ろっこつ腰椎ようついから始まって、骨盤まで伸びる腰の筋でーす」


「……あぁ、いい。キミの腰つき、最高。

 この、骨盤に向かっての拡がりが……

 ちょ、うねうねしないでってば」


「いいなぁ、男の子だから骨盤はきゅっとしてるけど……

 横に寝かせてもっとぐっぐっとさわりたい……!」


「あ、機嫌? 直った直った。

 交代すんの? いいよー」


「え、向かい合ったまま触るの!? べ、別にいいけど……」


「これ、距離、近くない?

 うん、場所は……そこであってる、けど」


「ん、……なんか、恥ずかしい、かな。だれか来そうだし。

 え? 顔上げてって……」


(ちゅ、ちゅ、と突然のキス)

(驚いて、後ろの本棚によりかかる)


「んっ……!

 ……ふ、ふいうちキスって、ズルいんですけど。

 もう1回って……っ……ん」


(先日のお返しとばかりの、濃厚なキス)


「……んっ……ぁ、……っ、待っ……!」


(ようやく唇が離れ、はぁはぁと、荒い息遣い)


「は、……はっ……息、続かないからっ……!」


(呼吸をととのえながら)


「……そんなさぁ、腰さわりながらキスなんてして……むらむらしたりしないの?」


「するよって、超ハッキリ言うじゃん!」


「……うん。それは、わかってる。

 キミはアタシがイイって言うまで、手出さないって言ってくれたもんね」


「……ありがとね。

 キミのそーゆーとこ、ほんとすき」


「……ね、でもさ。そろそろ触診やめて?」


「腰方形筋、ハマった? いいよねぇ、形がね」






 03 息、続かないから fin.

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