第8話 薬物入手
このパトロンと言ってもいい人物は、名前を大曾根恭三という。昭和の頃から続く製薬会社の二代目社長になるのだが、初代社長は。昭和の終わり頃、バブル景気の流れに乗り、かなりの財を成すことに成功した。その時、下火になりかけていた製薬会社の株を取得し、会社の経営権を取得した。
立て直しには経営コンサルタントを雇ったのだが、その男が優秀で、いかんなく手腕を発揮し、一気に潰れそうになっていた会社を立て直した。
先代大曾根はその男を顧問としてしばらく経営に参加させていたが、次第に彼は他の業種に転換していった時、その手腕を継承する形で、別の人間を推薦した。その男も充実に前の顧問のやり方を継承し、バブルが弾けた暗黒の時代も何とか乗り切ることができたのだった。
しかも、当時はバブル崩壊のせいで、金融機関まで倒産の憂き目に遭い、どこかと合併しなければやっていけないという状況に追い込まれた。そこで救済を求めていろいろな製薬会社が大曾根の会社と合併を要請してくる。顧問によってしっかりと吟味され、大手三社ほどが吸収合併されることになった。もちろん、大手三社の中には、それ以前にそれらの会社に吸収された数多くの中小製薬会社が存在したのも事実で、その中には闇の力を持っている会社もあった。
「会社の規模さえもう少し大きかったら、持ち直すことができたのに」
と言われるような会社である。
そんな企業の細かい情報もしっかり仕入れたうえで、合併会社を吟味した顧問は、実に経営の才能が天才的だったと言えるだろう。
そんな先代の大曾根社長は、会社を大きくしながら、他の事業にも少しずつ手を広げていった。特に、ネットの世界ではその手腕をいかんなく発揮し、乱立する情報をどのように分析するかということに力を入れた。そのおかげで、製薬会社の方も、
「未曽有の巨大企業」
とも言われていたほどになった。
病院とのネットによる情報交換にも力を入れ、市場のほとんどを掌握していたのだった。
そんな会社なので、少々のことで潰れることもなく、優秀な人材もどんどん入ってくる。先代社長としても、ある程度大曾根王国を盤石な形にするまでには至った状態で、二代目である恭三にその職を継がせることができた。
初代社長は会長になり、次期社長には当然のように恭三が就任した。
その時の恭三は年齢として四十二歳だった。まだまだ若いとも言われたが、すでに会社では十年の仕事歴があり、一介の現場社員から、重役へと出世していっての社長就任、そこまでの彼の業績もまずまずのものがあり、ただの世襲による社長交代というだけではなかった。
大曾根製薬は、国内ではすでに群を抜くほどの大企業となっており、合併した会社も、今まで弱かった元々の大曾根製薬の部分を補って余りあるほどのシェアを持っていた。恭三の社長就任は、順風満帆だったのだ、
二代目大曾根社長が誕生したのが、今から三年前だった。さすがに最初の一年はなかなか社員とのコミュニケーションがうまくいkず、苦労もあった。確かにずっと会社に所属していた人ではあるが、その彼とすれば、今までは、
「社長の影に隠れたナンバーツー」
という存在だったものが、今度は、
「自分こそが会社の代表だ」
となるわけだ。
どのように社員と接していいのか、彼とすれば遠慮があり、当然難しい部分も多かった。
上司がそうなのだから、部下がなかなか従えないのも無理のないことである。お互いの遠慮がぎこちなさを生んで、最初の一年は、少し業績が横ばいだった。
しかし、それくらいで崩れるようなやわな会社ではない。二年目以降は、何かに吹っ切れたように経営手腕を発揮し始めた彼は、初代社長とは違った力を発揮し、その影響は会社内以外にも波及していった。
彼が最初に目を付けたのが、広告業界への接触だった。
以前は、テレビCMなどによる宣伝広告は大きなもので、民放褒章局や新聞社、雑誌社のようなマスコミ関係は、宣伝広告費が命だったのだが、そのうちに、
「有料放送」
なる方式の放送が多くなり、視聴者が月いくらという契約で、好きなチャンネルを選択できるという方法が増えてきた。
「野球が最後まで見られない」
「野球のせいでドラマが後ろにずれ込む」
などという問題が昔からあった。
それは、それぞれに専門チャンネルがなかったからで、かつての放送能力に限界があったのでしょうがないことであったが、そうなると、民放というのは、お金を出してもらっているスポンサーの言いなりである。そこに付け込んだのが、専門チャンネルの誕生であるが、野球でも試合終了まで行うという宣伝で、しかも、チャンネルが増えてくると、自分の贔屓チームを、年間すべての試合、試合開始前の練習から、試合終了後のセレモニーまですべてを見せるという宣伝もできるようになる。何しろそのチームのファンのためのチャンネルなのだがら、どんなに贔屓した内容を放送しようとも、やりすぎには当たらない。それがファンにとってもありがたいもので、契約する人も、
「月間千円未満で見れるのであれば、安いものだ」
と言えるであろう。
しかも、スポーツとドラマ、音楽番組などをセットで月間恵沢などというセット価格もあり、いわゆる専用チャンネルの時代となってきたのだった。
そんな時代になってくると、宣伝広告を出して、民放で番組を作ろうとするところも減ってくるだろう。
そもそも、
「コマーシャルが多い」
ということは、ずっと昔から言われていたことで、ビデオの時代から、その装置に、
「CMカッと」
などという装置がついていた機種もあったほどだった。
そういう意味で宣伝広告は次第に下火になるかと思われたが、それを救ったのがネットの世界だった。
ネットではSNSと言われるネットワークによる、情報発信のサイトが増えてきた。しかも最近では個人単位で、手軽に情報発信ができ、そこでお金が動くようになる。そうなるといろいろなSNSの運営会社が出てきて、その収入に広告収入がまたしてもクローズアップされるようになった。
テレビから離れてからネットにいくまでの間はそれほど期間が立っていたわけではなかったが、それだけに、しばらくの間は、情報に疎かったり、なかなか頭の固い経営陣の判断からテレビにしがみついていた人が多い中、時代はあっという間に流れていき、SNSはそのために、最初はうまく機能していなかった。
だが、逆に言えば、その時代に先見の明を打って、SNSに目を付けた人がいるとすれば、その人はパイオニアとして祀りたてられるだけの力があるということになるだろう。
その才能を持っていたのが、二代目社長である大曾根恭三だったのだ。
彼のその素質は、先代に仕えていた参謀ともいうべき顧問の先生によって開拓されたものであったが、実は生まれつきの才能もあったのだろう。顧問の先生が驚く歩との発想を示したこともあったくらいで、それが会社の業績を伸ばすのに役立ったことは、重役時代から誰もが周知のことだった。
宣伝広告で手に入れた名誉によって彼は一時期時の人となった。だが、彼はあまりマスコミに出るようなことのない人物で、自分が宣伝塔になることはしなかった。
その分、プライベートを大切にするタイプで、社員に対しても、
「仕事とプライベートをうまくコントロールできる社員になってほしい」
と常々言っていた。
これは先代社長にも言えることだったので、誰も驚きはしなかった。むしろ、時代の先端を行っているという感覚で、
「いわゆる働き方改革を地て行っているような人だ」
という話が伝わっていた。
彼は、別に聖人君子というわけではない。
「英雄色を好む」
とよく言われるが、まさにその通りで、彼には不倫をしている女がいた、
それも一人ではなく、数人である。もちろん、ほとんどが肉体関係のある女性ばかりで、肉体と精神に癒しを求めていたのだが、一人だけ肉体関係のない女性がいた。それが、今回の被害者である、岡崎静香だったというわけだ、
彼女を抱こうとしなかったのは、身体の相性が合わないというだけではなく、抱いてしまうと自分が抜けられなくなるような気がしてそれが怖かった。
「浮気はあくまでも浮気」
これが彼の信条であり、当然、不倫でここまで先代が築き上げてきた大曾根王国を滅亡させるだけのことができるはずもない。
彼にとって静香というのは、
「母親のような癒しを貰える女性」
であった。
まるで聖母マリアのように見えたのであろう。肉体的には男の奴隷のようになっているが、精神的には癒しを求めるその感情が、大曾根恭三という人間の感情を揺さぶるのだった。
大曾根恭三にとって、岡崎静香という女性は自分の女性としての好みというわけではない。
清楚な雰囲気の女性が好きな大曾根には、静香のような、
「大人の女性」
は苦手であった。
母親をイメージしているということもあったのだが、大曾根には実際に母親の記憶が乏しかった。
大曾根が生まれたのは、父親が製薬会社を興す少し前で、その頃何をしていたのか、実は知らなかった。聞いたわけでもないし、父親も決して話そうとはしなかった。
巨満の富を築き、自分の王国を建設した人にありがちな、
「黒歴史」
それを家族、しかも子供には知られたくないという思いが強かったことだろう。
その頃の父親が波乱万丈の人生であったことは想像がつく。それだけに母親もさぞや苦労をさせられたのだろう。大曾根が小学生になる頃、母親は亡くなった。どうして亡くなったのかということはハッキリとは知らなかったが、
「お義母さんには苦労を掛けたからな」
と、何かあるたびに、父親から聞かされていた。
大曾根本人は、三十前に結婚した。結婚相手はすでに決まっていた人で、別にこれと言って好きというわけでもなく、嫌いなタイプでもなかった。
本当に嫌いな相手であったら、少しは結婚に抵抗もしたかも知れないが、素直に従ったのは、
「欲情してくれば、不倫でも何でもすればいい」
と父親から教えられていた。
不倫ができるほど、自分は不良にはならないと思っていたが、実際に大人になってみて、自分に対して言い寄ってくる女性を見ていると、そのほとんどが、どうでもいい女性であったが、中にはじ、
「純粋に自分を見てくれている」
と思える女性も中にはいた。
しかし
「不倫は敵」
とまで思っていた大曾根に対してその気持ちを変えてくれた女性もいた。
その女性とは今も付き合っているのだが、最近はご無沙汰している。途中まではお互いに連絡を取り合っていたが、彼女の旦那に不倫がバレそうになったということを彼女から聞かされて、
「じゃあ、連絡は君の方からしてくれたまえ」
という話になり、大曾根の方から連絡を取ることはなくなっていた。
そのうちに大曾根に他にも不倫相手が増えてきたのだが、それでも一番愛しているのは、最初に不倫をしたその女性であり、彼女との不倫がいかに大曾根を充実させてくれるかということを、考えさせてくれたのだった。
大曾根と、その女性は一月近く連絡を取っていない。今までにも一月くらい連絡がないことは結構あったが、何か気になっていたのだ。
そのうちに、風のウワサに、
「岡崎静香が殺された」
という話が入ってきた。
ラブホテルで女性の遺体が発見されたという話はニュースや新聞で見て知っていたが、まさかそれが自分の知っている女だとは、大曾根は夢にも思っていなかった。しかし、どこから伝わったのか、大曾根の耳に入ってきた。
彼女と大曾根が関係しているということは、顧問の先生しか知らなかった。基本的に大曾根恭三というのは、フリーに行動していいことになっているが、一人だけは彼のことをすべて把握している人間が必要だということで、その白羽の矢は当然のことであるが、顧問の先生に委ねられた。
もっとも、この提案は、大曾根本人が言い出したことで、決して顧問が言い出したわけではない。もちろん、大曾根が言わなければ、顧問の方から提案するところであったが、本人が提案してきたということは、それだけ大曾根の方としても、自分の中での危機管理ができているということなのか、それとも、一人では何かがあった時、解決できないことが出てくるという考えに基づくものなのか、どちらにしても、大曾根は経営者としての分別と力量を供え持っているということであろう。
「自分の弱さを知っている人間って、意外と強いものだ」
という話を先代の父親から聞かされたことがあった、
それを、
「なるほど」
と言って聞いたその時には分からなかったが、実際に自分がこうやってトップに立つと、その時の言葉が頭によみがえってきて、今まで目標にしてきた上がいなくなってしまったことが恐ろしくなった。
なんでも手には入るが、自分が決めたことですべてが動くと思うと、恐怖しかなかった。まわりも、
「しょせん、二世社長だ」
という目で見るだろう。
もし失敗すれば、二世だということだけで片づけられてしまう。それだけは避けたかった。
精神的なストレスは大きなものだった。それに打ち勝つにはまず癒しがほしかった。それはオンナではダメだった。包容力があっても、包み込んでくれる相手でなければいけない。もし、叱られたとしても、そこに嫌味はなく、自分のためを思って叱ってくれているという意識がなければいけないだろう。
「叱ってくれる時に、相手の本音が見えるのではないか?」
と、大曾根は思っていた。
大曾根のような立場の人を怒るとなると、どうしても気を遣ってしまう。その時にどのような気持ちになるかということを想像できるような女性でなければいけないだろう。
「大曾根さんにとって、お母さんというのは、どんな人になるの?」
とその女性は言ってくれた。
「僕はお母さんの記憶がないので、お母さんというのはこういう人だって感じさせてくれる人がいい」
というと、その女性は、
「じゃあ、私には無理かも知れないわね。お母さんに近づくことはできても、お母さんをあなたがイメージできるようにはなれないと思う。私にはそれだけあなたに対して女性としての愛情があるのよ。それはきっと母性本能とは別のところのものなのね」
と言っていた。
「そうなんだね。でも、今はお母さんに近ければそれでいい。僕はお母さんだと思ってもいい?」
と聞くと、
「いいわよ、でもきっとお母さんと言える相手があなたには現れると思うから、私はそれまでの義理の母みたいなものね」
と言って笑っている。
「それでもいいんだよ。お母さんというものがどういうものなのか、あなたから教えてもらえると思っただけでも、それだけでウキウキするんだからね」
と言って、大曾根は普段見せない顔を見せるのだった。
大曾根がそんなプライベートを続けている間、大曾根の知らないところで、薬が利用されていた。
この会社は大きな秘密があった。大曾根は社長になって初めて知ったのであるが、この会社の急速な発展は、実はこの違法薬物の利用が大きかったのだ。
中国におけるアヘンであったり、戦後のヒロポンであったりと、復興から経済を立て直すには、違法薬物の利用は不可欠であった、
バブル崩壊と言われた経済の暗黒時をいかに乗り越えるかという場合、ありきたりの方法では乗り切ることのできるものではない。違法薬物などを利用するというのも、当然のことであり、それにより復活した会社を、誰が責めることができるというのか、社会倫理的には当然責められるべきものだが、、全社員が路頭に迷うようなことを、その時の誰が望むというのか、選択が間違っていなかったに違いない。
この街でm密かに違法薬物が出回っているのは、大曾根の会社が、流しているというウワサがあった。しかし、それは実際にはありえないことだった。数十年前ならいざ知らず、今のようなちょとやそっとでは傾くことなどありえない大曾根製薬で、いまさら何を違法薬物などを使用しなければいけないというのか、誰が考えてもありえないことだった。
しかし、ウワサというのは恐ろしいもので、あたかも当然のことのように独り歩きを始めた。デマであることに気付かない、いわゆる「バカ」と言われるような人もいるのかも知れない。
あれはいつのことだったか、大曾根製薬とは何のかかわりもない反社会的な集団同士が、まるで大曾根製薬が製造している違法薬物を巡って、抗争を続けたことがあった。
もちろん、大曾根製薬には何ら関係のないことなので、大曾根製薬が自分から動くなどということはしなかったが、構想が激しくなってしまい、その煽りを気って、構成員が殺されるという事件が起こった。
お互いに報復も欧州が行われていた時期のことで、最初はちょっとしたことだったものが、命の奪い合いにまで発展したことで、さすがに大曾根製薬も黙っていられなくなった。
元々大曾根製薬は、警察に協力的で、違法薬物んなどは扱っていないということは、誰よりも警察のメンツの方がよく分かっていた。その話は門倉たちの殺人課の上にまで知れ渡っていたので、大曾根製薬が警察には協力してくれることは分かっていた。
上野刑事が操作を続けるうちに、やはりというか、当然というか、岡崎静香と大曾根恭三との仲が分かってきたのだった。
とにかく麻薬も絡んでいる事件なので、大曾根恭三という人物の話は、薬物捜査員に前もって聞いておいた、おおむね大曾根製薬に怪しいところはなく、大曾根恭三本人も、殺人までは分からないが、麻薬関係では無関係だと言っていた。そもそも、彼はどうやら最近まで自分の会社が違法薬物を取り扱っていることを知らなかったようだ。
「本当は社長に就任された時に、すべてを話すべきだったんだが、話をしようという顧問の意見を押し切って、わしが、もう少しまってほしいとお願いしたんだ。彼らを恨まないでやってくれ」
と父親からそう言われれば、どうしようもなかった。
父親はさすがに年を取ったということだろう。麻薬のような一番大切なことをしばらくの間、社長である自分に話さないようにお願いしたということは、父親として、少しでも長く尊敬される父親でいたいと思っていたのかも知れない。それを思うと大曾根恭三は、自分も年を取ればあんな風に不安に感じるようになるんだろうことを感じていた。
社長である大曾根会長の息子にしては、真面目で悪を許せないところがある恭三が、何も揉めずに社長に就任したと聞いた時、警察の麻薬捜査員たちも不思議だった。なるほど、知らないのであれば、それも無理はない。そのあたりの事情も警察では把握はしていた。
麻薬捜査員たちも、大曾根恭三が何も知らないはずだということを吹き込んだが、どこまで門倉や上野が信じるのか、疑問であった、
しかし、二人の性格も分かっているだけに、大曾根恭三と直接会えば、二人は彼の人間性を理解してくれるに違いないと思ったのだ。
麻薬捜査員たちも、もう大曾根製薬がほぼ麻薬から手を引いているのを分かっている。そういう意味で、いまさら息子に話をすることがおろかなことに思えたのも無理もないことだろう。
問題はデマやウワサを信じ、今でも大曾根製薬が薬物を取り扱っているということを、真剣に信じて売るという団体があるということである、
きっと今頃大曾根恭三は、
「うちの会社では、もう違法な薬物は取り扱っていないんだ。何も恐れることはない」
と考えていた、
せっかくクリーンなイメージの製薬会社ができあがっていて、危険を冒してまで麻薬に手を出さなければいけないような貧困している会社でもない。
しかし、岡崎静香の交際用の住所録が、彼女お部屋にあったが、その中に書かれていた、
大曾根恭三という名前を発見した時、最初に見つけた上野刑事は、すぐに麻薬を線として、大曾根恭三と岡崎静香が結び付いていると、すぐには理解できないでいた。
大曾根恭三という大金持ちがいるというのは分かっていたが、あくまでもある企業の二代目社長という意識があっただけで、その業種にまでは頭が回らなかった。
大曾根恭三という男と、以前どこかで会ったことがあるような気がしていた門倉刑事だったが、どうにも思い出せない。
しばらく考えてから、
「そうだ、父親の大曾根氏から、まだ大曾根氏が社長だった時、息子だと紹介されたことがあったっけ」
そう思うと、大曾根氏自慢の息子は、二代目社長にありがちな、目立たないタイプの人ではあったが、
「自分は初代社長とは違うんだ」
という意識が強い。
自分が社長に就任すると、まわりに臆してしまうということが分かっているからなのか、絶えず去勢を張っているように思えてならなかった。その目には、
「警察にだけは臆してはいけない」
という思いがあるようで、まわりの人間で一番近づけない相手が警察関係の人だということを感じていたのだ。
今回の事件で、本当は大曾根恵三が表に出てはいけない。そうなってしまうと、犯人の思うつぼだからだ。だが、この事件関係者のほとんどはそんなことは知らない、第二の殺人で、岡崎静香が死んでしまったことで明るみに出てしまった。そういう意味でも、この事件の犯人は、岡崎静香が死んでしまったことは計算外だったのだろう。
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