第7話 連続殺人
「今回の三つの殺人のうち、第二に起こったラブホテルの殺人事件と、第三に起こった建設中のマンションに放置されていた殺人事件の関連が見えてきたことから、連続殺人と思われるので、この二つの捜査をまず統合させることにして、並行して、第一の殺人との関連を探っていきたいと考えます。第一と団参の殺人も関連性があるとみている人も多いと思います。どこか類似したところが散見されるからです。特に死体発見において、最初はお湯を流しっぱなしにしたこと、そして第三件のも殺人では、今度は大胆にも交番や捜査本部に電話を掛けて、死体を見つけるように仕向けています。どちらも、発見時間を特定させたいという意図があったのではないかと考えられる」
と、門倉刑事は捜査本部で、そういった。
「少し補足しますが、第二のラブホテルと、第三の建設中のマンションで死体が発見された二つは、正式に連続殺人として、戒名を、「ラブホテル、建設中マンションでの連続殺人事件」 とすることで、一本化が決まった。理由は皆ご存じの通り、第三の被害者となって男性の指紋が、第二の被害者と同じ部屋にいた男性のものと一致した。ホテルでは、前の客が出れば、コップなどの消耗品以外のものは新しく用意されるので、そこに残っていた指紋から摂られたもの、そして実際にゴミ箱にあった歯ブラシなどからも摂取できた指紋にも同じものがあったので、間違いないだろう」
と課長がそういった。
「でも、指紋を残していくなんて、少し間抜けな犯人なんでしょうか?」
と捜査員の一人がいうと、
「だけど、ドアノブやベッド周辺の指紋はふき取っているんだ。ひょっとすると、歯磨きをしたことなどは忘れていたんじゃないかな?」
と上野刑事がいうと、
「それに関しては、第二の被害者の女性も、その犯人と思われる第三の被害者である男性も、極度の麻薬常習犯であったことが分かっている。ひょっとすると、第二の殺人が、突発的なもので、頭の中がパニックになっていたとすれば、指紋を少々拭き忘れるくらいは仕方がないかも知れない。確かにあの部屋で羞恥プレイに耽っていたのは間違いないようで、そのために、女は媚薬と称する麻薬を使用していた。この場合は注射ではなく、経口薬として、口から投与していたかの脳性がある、注射器などはその時の彼女の持ち物から発見されていませんからね」
と、門倉刑事が言った。
「じゃあ、犯人も麻薬を使用していたんでしょうか?」
という質問に、
「二の腕の静脈や手首、そして足首あたりを見ると常習であるのは一目瞭然なのだが、死体発見現場には、彼の所持品は何も残っていなかった」
と門倉刑事がいうと、
「犯人が持ち去ったんでしょうかね?
と捜査員の一人が聞くと、
「何を理由に? 身体を見れば解剖する以前にでも一目瞭然なのに、持ち去る意味もないと思うが。またその場に彼の所持品は何もなかった。薬物関係以外のものを残したくなかったのか、それとも、もう一つ大きな疑惑として、殺害場所が別にあって、殺されてからあの場所に運ばれたという場合であう。もっともその場合は、明らかに共犯者が存在しているということになるんだろうな。一人で死体を三階まで運び込むのは大変だし、目立ってしまう。工事現場なので、二人で袋に詰めた大きなものを運ぶ分には目立たないけどな」
と、門倉刑事は言った。
「僕は第二の殺人に大きな疑問があるのではないかと思います。この疑問を解決しないと先に捜査が進まないというか、逆にこの疑問が解けると、事件の概要が見えてくるのではないかと感じることです」
と上野刑事が言った。
「それはどういうことだい?」
と、門倉刑事も上野刑事が何を言いたいのかは分かっているつもりだったので、顔をニンマリとさせて話を聞いていた。
「僕が考えているのは、第二の殺人が、殺意のあるものだったのかということです。二人はSMプレイというアブノーマルな行為に興じていたふしがあります。しかも麻薬や媚薬を使っていた。ただでさえ危険なトランス状態なのに、そこに持ってきてのSM行為、これはもう常軌を逸した行動と言ってもいいでしょう。まさしく自殺行為。それを思うと、僕はこのは殺意のない、過失致死ではないかと思うんです。指紋が中途半端になったのと当然と言えば、当然でしょう」
と上野刑事は言った。
「すると、三人目に殺された人間が第二の殺人の犯人だということになると、被疑者死亡ということになっちゃいますね。でも、そうなると、その男は誰から何のために殺されたのだろう?」
と、もう一人の捜査員が言った。
「それにはまず、それぞれの事件に登場してくる人間を一人残らず調査してみる必要がある。今ここでこうやって話をしているのは、実際に見えている状況からの想像がつよくて、実際の調査から得られた情報でもない。確かにこうやって事情が刻々と変わっているんで、なかなか状況を掴むことすら難しいのかも知れないけど、警察とすれば、想像だけで推理できるものでもない。まずは地道な捜査が必要だ」
と言って、まずは登場事物の過去を洗って、その中でそれぞれの人間の性格の特定と、それぞれの事件の関連性につなげる必要があるように思えた。
その日の捜査会議は、それ以上語られることはなかった。すべてが想像でしかない以上、時間の無駄と言えたからだ。
翌日になって、第三の殺人で殺された男の身元が判明した。
男は名前を、黒熊五郎と言った、
「黒ボール熊井」
という名で、AV男優をしていたという。
その名前はAVファンであれば誰でも知っているような、AV男優の中でも一流と言われるベテランだった。
当然のことながら、黒熊と岡崎静香は、AV時代からの知り合いで、二人がくっついていたなどということは、当時のAV業界では公然の秘密のようだった。
ただ、それ以上にビックリしたと当時の仲間に聞いてみると、その二人の仲がまだ続いていたということだった。
「二人ともに結構飽きっぽい性格だったようで、しょっちゅう何かあるたびに喧嘩していたよ。理由なんて何でもいいんだけど、喧嘩することが二人にとっての意義を確かめ合えるような仲だったようにも思う」
と、付き合っていたことは分かっていたが、どうしてあんな状態で仲が続いてきたのかが分からないという。
そこで、岡崎静香が死んだ時の様子を話すと、
「なるほどね、身体だけの関係だったとすれば、十分納得できるわ。もしそこに感情が関わってきたのであれば、お互いに遊びのないギリギリの関係で付き合っていくことになるはずなので、耐えられなくなるんじゃないかしら? ひょっとすると、二人には感情を通わせるための相手がそれぞれにいたのではないかと思うわね」
と、AV関係者が言った。
「でも、静香さんは本当に変態チックなところがあって、SMプライだったり、猟奇的なプレイも好きだったりしていたわ。そんな彼女を精神面だけで満足させる男性なんて、本当にいるのかしら?」
という話が出た。
「でも、それはあくまでもAV世界の問題で、映像の中でだけのことでしょう?」
というもう一人の女優が言ったが、
「何言ってるの。あの人の作品は、そのほとんどは、地が出ているのよ。SMプレイだって本気で喜んでいたし、でも、そこまでできる人は、そういうプレイに自分を当て嵌めることができる人なの。だからそんなプレイはいつも本気モード。だから人気が出るんだし、見ている方にもその本気取って伝わるものなのよ」
と言っていたが、警察関係者には、何が言いたいのか分からなかった。
「要するに、彼女の場合は、撮影中はいつも真剣だったということなのでしょうか?」
「それは言えると思うわね。だって、真剣にならないと、出せない魅力を出していた。ただ、最初は持って生まれたそういう性格をいかに表に出せばいいのかって悩んでいたようなの。でもその問題を解決してくれたのが、黒熊という男優だったのよ」
とAV関係者がいうと、門倉にはその話がイメージ的に分かったような気がしたが、上野には理解しがたいところがあった。
よくいえば、それが上野刑事の若さなのだろうが、悪く言う場合には、またこの若さが出てくるのだ。
つまり、長所と短所が紙一重であるということが、ここで証明されたかのように感じられたが、二人がどのように付き合っていたのかが、まだまだ想像に域に達することはなかった。
とりあえず、二人の他の見えていない相談相手を見つけることが急務であろう。
まずは、最初の犠牲者、岡崎静香について捜査が行われた。AV事務所で聴いたところでは、今彼女と交友がある人はいないのではないかということだった。一つの理由としては黒熊を自分のものにしているというところが一番の問題だったようで、実際にはこのことを口にするのはタブーだったようだが、皆の様子がぎこちなく、
――どこかおかしい――
と門倉刑事に睨まれて、若干強い取り調べが行われたことで、やっとその理由が分かった。
「これは殺人事件の捜査なんだ」
というベタなセリフではあったが、一番強く心に刻む言葉でもあった。
逆にいえば、業界の人の中でも、二人が命を落としたのは他人事ではなく、
「いずれは自分にもありえることだ」
ということを、皆分かっていたからなのかも知れない。
しかも、関係があると思われていた二人、黒熊と静香が殺されたということが問題だった。
あの二人はまわりからあまりよく思われていない相手同士だったのだ。
「AVの撮影というのは、議事の行為であったりしますが、お互いに撮影中は相手のことを思いやっていないとなかなかうまくはいかないものなんです。いわゆる息が合っているとでもいうんですかね。それがないと、いい場面は撮影できないし、ぎこちなくなってしまうものなんです。お互いに安心できるとでもいうんですかね。でも、あの二人にはそんなものはなったんです。お互いにお互いの性を求めるだけというのか、本能の赴くままにとでもいえばいいのか。だから、誰にもマネのできない撮影もできるわけで、そういう意味でリアルな猟奇プレイには二人はピッタリだったんです」
というスタッフの話を聞いて、
「じゃあ、二人には他のパートナーはありえないと?」
「水島裕子、いわゆる岡崎静香の場合はそうだったんですが、黒ボール熊井こと黒熊五郎は、他の人がパートナーでもいけました。彼の場合は逆に他の人がパートナーの場合は、本当に気を遣ってくれるんです。だから女優連中にも人気がありましたし、我々も彼との撮影では安心できました。だけど、あの女と猟奇的な映像を取るころが多くなると、他の人との辛みが減ってきたんです。彼がやりたくないと言っていたようなんですね。どうもそれも水島の手によるものだったようで、二人の間でどのような話があっていたのかは分かりませんが、そのうちに、水島裕子が勝手に辞めていったというわけです。表向きは、普通の女優になりたいということでしたが、どうだったんでしょうね。彼女のような魔性の女に普通の女優なんか務まるわけがないというのが我々の一致した意見でした」
「なるほどですね」
と門倉刑事がいうと、
「僕は、実は学生時代からAVを結構見ていたことがあったんですが、AVと言っても女優も男優もその演技力に関しては、他の人気俳優には負けないと思っているんです。だって、濡れ場の撮影などの緊張感はハンパではないでしょう? AV作品の中で、AV女優のドキュメンタリー作品があって、それを見た時、その緊張感も伝わってきたんです。つまり濡れ場というのは、他のドラマなどでは、クライマックスなシーンと同じなんですよね。ひょっとするともっとすごいかも知れない。緊張感は自分を孤立に持っていきます。それを助けてくれるのは、相手の男優とスタッフの優しさではないですか。それをひしひしと感じられるから、白進の演技ができるんじゃないかって思うんですよ」
と上野刑事は言った。
スタッフのその言葉に感銘を受けたようで、
「刑事さんの言われる通りです。僕たちが本当は声を大にして言いたいけど、なかなか言える機会のないセリフをよくぞ言ってくれました。そうなんですよ。皆そういう助け合いの中で出来上がる作品なんですよ。しかも、出演料はそんなに高くない、だから人気女優になどは、年間にひ百本以上の作品に出演する。これはとてもハードです。一週間に日本は撮影していることになりますからね」
「それだけの撮影を重ねれば、熟練してくるのも当然というわけですね。いやいや。これは奥が深い話をありがとうございます」
と警察の方も素直に感慨を深めたようだ。
「そういう意味で水島裕子という女優は異端でした。でも、彼女のようにプライドだけが高い女優というのはいるもので、ここを追われるように辞めていきましたが、普通の芸能事務所でまともに働けるわけもなく、すぐに辞めたと聞いて、なるほどと思いましたが、まさか結婚していたなどと思いもしなかったので、そこは本当に意外でした。きっと誰にも想像できなかったことではないですか。死んだ人を悪くいうのもなんですが、殺されたと聞いて、驚きはしましたが、かわいそうだとは思うことができませんでしたね」
とスタッフの一人は答えた。
岡崎静香に対してのイメージはあまりいいものではなかった。この後数人の女優さんや男優さんに個人的に聞いてみたが、誰の話もスタッフの話とそれほど変わるものではなかった。しかし、だkらと言って、それ以上の話が聞かれたというわけではなく、ある意味秘密性のない、分かりやすい性格の女であるということも分かったのだ。
また、男の方の黒ボール熊井こと、黒熊五郎にしても同じだった。
「黒熊さんは本当にいい人なんだけど、どうしてあんな女に引っかかってしまったのかしらね。不思議だわ」
と言っていた。
警察は、二人が麻薬常習犯であったことを、スタッフや他の人には話さなかった。わざと話さなかったわけで、直接殺人に関係なければ、という思いがあったのだろうか。だが、この話をしなかったのは亜土蔵刑事の個人的な判断で、なぜ話さなかったのか、上野刑事には理解できないtころであった。
だが、上野刑事はそのことを門倉刑事に追求してみようとは思わなかった。門倉刑事には何か考えがあるからではないかと思ったからで、必要以上なことは聞かなかった。
「それにしても、岡崎静香という女は相当嫌われていたということは言えそうですね。そのせいからか、孤独な毎日だったんじゃないかと思います。そして今まで聞いてきた話を総合して考えた彼女の性格は、きっと負けず嫌いだったんじゃないでしょうか? だから孤独でも虚勢を張って、まわりに孤独だということを思わせないようにしようとはするんだけど、すればするほど、その性格が表に出てくるというか、分かりやすい性格と言えるんじゃないでしょうか?」
というのが、上野刑事の岡崎静香評だった。
「それは間違いないと私も思う。だけど、それが黒熊五郎に対してはどうだったんだろうね? 少なくともプレイに興じている時は、感情を表に出すことはなかったような女に見えるんだけどね。だから、変態的なプレイであっても、それだけに感情を入れずに、単純にその刺激を楽しもうとする。相手がSであれば、そんな相手ほど興奮してくるものであって、もし、感情で結び付かない男女のパートナーが存在するとすれば、この二人のようなパターンでなければありえないことではないかと思うんだ。この黒熊という男は、岡崎静香の欲求を十分に満たしてくれ、黒熊の欲求も同時に満たされる。そこにはまったくの感情などない、そんな構図ではないだろうか」
と、門倉刑事も言った。
門倉刑事はさらに続けた。
「こんな二人なので、本当は麻薬の力なんか借りる必要もなかったと思うんだ。だが、その麻薬にどちらかかは分からないが手を出した。このあたりがこの事件の裏に隠された何かではないかと思えるんだ」
この話を聞いて。先ほど感じた門倉刑事への不信感が消えてしまった。
――こんなことを考えていたのか――
どうしてさっき、AV事務所で麻薬の話をしなかったのか疑問でしかなかったが、こうやって門倉刑事の口から聞いてみると、
――やはり、この人は僕なんかよりもずっと先を見つめて、捜査しているに違いないんだろうな――
と感じた。
自分は、麻薬そのものが、この事件の表に出たことの一番大きくてセンセーショナルな事実なので、この事実を強調するような形で捜査していけば、二人の知られていない事情を垣間見ることができると思っていた。
しかし、門倉刑事はその上を行っていて、二人が麻薬を自分から使ったのではないという、思ってもいなかった発想をしていたのだ。
もっとも、これはAV事務所でスタッフは他の女の子から話が聞かれなければ思い浮かぶ発想ではなかった。そういう意味でスタッフや、あるいは自分がAVの神髄について話したことで何かを感じたのであろう。それは、AVを主観的に見ている自分であったり、スタッフには、思い浮かべることが困難な発想だったのだ。
それを考えると上野刑事は、
――俺はまだまだなんだな――
と思い知らされ、さらに門倉刑事の度量をいまさらながらに思い知らされた気がして、
――この人についていくことが誇りなんだ――
と感じるのだった。
この事件を思い返してみて、門倉刑事のいうように、麻薬を使う必要もないと二人が思っていたのだとすれば、二人に麻薬を進めて人がいるはずだ。そもそも麻薬なんてそう簡単に手に入るものではない。密売する方も、秘密がバレないように、相手を考えて売っているはずだ、岡崎静香のような客が安心できる客だったのかと言われると、厳しいものがある。その間に誰かを介していたと考える方が、より信憑性があると思われた。
麻薬を使うようになったのは、実は一年くらい前からであった。この情報は少々後になってもたらされたものであったが、ということは、AVで働いている時というよりも、芸能事務所に入ってからの方だった。
しかも、麻薬を媚薬と称して騙される形で紹介してくれたのが、事務所の先輩だった。もちろん、普通緒芸能事務所なので、普段は清楚な雰囲気ではあったが、どこか怪しげで、秘密めいたところがあった。実は、そんな彼女を警察の麻薬捜査犯ではマークしていて、この事務所もすでに内偵が進んでいた。
麻薬の入手ルートを探しているうちに、この事務所に宿りついたということだが、これくらいの規模の中小下農事務所であれば、麻薬の匂いがあっても不思議はないという話でもあった。
もちろん、麻薬などを取り扱っていない事務所も結構あるのだろうが、一つそういうところが見つかると、麻薬を取り扱う方としては利用しやすいのか、ズブズブの関係になってしまっているところもあるようだった。
最近はネットを中心とした事務所もあったりするので、いろいろな事務所もあり、麻薬捜査もなかなか手を出しにくいようなのだが、それだけに、一度見つけたルートに対しては執着がすごく、決して逃さないだけの覚悟を持って捜査をしていた。
その事務所の媒介者として君臨している女優から入手した媚薬を、黒熊とのプレイでずっと使用していた。ただ、始めたのが最近だということは、門倉刑事の想像が外れていることも示していた。
「二人は、麻薬を使う一つなどない」
という意見であった。
ただ、そんな中、
「ずっと続けるわけにはいかない」
という意思を持っていたのは事実のようだ。
そのために、やはり想像した通り、彼女には精神的な支柱になってくれるような男性がいたようで、その人はそれなりに社会的な地位のある男性だということだった。
麻薬常習犯で、猟奇プレイを好む女性に、どんな社会的な地位を持った人間がくっつくというのか、実に不思議だった。
相手の男性は、彼女をオンナとしてかわいがることはしない。ただ、その男性の心を隙間を埋めることができる女性が彼女だけだったのだ。
男性の方も、立場や性質的なものよりも、自分に対していかなる言葉を放ってくれるかということだけを与えてくれる女性を求めていたのは事実だった。
変にプライドがあったり、欲のある人間に対しては、すでに吐き気がするほど嫌だったので、そんな飾った雰囲気のない女性を求めていたのだ
どこか自虐的で、好きに気持ちを表に出すだけで、好きな相手に対しては言葉にも妥協のないような女性、そんな人というのはなかなかいないものだ。だが、求めているもののインスピレーションがほぼ近いと、お互いに少し距離があっても、まわりにたくさん人がいても、その相手が近くにいることを悟り、目の前に来た時、その人だけにライトが当たっているかのように見えるのではないdろうか。
そう思うと、二人は、いわゆる普通の、
「運命の人」
という関係ではなく、
「運命の相手」
と感じるのだろう。
「交わす言葉が、二人にとっては異次元で、話の内容は、静香からすれば、猟奇プレイで身体が感じていることを、彼の言葉が、気持ちを感じさせる力を持っているのかも知れない」
と感じているようだ。
二人は、お互いが遭っているところを隠そうという思いはなかった。しかし、それはお互いが身体を求めているというからではなく、健全な付き合いだということを自覚するためであり、そういう相手が自分にはいるんだという気持ちを持ち続けたいという気持ちが強かったからであろう。
「ねえ、私って、そんなに魔性な女に見える?」
と聞くと、
「そうだなあ、僕から見ればそう見えるかな? でも、そう見えている方が、君は君らしくいられそうな気がするんだよな」
と言っていたことがあった。
その男性は、どういうつもりでそういったのかは分からないが、
――もし、自分に何かがあったら、この人はどういう行動を取ってくれるんだろう?
と考えたこともあった。
この男性は、黒熊のことは当然知っているだろう。そして、その存在が岡崎静香にとって、肉体的な関係でしかないということも分かっているはずだ。そんな彼が何を考え、静香とどう接してきたのか、分かる人などいるのだろうか?
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