第4話 ラブホ絞殺殺人
マンションにての赤嶺佐緒里殺害事件が発生してから、まだ数日しか経っていないのに、同じ管内で、別の殺人が発生した。赤嶺佐緒里のマンションからは、一キロも離れていない場所であるが、マンションの住人にはあまり立ち寄る場所でもなかった。
その場所というのは、駅裏に位置しているところで、近くには高速道路のインターチェンジなどがあり、拘束のインター近くというと昔からどこにでもあるという風景でもある、いわゆる、
「ラブホテル街」
の一つの部屋で起こったことだった。
こちらの事件を通報してきたのは、ホテルの清掃員で、時間的には夕方の六時前くらいであった。
通常、昼間というのは、二時間か三時間単位での休憩が一般的で、一時間くらいのショートの時間、あるいは逆に、早朝の六時くらいから、夕方の六時くらいまで、ほぼ三時間の値段にほんの少し色が付いた程度の値段でいられる、サービスタイムというのが存在する。
この部屋の利用者も、午前中に入室し、このサービスタイムを利用しているようだった。
ラブホテルというとどこでもそうだが、フロントを通さず、タッチパネルで部屋を選び、入室する。タッチパネルの場所、エレベーターの乗降口、そして各階の通路には帽はカメラが設置されていて、あとで見返すことはできるが、もちろん、部屋に入ってしまうと後は分からない。
ホテルによって多少の違いこそあれ、タッチパネルを押すと、部屋の前にある部屋番号を記したランプが点滅し、それに従ってお客は部屋に入る。入る時はカギがかかっていないが、入ってしまうと、部屋の点滅していたランプが点灯もしくは消灯し(入室しているという印)、タッチパネルにも入室が伝えられる。その時点で、部屋の扉はロックがかかり、フロントが操作をしなければ、扉は開かない仕掛けになっている。
要するに、料金を払わないと出られない仕掛けであった。
部屋に入るのが確認されると、つまりはカギがロックされたか、消灯したかによってフロントで分かるようになり、部屋に備え付けの電話がなる仕掛けだ。
フロントからの電話で、部屋の簡単な説目緒等があり、時間をどうするか聞かれる。どうやらこの部屋に入った人は、サービスタイムを所望したようだった。その時出たのはオンナの人の声で、少し中年風の声は、奥さんではないかという後からの話であった。
その客が夕方になって、あと三十分でサービスタイム終了の時間をお知らせするために、部屋にフロントから電話をしたのだが、応答がなかった。
「お風呂に入っている場合もありますので、そういう場合は少し経ってから、もう一度電話をします」
ということであったが。それから何度か電話を入れても、部屋からは誰も出る様子もない。時間は六時を回って、七時近くになっても返事がない。フロントから扉を叩いてみるが、反応がないので、しょうがないので、部屋を開けてみると、ベッドの上でうつぶせになった全裸の男が首にタオルを巻き付けられて、首を絞められたのか、死んでいたという。
すでに目は閉じることもなく、あらぬ方向を睨んでいる。見た瞬間に、誰もが死んでいることを確信したという。
このような商売はしていても、実際の死体を見たのは初めてだった。以前はラブホテルで自殺をする女性というのも話題になったが、このホテルは比較的後になって建てられた店なので、自殺騒ぎに巻き込まれたことは今までには幸いにしてなかったということだった。
すぐに警察に通報され、捜査員や鑑識が到着し、ホテルは一時期騒然となった。
時間が夕方だったということもあり、ホテルの利用客は比較的少なかったということもあってか、大きな騒ぎにならなかったのは幸いだった。
ただ、首を絞められていて、首にタオルが残っていて、しかも全裸で俯せということなので、自殺は考えられなかった。自殺をするとすれば、浴室か洗面所で手首を切るか、あるいは睡眠薬を飲むかなどをするだろう。自分で自分の首を絞めて、しかも俯せでいるなど普通では自殺としては考えられない。ホテルは殺人事件の起こった現場として、報道陣もやってきて、しかも、先日も近くのマンションで別の殺人があったということで、余計に話題になっていた。
鑑識も、
「絞殺ですね。死後五時間くらいということなので、昼間くらいだったんじゃないでしょうか?」
ということだった。
「絞め殺したのは、さっき首に掛かっていたタオルなんでしょうか?」
と上野刑事は妙なことを聞くので、鑑識も一瞬怪訝な顔になって、
「そうですが、何か気になるんですか?」
と聞き返したが、上野の気持ちを察したのか、門倉刑事が、
「絞殺という手口が似ているというだけで、距離が近いからと言って、まったく別の殺人じゃないのかな?」
と言ったが、門倉刑事も上野刑事が考えていることが自分でも分かったくらいなので、心のどこかで結び付けようとしていたということを意識させるので、完全に否定したりはできなかった。
「まあ、考えすぎでしょうかね」
と上野刑事がそういったのは、前の事件に対して何も見えてきていないのに、また新たな殺人事件が起こったということに、憤りを感じているのだろう。
もし、これが連続殺人であれば、どういうことになるのか、それぞれを別々に捜査する必要がないので手間が省けるとみるべきか、犯人はすでに複数殺しているということで、猟奇殺人の目まで出てきたということで、犯罪が厄介になってきたと考えられるかも知れない。
ただ、この二つを結び付けて考えるだけの要素はまったくない。少なくとも、赤嶺佐緒里の事件を捜査している中で、彼女が捜査線上に上がってくることはなかった。目の前で死んでいるのは、まったく見たこともない女性だったのだ。
女性の年齢は断末魔の表情からなかなか推定は難しかったが、雰囲気としては、三十歳代くらいではないか、二十代というよりも、四十代くらいに見えるくらいで、雰囲気としては主婦の様相を呈しているようだ。
そんな中で、門倉刑事がふとしたことを思い出した。
「犯人は、どうやって逃げたんだろう? さっきのホテルのフロントの人の話によれば、部屋に入ってしまうと、帰りにフロントに連絡をしないと、中からは開かない仕掛けインなっているんでしょう? ということは、犯人は一緒に入った男だとして、その男は、この部屋から電話をして、帰るからあけてほしいと言ったことになる。それなのに、どうして六時まで、誰も気づかなかったんだ?」
というのが、門倉刑事の疑問だった。
それに対して、フロント係がその理由を説明した。
「お部屋を出る際は、どちらかが最初に出て、一人が残るということも結構あるんですよ。不倫のお客様もご利用になられるので、そういうことも暗黙の了解だったりします。また最近でよくあるのは、デリバリーヘルスなどを頼む場合ですね。自分のお部屋にデリヘル嬢を招く場合もありますが、家族と同居していたりして、家では無理なお客さんは、ホテルに出張してもらうことも結構あります。だから、入室も男性が先にお部屋に入って、お部屋が決まったということで、初めてデリヘルに連絡を入れる人も多いんですよ。だから、このように、お部屋にはデリヘルを紹介している無料配布の雑誌が置いてあったりするんです」
と言って、スタッフがベッドの脇に置いてあるデリヘル雑誌を手に取って門倉刑事に見せた。
「なるほど、入室が男性一人でもいいのなら、退室も、先に女性からということもあるわけですね」
「ええ、女性側は時間制ですから、時間になったら出ないと、デリヘルに追加料金を払うことになる。でも男性はその後自由だったら、そのままお風呂に入ったり、テレビを見たり、ベッドも大きいからそのまま寝ても帰れるわけですよね。実際にサービスタイムにしておけば、一日中いても、数千円で過ごせるわけですからね」
とフロント係はいう。
「なるほど、じゃあ、男性が先に出たとしても、まったく店側は不思議に思わないんだ。むしろこっちの方が多いパターンなのかな?」
「そうですね、最近は、カップルの利用よりも、デリヘルのような風俗利用の方が多いくらいですからね。私たちはお部屋をお貸ししているだけなので、どちらでも、いいわけなんですけどね」
と言って、含み笑いをした。
「ところで、入室は一緒だったんだね?」
と門倉刑事が聞くと、
「ええ、その通りです。監視カメラでも確認しました。それに、それから誰もこの部屋には訪ねてきていませんから、間違いないと思います」
「分かりました。じゃあ、男性がどこかの時点でお帰りになったんですね?」
「そのようです」
「その時間というのは分かりますか?」
「基本的に最後までお部屋を利用された方がお支払いになるわけなので、私たちは先に出た人のことはあまり感知していません。電話を受けた人間が覚えていれば別なんですが」
といって、他のスタッフに聞いてくれたようだった。
「僕、覚えていますよ」
と、まだ二十代くらいの若い青年がそういった。
「君は?」
「僕はここのフロントと、掃除の手配をするコントロールのような仕事をしているものです。ちょうど昼頃は私が電話を受けたのを覚えています」
「何時頃だったですか?」
「ええっと、確か、二時前くらいだったと思います。ちょうどここで昼のお弁当を食べてすぐくらいだったので、それで覚えているんです」
「電話は男の声だったのかい?」
「いいえ、女性の声でした。女性の声で、一人が出るという旨を聞かされたんで、僕が扉のロックを解除しました」
「よし分かった。じゃあ、大体の時間が分かっているので、ここで防犯カメラの映像を確認してみたいと思うだが、協力してもらえるかな?」
と、門倉刑事はそういうと、さっそくモニタールームに入っていった。
モニタールームは警察にも防犯カメラの部屋があるので見慣れているが、縦に三つ、横に四つの十二湖の防犯カメラが一度に映るようになっている。それぞれの階のエレベーターや、ワンフロアの通路にもいくつか、ただ、基本的に人の出入りは、入室と退室くらいしかなく、それ以外は掃除のスタッフがでいるするくらいなので、そこまで張り付いて監視していなければいけないものではない。ほとんど、このモニタールームに人が入り込んでいるということはほとんどないだろう。
「まずは入室時のタッチパネルのところだね」
と言って、ちょうど入室ボタンが押された時間は記録されているので、その時間を頭出しすると、しっかりとそこに一組の男女が映っていた。女性は紛れもなく被害者で、男性の方はというと、帽子を目深にかぶり、サングラスを掛けていることから、まるで犯罪者の変装のように見える。
「そんなに見られると困るのかな?」
と門倉刑事はボソッと口にし、その相手を、権威や名誉のある職についている人であるのか、あるいは相手の女性が不倫の相手でもあるのか、気になっているのではないだろうか。
しかし、彼の様子を見ると、どこかオドオドしていて、やせ型で肩もなで肩というどちらかというと、女性のような雰囲気に感じられ、どうにも社会的地位のある人間には見えなかった。
年齢的にもだいぶ若いのではないかと思え、女性の方がどこかしっかりして見えるところから、どちらかというと、
「主婦が若いツバメと昼間からラブホテルにしけこんでいる」
という構図が見えてくるような気がした。
その感覚は、上野刑事にも、いつもカップルを見慣れているスタッフにも分かったようで、最初のイメージとはかなりかけ離れた関係ではないかと、その場の一致した気持ちではなかっただろうか。
「ホテルというのは、ああいうカップルもいるんだな」
と、どうにも不思議な組み合わせにしか見えない門倉刑事は、まだビックリしていた。
しかし、門倉刑事よりも若干若くて、血気盛んな上野刑事とすれば、それくらいは想定内のことであり、それよりも、この男がなぜ変装のようなことをしているのか、その方が気になった。
「ラブホテルでの密会なんて、今に始まったことではないんだから、何もそんなに怯えて隠そうとする必要もないのに」
というのが、上野刑事の思いだった。
スタッフも同じようで、
「そうですよね。まるでこれでは、いかにも不倫をしていますと宣伝しているようなものですからね。今どき、そんな人はいませんよ」
と言っていた。
「これじゃあ、何かの映画か何かの撮影みたいじゃないか?」
と言われて、急に一人のスタッフが何かを思い出したように、
「あっ」
と叫んだ。
「どうしたんだ?」
と聞かれて、
「今、映画の撮影と言われたので思い出しましたが、この殺された女性、見覚えがあります。確か、昔AⅤに出ていたんじゃなかったかな?」
というではないか。
それを聞いて、上野刑事もその被害者を覗き込むと、
「ああ、確かにこの女性見覚えありますね。彼女は確かにAV女優もやっていましたね。でも、三年くらい前に、芸能界でデビューすると言って引退したんです。そして、僕は彼女をAVからの華麗な転身という名目を見て、女優デビューしたところから知っているんですが、実際にはなかなか売れずに、気が付けば、半年もしないうちに引退なんて言われていたんですよ。でも、確か、彼女はそれから少しして結婚したんじゃないかな?」
というと、
「よく結婚のことまで知っていたな」
と門倉刑事に言われ、
「ええ、週刊誌に載ってましたからね。AV女優の行く末なんていう題名でですね。ただ、幸福な結婚という様子ではないような話でしたね」
と上野刑事がいうと、
「そうなんだな。この業界も大変なんだろうな」
「AV業界というのは、ギャラガ安かったりするので、出演回数がどうしても多くなるんですよ。その分、作品が巷に溢れるから、逆に一つが安価になってしまい、さらにギャラや経費を抑えることになる。大変な業界なんじゃないですかね」
と、ホテルのスタッフがいった。
「防犯カメラが見つかりました」
と言って、一人の男性が表に出るところが映された。
今度もやはり変装しているようだ。しかも慌てているところを見ると、やはり犯人はこの男ではないかと思われた。
この事件では結構間抜けなことが多いようで、
「どうも犯人はかなり慌てていたようで、指紋をいたるところに残しているようですね」
と鑑識が言った。
それを聞いて、ホテルの掃除の人間を門倉刑事は呼び寄せて、
「このコップに、指紋が残っていたとすれば、これは、この女性のものか、あるいは犯人のものかしかないわけですよね」
と言って、洗面所のコップを指差した。
「ええ、このコップは、部屋が空くたびに清潔なものと毎回取り換えていますから、その通りです」
と言った。
これはビジネスホテルにも言えることだが、コップやサニタリーなどはすべてを新しいものに変えるのは当たり前のことであろう。
しかも、鑑識の話では、指紋を消そうという意識はあったようだが、かなり慌てていたのか、消し方が中途半端で、今の科学では、これくらいの消え方であれば、指紋を特定させることはそう難しいことではないという。そう考えれば、この殺人は、意外と早く解決するかも知れないと思った。
「とりあえず、やれやれですね」
と、上野刑事は、門倉刑事にそう言って、少し安堵した顔になった。
「まだ、安心はできないが、それにしても、どうも変な殺人だよな。犯人もいくら慌てていたとは言いながら、指紋を消そうという意識がありながら中途半端だし、それを思うと私には、これが計画的な殺人には思えないんだ」
と門倉刑事はそう言った。
「なるほど、確かにそれは言えますね。だとすると、却って分かりやすい犯罪なんじゃないですか?」
「そうだといいんだが、とりあえず被害者の身元をもっと洗ってみる必要がありそうだな。交友関係も含めてになるが」
「ええ、分かりました」
ということで、上野刑事はさっそく、後輩の新人刑事を連れて、彼女の旦那という人間に遭いに行った。
門倉刑事は、マンション殺害事件の方を中心に捜査している関係で、こちらの殺人を、とりあえず上野刑事に任せることになったのだ。
被害者は、水島裕子という名前でAⅤ女優をしていたが、もちろん、本名ではない。本名は、岡崎静香と言った。丘崎と言うのは、旦那の性であり、旧姓は芸名と同じで水島であった。
年齢は三十五歳、死体発見時はあまりにも形相がすごかったのでもう少し老けて見えたが、実際には三十五歳だということ、そして旦那は今年で四十五歳になる中小企業の社長であった。
彼は、親の一代で気付いた宣伝会社を受け着いた二代目社長で、初代社長はすでに引退していて、会長職に収まっている。
一度結婚したのだが、五年前に離婚していて、前の奥さんとの間には子供はおらず、静香と知り合ってから結婚するまでは結構早かったという。もちろん、元AV女優ということで会長の反対もあったようだが、会長と言っても、実質的な力はなくなっていて、会社でのことならとおかく、個人的なプライベイトでは、本当に力がなかったので、ある意味、静香はうまく玉の輿に乗ることができたということであった。
これは、世間ではあまり知られていないことであったが、彼女も実は元離婚経験があり、といっても、VA女優としてデビューする前の、まだ二十歳頃に結婚して一年くらいのスピード離婚だったという。
そんな人生を歩んできた静香だったが、どうもいろいろな秘密めいた話もあったようで、今の旦那も知らないこともあるというウワサを聞いたことがあった。それを裏付けるように、彼女が以前所属していた制作会社の社長の話を後述するが、社長すら知らない話も結構あったということだった。
まず上野刑事は、彼女の旦那に連絡を部下に取ってもらったが、
「社長はどうやら、今は海外出張中のようで、本当は三日後に帰国の予定だったということですが、今回の事件を聞いてすぐに帰国の手続きに入ったということです。明日には帰国してくるということですので、会社と連絡を取り、事情聴取の調整を行いたいと思います」
ということだった。
「そうか、よろしく頼むよ」
と、上野刑事は、自分が門倉刑事にでもなったかのように、少し威張って見せていたが、まだまだ自分は新人に近いと思っているので、後輩に対しての配慮を忘れるような男ではなかった。
「それじゃあ、彼女がかつて所属していた事務所に行ってみようか?」
と言って、まずは最初に芸能時事務所、そしてその後で、AⅤ関係の事務所への訪問を計画した。
芸能事務所は案外とホテルからも近い場所にあり、移動に車で二十分くらいのものだった。
アポイントは取っておいたので、事務所にはスムーズに案内された。奥にある応接テーブルに案内されると、すぐに元上司だろうか、中年というには、まだ少し若いくらいの男性が現れた。
「岡崎さんのことでお訪ねなんですね?」
「ええ、実は彼女、前日殺されたんですが、それで関係者にお話を伺っているというところです」
「そうだったんですか。それはご苦労さまです」
彼女が殺されたということは最初にアポイントを取った時に話をしたわけではなかったのに、この落ち着きはなんであろうか? 少なくとも元部下が死んだということで、しかも殺人の調査で刑事が尋ねてきたのだから、それなりに緊張や驚愕があってもいいのではないだろうか。上司の人はそれほど驚くこともない様子だったが、よく見ると、驚きを隠しているふりもあった。
――なぜそんなことをしなければいけないんだ?
と感じた。
普通であれば、逆ではないだろうか。殺されたということにビックリしないと、最初から分かっていたかのようで、疑いをかけられることくらい、彼くらいのおとなであれば、誰だって創造がつきそうなものだ。それなのに、驚きの表情一つを見せないというのは、何を考えているのかと疑ってみたくなるのも仕方のないことだ。
それなのに彼は驚きを隠そうとして、さらにそれを隠し切れない様子である。
ということは、彼は岡崎静香が殺されたことに対して、最初から何かを知っていて、その心当たりは自分を恐怖に落とし入れる何かがあると思っているのではないか。驚きではなく恐怖が彼の中にあり、驚いてしまうと、余計に恐怖がどのような形で表に出て、刑事にどんな勘繰りを与えるかも分からないという発想が頭にあるのかも知れない。
もちろん、そんなことは考えすぎなのかも知れないが、上野刑事が感じ取った
「刑事の勘」
というものが、彼に何かを語りかけているような気がしたのだ。
上野刑事は、その時に事件に関する重大なことに気が付いていた。それがどこに繋がるかまでは分かっていなかったが、感覚に狂いはなかったのである。そう思うと、門倉刑事や課長が、
「彼は将来有望だ」
という言葉を口にしていたことがあるというが、その目に狂いはなかったということであろう。
上野刑事は、自分の勘が間違っていないという信念の下に、彼に事情を聴いてみることにした。それが現時点での正解だったに違いない。
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