第3話 勧善懲悪
門倉刑事は、捜査の相棒と一緒に、殺された赤嶺佐緒里の近辺を洗っていた。まずは彼女のマンションの住人にいろいろ話を聞いていたのだが、やはりマンションというと、ほとんど誰も他の住人のことなど気にする人も少なかった。聞ける情報もほとんどなく、半分諦めかけていた。
そんな中で、佐緒里の階下に住んでいる人のところに事情を聴きに行った時のことだった。その部屋の住人も、警察というだけで身構えてしまって、何も話そうとしない雰囲気だった。
――知っていても、話さない方が無難だ――
とでも思っているのか、警察に対しての協力心は皆無に近かった。
「本当に近隣の人からの意見というのは、もらえませんね」
と、相棒も嘆いていたが、まさにその通り、
「自分が相手の立場になれば、どうだ? 犯罪捜査という名目で、まるで自分たちのところに土足で上がってこようとすれば、誰だって警戒するだろう」
と門倉刑事がいうと、
「でも、これは殺人事件ですよ」
というので、
「それだって、彼らには関係のないことさ。変に犯人にとって都合の悪いことを話してしまうと、逆恨みされないかって思ってしまうと、知っていても話そうとはしないさ」
「そんな。我々がバラすわけないじゃないですか」
「そんなことは、あくまでも警察関係者の理屈であって、一般市民には関係のないことさ。特に小説やテレビドラマなどでは、下手に証言してしまったために、殺されたなんて話もあるだろう? そんなものを見れば、誰だって怖くなるさ。特にマンションの広間部屋にいう人は主婦が多いじゃないか。昼のテレビというと、再放送のサスペンスが多かったりする。主婦はそういう番組を見たりしているだろうから、警察に対しての信頼感など、あったものではないんだろうな」
と、門倉氏は淡々と話した。
「やる気がなくなってきますね」
「そんなに簡単に情報が手に入れば苦労はしないさ。地道な捜査と少ない情報からでも事件解決に結び付けられるものを自分で養っていれば、どうにかなるものさ」
と門倉刑事はいう。
これが鎌倉探偵の助手と言われている門倉刑事の考え方だと思うと、相棒も納得はできるが、自分の中で何か釈然としないものがあった。それも仕方のないことだと思いながらも、ゆっくりと考えていたが、若くて血気に走っている刑事には、門倉刑事が何かを悟っているとしか思えなかった。ただし、それは門倉刑事の範疇であって、自分がその悟りを開きたいとは思わない。あくまでも自分は熱血漢であることを目指しているのだった。
門倉刑事が相棒とする人は、彼のような若いやつが多かった。それは自分で課長に進言していたこともあったくらいで、
「私は、どうしても一歩下がった捜査をするように考えるので、相棒に選ぶのであれば、若くて血気にはやっている人の方がいいかも知れません」
と、促していた。
課長もその気持ちが分かったのか、今の彼の相棒は、上野刑事であり、上野刑事とすれば、なかなか馴染めない門倉刑事に少し苛立っているところもあった。それは傍から見ていてもよく分かっていて、当の本人である門倉刑事はもちろんのこと、二人を組ませた課長にも百も承知のことであった。しかも、それは思っていた通りの効果をもたらしているようで、その状態を今はしょうがかいとしても、以後継続していくことが、上野刑事の成長に繋がることは確信していた。そして、彼が門倉刑事くらいになった時、後輩を育てるのに最高の先輩になりえることも分かっているのだった。
階下の奥さんは、なるべく早く帰ってもらおうと、扉も半分しか開けずに、中を見せようとしない。これはこの部屋に限ったことではなく、他の部屋でもあったことだった。ただ、もう一つ理由があることを、門倉刑事は気付いていた。奥の部屋に一人の男の子がいるようで、扉の影からこちらを覗いていた。門倉刑事は、それとなく気付かないふりをするように上野刑事に促したが、自分は奥さんが上野刑事の質問に答えている時のちょっとした隙を見て、その少年を見た。
少年と言っても、高校生くらいの男の子であろうか、昼間のこの時間家にいるということは、ちょうど学校では試験中なのかも知れないと思った。
少年の顔を見た門倉は一度軽く会釈をすると、その少年も一瞬迷ったが頭を下げてくれたのだが、それだけのことでmすぐに中に入ってしまった。
――何かを言いたいのかな?
と門倉刑事は感じたが、何を言いたいのか想像もつかなかった、
まあ、このマンションで有力な手掛かりを得られるとは思ってもいなかったので、別に気にはしていないが、ただ、少年がどうしてこちらを見ていたのかが気になった。
もし、家に警察がしかも、制服警官ではなく、一組の刑事が尋ねてきたのだから、昨日の事件の話であることは一目瞭然である。だとすると、そのことが分かりさえすれば、少年はそれ以上気にする必要などないはずだ。刑事と目が合ってすぐに扉を閉めるくらいだったら、もっと早くに閉めていてもよかったはずだ。それなのに閉めるまでに時間が掛かったというのは、どういうことなのか、門倉刑事は気になっていた。
部屋を訪れたのは、五分くらいのものだったであろうか。その少年がその時の時間をどれくらいの間だと認識していたかは分からないが、少なくとも五分などという短くて、しかも中途半端な時間ではなかっただろう。
「どうも、ご協力ありがとうございました」
と言って部屋を後にすると、まず二人はエレベーターで一階まで降りた。
この行動は上野刑事にも想像がついたので、黙ってしたがった。一階まで降りると、今度はマンションの裏、つまり、ベランダ側に行くと、さっきの部屋のベランダを見上げたのだ。
すると想像通りにそこには先ほどの少年がべランド越しに下の二人を見ていた。
一瞬だけ上を見上げ、視線が合ったか合わなかったというくらいに目を向けると、相手は慌てて顔を隠したが、時すでに遅しで、しかも、向こうは最初からそのつもりだったので、見逃すはずなどなかった。これは相手が刑事であろうがなかろうが同じことで、目が合ってしまったことはしょうがないことだと少年は諦めることができるだろうか。
門倉刑事は別に少年を追い詰めようなどとしているわけではない。しかし、何かを言いたくてそれで迷っているのであれば、背中を押してやるのも、必要なことである。もしそれで何も行動がないのであれば、その時は門倉刑事の思い込みにすぎなかったとして諦めればいいだけのことである。
果たして、少年に対してのボールは投げられた。それを返してくるかどうかは、荘園次第だったのだ。
次の日になると、二人はマンションの聞き込みもある程度終わっていた。部屋が離れれば離れるほど、当然、情報が得られるなどと思っていないことから、ほとんど挨拶程度で終わる家もあり、相手も部屋が遠いという安心感からか、警察に対しての違和感はないようだった。
中には、
「お茶でもいかが?」
と、そんな気もないのに、言ってくる露骨な奥さんもいて、二人はウンザリした気分になったものだが、そんな思いは、どうしようもないことであった。
そのため、午前中には大体の聞き込みも終わり、マンションの近くにある児童公園で休憩していた二人だった。
ちょうどお腹も減っていて、
「小腹が空きましたね」
という上野刑事が、パントジュースを買ってきた。
それを口に含みながら、門倉刑事は
「あの少年、何か知っているような気がするんだけどな。何かをいいたいという雰囲気は感じるんだけど、どうもそれだけではなく、何かを訴えているような気もする。昨日すぐに隠れたのは、母親に対しての遠慮だったのかも知れないな」
「それは分かる気がします。男の子というのは、母親の背中を見るものですからね。母親の性格が影響していないとも限りません。特に母親というのが、世間一般の主婦と変わらない人であればあるほど、そうではないでしょうか? 自分が何か支配されているかのような錯覚に陥って、逃げ出したいんだけど、その勇気を持つことができず。そうしようもない気分になるとかですね」
「前にも後ろにも進めない。まるで五里霧中の中にいるという感じなんだろうね。その気持ち、分からなくもないけど、でもどこかでその思いは断ち切らないといけないんだろうな」
と門倉刑事は答えた。
「でも、それができる人はいいですけど、中にはできない人もいるんですよ。僕はそんな人を一番目の前で見てきましたからね。その気持ちがよく分かるんですよ」
と上野刑事は言った。
門倉刑事は、上野刑事の過去は知らなかった。しかし、彼には他の人よりも正義感が強く、悪を許せないという、
「勧善懲悪」
の気持ちが強いことが分かっていた。
「上野君は、本当に正義感が強いんだね。それに僕が思っているのは、弱いものを助ける気持ち、これが本当に強いような気がしているんだ」
と門倉刑事は言ったが、課長が自分の相棒に彼をつけてくれた理由が次第に分かってきたような気がしていた。
何がそんなに強く門倉刑事を引き付けているのか分からなかったが、その思いと同じかそれ以上のものを上野刑事は門倉刑事に持っているようだった。
その感覚は課長にもよく分かっていて、あまり上野刑事と面識のない鎌倉氏もそのことは理解していた。
鎌倉氏が上野刑事と初めて会った時から、課長より彼の情報は聞いていたので、門倉刑事が知っているよりも上野刑事の事情は分かっていた。課長が考えるのは、門倉刑事には、一緒に捜査する中で、彼から自分でその情報を引き出してもらえるようにすることが大切だと感じていたのだった。
「あの二人はいいコンビニなるだろうね」
と、鎌倉氏は言っていた。
「それは私も思います」
と鎌倉氏も言っていたが、二人の思惑は次第に実を結びそうになっていた。
門倉刑事が今まで先輩刑事から受け継いできた刑事としてのノウハウを、今こそ彼が後輩に伝える時がやってきたのだった。
そんな二人だったが、その時、上野刑事は、自分の過去を聴いてもらいたいという思いを強くしていた。
どうしてそんな気持ちになったのかは、本人である上野刑事にもハッキリとした理由は分からなかったが、その気持ちをいかに表現するかということを、考えているようだった。
何かを考え始めた時の上野刑事というのは、実に分かりやすい。彼が人に隙を見せる時があるとすれば、この時なのであろうと、門倉刑事は感じていた。それを上野刑事が自分で感じていたのかどうか、正直分からない。分からないだけに門倉刑事は上野刑事は自分を慕ってくれていて、そんな上野刑事を、
「可愛い後輩」
だと思っていることに、ベタではあるが、ベタなだけに素直に喜びを感じられる気がしていた。
ベンチにゆっくりと座っていると、後ろから何かの視線を感じた門倉が、思わず後ろを振り返る。上野刑事は気付かなかったようで、まだまだ彼は前だけを猪突猛進に見るタイプのようで、
――若いな――
と門倉に思わせた。
しかし、それが悪いというわけではない。若さの特権とでも言えばいいのか、今はそれでいい。むしろそっちの方がいいと言った方がいいのか、下手にまわりに気を遣ってこじんまりとなるよりも、最初の方は思ったことを突っ走る方が、案外と大物になれたりするものだ。
そのことは門倉も理解している。自分ではそんな大物になれないことが分かっているので、今の生き方を選択したのだが、それまでは試行錯誤の中、
「大物になりたい」
と感じる時期もあった。
そんな毎日を考えていると、今では鎌倉氏と一緒にいる方が、警察で大きな顔ができるよりもよほどいい。
「警察は庶民のものであって、特権階級のものではない」
という考えを持っていることが、普通なのだと思っていたが、実際に内部に入ってみると、その実情は結構違うようだった。
――それこそ、ドラマで見たような話だ――
と思い、そういえば、
「事件は会議室で起きているのではない」
などというベタなセリフを思い出したりもした。
そもそも、警視庁を本店と呼び、それ以外を支店と呼ぶ時点で、胡散臭い思いがあった。しかも、同じ警察でありながら、
「管轄が違うじゃないか?」
などと、管轄だけを意識しているような体制にはウンザリさせられる。
「俺は警察に馴染めないんじゃないか?」
と考えたこともあったが、それはきっと自分だけではなく、皆一度は感じたことなのだろうと思うのだった。
振り返った後ろには、昨日の少年が立っていた。
と言っても、自転車を押しながら歩いているところに二人の刑事がベンチに座っているのを発見したというべきであろうか。後ろ姿しか見えないはずなのに気付いたというのは、背広を着た大の大人が、児童公園のベンチに座って話をしているという光景が、その場にはおyほどそぐわない光景に見えたということなのかも知れない。
上野刑事がどのあたりで気付いたのかは分からなかったが、少年が自転車を押しながら近づいてくるのが分かった門倉は、露骨に後ろを見た。その時に上野がビックリしなかったところを見ると、その時には気づいていたということであろう。
――一体、いつの間に?
と思ったが、刑事として気付かれないふりができるのは大きな武器だと思っていたので、それはそれで評価に値するものであった。
「確か君は、昨日我々が事情を伺った家の息子さんだよね?」
とか毒ら刑事が尋ねると、少年は黙って頷いた。
――どうやら、少し引きこもりなところがあるのかな?
と、相手が返事をしないことでそう感じたが、昔と違って、返事をしないだけでそう判断するのは早急にも思えた。
しかし、彼は何かを言いたいようだった。
「言いたいことがあるなら、おじさんたちが聞いてあげるよ。だから安心していていいんだよ」
と声を掛けた。
相手が中学生か高校生であれば、言われて屈辱的に感じたとすれば、それは正常な証拠であり、黙ってしたがったとすれば、やはり引きこもりの気があると考えてもいいだろう。
彼の場合は、微妙であったが、少なくとも顔には屈辱感が浮かんでくることはなかった。それを思うと、やはり彼が引きこもりなのは、分かり切っていることではないかと思えたのだ。
「刑事さんたちは、佐緒里さんの事件を調べているんでしょう?」
と訊ねてきた。
「ああ、そうだよ。昨日君のお家に行ったのは、君のお母さんが何かを知っているんじゃないかと思って、それで聞きに行ったんだ」
と上野刑事がいうと、少年は何か苦み走ったような表情を浮かべた。
それは少なくとも今までに初めて見た彼の感情から来る表情だった。
苦み走った表情はたぶん、母親に対してのものだろう。
――あんな母親に何を聞いたって答えるもんか――
という、母親に対しての嫌気を表すような態度だったように思う。この少年は何かを知っているのかも知れないと思ったが、必要以上には聞けないと思った。
「僕は、佐緒里さんとは、お母さんの知らないところで実は勉強を教えてもらっていたんだ」
というではないか。
「どこで教えてもらっていたんだい?」
「お姉さんのお部屋。表だったら人に見られる可能性があるでしょう? 僕はお母さんに見つかるのが嫌だったんだけど、お姉さんは、世間の目を気にしていたと思うんですよ」
と少年は言った。
佐緒里のことをキャバクラで聞くと、
「彼女はあまりというか、ほとんど世間体なんか気にする人じゃなかったわね。人から何か言われても、別に気にしないというタイプの人で、結構、それが人と衝突しない秘訣のようなことを言っていたような気がするわ」
と言うではないか。
「それってどういう?」
「要するに、人に気を遣ったり遣われたりするから、余計な神経をすり減らすことになって、その思いが嵩じると、勘違いしやすいんじゃないかって言っていたわ。きっと今までに何かがあって、そういう考えに至ったんでしょうね。私たちもその考えに半分は賛成なんだけど、でも自分たちにはできっこないという考えがどうしても前提的にあるから、何も言えないんだけどね」
と言っていた。
なるほど、それが彼女の性格を構成しているのだとすれば、この話は十分な説得力があった。ひょっとすると、この引きこもりに見える少年の勉強を密かに教えていたというのも分からなくはない。人に見られるのが怖いというよりも、彼の母親の存在が気になっているのかも知れない。
――ひょっとして、殺された赤嶺佐緒里と、母親との二人の間に何かあったのかも知れないな――
と、門倉刑事は感じていた。
しかし、そのことをこの少年に話すわけにはいかない。とりあえず、少年の知っていることだけを聴くことにしよう。
「そうだ。君はお名前は何というのかな?」
「僕は、鈴木清彦って言います。学校ではあまり成績もよくなくて、かといって毎回補習を受けるほどひどくもないんですよ。いわゆる一番目立たないタイプとでもいうんでしょうか?」
「お姉さんにどうして勉強を教えてもらうことになったんだい?」
「あれはお姉さんが、一度この公園で、教科書を読んでいるところを見たことがあったんですが、その顔が本当に懐かしそうに見えたんです。僕は思い切って声を掛けてみました。普段ならそんなこと、絶対にしないんですが、声を掛けてみると、急にビックリしたように振り向いたお姉さんはなぜか泣いていたんです。すぐに涙を拭きながら、『私、学生時代にはグレていたんだけど、本当は教師になりたかったのよ。おかしいわよね』と言って、涙でぬれた顔に笑顔を浮かべるんです。僕はその顔を見た時、胸がキュンとしてしまったんですよ。そこで思わず、『じゃあ、僕に勉強を教えてくれませんか?』って聞いてみたんです。当然断られると思ったけど、お姉sなは、ニコッと笑って、いいわよって言ってくれたんですよ」
と、清彦少年は、そう言いながら虚空を見つめ、思い出し笑いをしているかのように見えた。
「きっと、彼女も生徒と呼べる人が欲しかったのかも知れないね。でも、彼女に高校生の男の子を教えることなどできたのかな?」
と聞くと、
「大丈夫でしたよ。一緒に教科書や参考書をしているうちに、彼女の方もだんだん思い出してきたなんていうじゃないですか。その時になって、僕が結構大それたことをお願いしたんだって、初めて気づきました。でも、お姉さんはそんなことは一切に気にしていないようで、必死に勉強についてきています。考えてみれば。僕は寂しかったんです。そんな僕には普通の家庭教師や塾なんかよりも、一緒に成長しようとしてくれるお姉さんが、一番よかったんだって思うようになりました」
「うんうん、それはいいことだよね」
「でも、お姉さんは時々、急に考え込んでいることが多かったようで、それが何から来るのか分からなかったんです。ある日お姉さんは、僕に向かって、『清彦君は正義の味方なんだね?』なんて言うことがあったので、『そんなことはないよ。悪が許せないだけさ』と答えたんです。すると、『清彦君は偉いんだ』っていうので、『偉いのかどうか分からないけど、正直なだけだって思いたい』って答えたんだ」
と清彦は言った。
「そっか、清彦君は、まるで水戸黄門みたいな感じなのかな?」
と上野刑事がいうと、少し彼はムキになって、
「そんなことはないよ。僕は自分に正直に生きたいだけさ」
と言った。
どうやら上野刑事は、少年を挑発し、本音を聞き出そうと思ったようだが、中途半端に終わったようだ。彼がムキになったのは、どこか自分が正直であるということに、何らかの違和感を持っているようで、その違和感がまわりにどんな影響を与えているのか、彼自身、分かっていないようだった。
だから、上野刑事の挑発に中途半端に乗ってしまうのだろうが、その中途半端を許せない自分もいるようで、その感覚が、自分の中にある寂しさを認めたくないと思いながらも、相手によっては。公然と、
「寂しい」
と口にしているようであった。
「君は本当に悪を許せないタイプの、弱気を助け、強気をくじくという感覚の男の子なんだろうね」
というと、
「そういうのを、何ていうか知っていますか?」
と逆に質問してくるではないか。
門倉刑事は分かっていたが、敢えて聞いてみた。
「何というんだい?」
と聞いてみると、彼は一言、
「勧善懲悪っていうのさ」
と、そんな難しい言葉を知っている自分を誇らしげに飾っているかのように見えた。
「そうか、勧善懲悪か」
と言った門倉は、まさに清彦少年のような人のことをいうのだと、感じていた。
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