第五章:闘技大会編

第43話 魔力量が多すぎる少女

 鏡華大心国の王都に着いた俺たちはその城壁で衛兵たちに問い詰められていた。


「さあ、冒険者カードを見せてみろ」

「うっ……そ、それはどうしてもか?」


 冒険者カードを見せてしまえば少女たちが英雄であることがバレてしまう。

 今は上着のフードを深くかぶっているから顔は見られていないが、間違いなく英雄であることがバレてしまえばフードを取ってほしいと言われてしまうだろう。


 そうなったら周囲にも彼女たちが英雄であることがバレ、騒ぎになってしまう。

 ここには闘技大会で優勝しようとする猛者たちが集っているのだから。


 どうするか考えていると、ニーナはスッと五枚の冒険者カードを取り出した。


「これでいい?」

「……はい、問題ありません。ではどうぞ」


 そう言って衛兵は普通に俺たちを通してくれた。

 おお、ニーナはこういう時の為に偽装カードを用意していたのか。

 流石だ――と思ったが、俺だけ何故か止められる。


「君の分はまだ見せてもらってないけど」

「……え? あれ?」


 もしかしてニーナは俺の分を用意していなかったのか?

 まあよく考えたら当たり前である。

 冒険者カードは高度な魔法を使用して作られているからな。

 一、二週間で作れるものじゃないし。


「ほら、君のカードを見せなさい」

「……はあ。もう、分かりました。これです」


 手を振りながら街の中に入っていく少女たちを見送りながら、俺は冒険者カードを取り出す。

 すると衛兵はお手本通りの驚き方をした。


「って、え、Sランク冒険者様でしたか! こ、これは失礼したしました!」


 その叫び声にざわざわと闘技大会にやってきた猛者たちが集ってくる。

 俺を囲むように見定めしてくるので凄く居心地が悪い。


「おい、Sランク冒険者だってよ」

「よく見たらやっぱり立ち振る舞いからして違うな」

「ああ、とんでもなく強そうだぞ……」

「流石は大陸最大の闘技大会だ。そんな猛者まで出てくるとは……」


 野次馬たちは適当なことを好き放題言っている。

 俺はそれをあえて無視して衛兵に言った。


「あ、あのぉ……そろそろ中に入りたいんだけど」

「あっ! す、すいません! どうぞ!」


 だが周囲に人だかりが出来ているせいで、なかなか先に進めない。

 はあ……これだから冒険者カードを見せたくなかったんだよなぁ。


 それから俺は街の入り口で小一時間ほど拘束されるのだった。



   ***



 俺は街へ入るとさっそく闘技大会の受付に向かった。

 王都の端に巨大な闘技場があって、そこで闘技大会が行われるらしい。

 受付もその闘技場の脇にあるらしいから、俺はそこまで歩く。


 すると――その道の途中でドゴォンという爆発音が響いてきた。

 何事かと煙が上がっている方を見るが、何故か街の人たちは気にしていない様子だった。


 俺は慌ててそちらに向かうと、爆発に巻き込まれたのか真っ黒に焦げてる少女が何故か母親らしき人に叱られていた。


「もう、ナナ! いつになったら分かるの!? あなたが魔法を使ったら大変なことになるって分かってるでしょ!」

「……ごめん、お母さん。でも私は何もしてないの」

「そんなわけないでしょ! どうせまた魔法でも使おうとしたんでしょう、全く!」


 どうやらナナと呼ばれた少女は魔力操作が苦手で暴発させてしまっているらしい。

 うーん、そんな風に叱りつけても根本の解決にはならないと思うんだよなぁ。

 そもそも彼女の魔力の暴発は自身の魔力操作力の問題で、意図的に起こしているわけじゃなさそうだ。


 これは何とかしてあげないと、彼女、最悪死に至るぞ……。

 しょうがない、俺が彼女に魔力操作を教えてやるか。

 そう思って近づこうとしたその時。


 ――ミシミシミシッ!


 再び膨大な魔力量のせいで空気が歪み、少女の魔力が暴発しそうになっていた。

 俺は慌てて少女の手を握ると、彼女の魔力を操作してあげる。


 圧倒的すぎる魔力量で俺の操作からも逃れようとしてくるが、何とか抑えてあげる。


「ふぅ……何とかなったか」


 思わず冷や汗をぬぐってそう言う。

 ナナちゃんは俺のほうを見て何やらもの凄く目を輝かせていた。


「凄い、おじさん! 私の魔力を操っちゃった!」

「おいおい、おじさんって言うんじゃないよ。全く、俺はまだギリおじさんではないのに」

「え? そうかな? 私にはおじさんに見えるよ!」


 そんなナナちゃんに対して母親は頭を叩き叱る。


「ダメでしょ、ナナ! 知らない人におじさんなんて言っちゃあ!」

「……ごめん、お母さん」


 そして俺に頭を下げてくると言った。


「すいません、お兄さん。私の娘が無礼なもので」


 ……うん、やっぱりおじさんでいいや。

 お兄さんって呼ばれる方が背筋がぞわぞわしてくるぞ。


「まあおじさんはいいんだけど。この子に魔力操作を教えてあげないと大変なことになるぞ」


 俺が言うと母親は首を傾げて言った。


「大変なこと? 大変なことって何ですか?」

「まあ例えば、死に至るとか」


 俺の言葉に母親はサッと顔を青くすると、震える声で聞いてくる。


「それって冗談ですよね……? たかが魔力量がちょっと多いってだけで死ぬなんて……」

「いや、ちょっとじゃなくて相当、かなり、膨大なって感じだぞ。一般人の千倍くらいはあると思う」


 更に言うと母親はもっと顔色を青くした。


「あの……私はどうすれば……」

「まあお母さんでは魔力操作を教えられないだろうから、俺が定期的に教えに来てやるよ」

「……いいんですか? 私、あまりお金を持ってないんですけど」

「いやいや、お金は取らないよ。それよりもナナちゃんの命のほうが大事だからな」


 母親はそれを聞いて震えながらも頭を下げてきた。


「ありがとうございます……。ナナをよろしくお願いします」

「ああ、任せろって」


 それらの話をあまり理解せずに聞いていたナナちゃんは首を傾げて俺にこう聞いてきた。


「それって私も魔法が使えるようになるってこと?」

「そうだぞ。それもそんじょそこらの魔法じゃない。もの凄い魔法が使えるようになるのさ」


 すると彼女は目を輝かせて言った。


「えっ!? ホント!? やったぁ! ありがとう、おじさん!」

「じゃあ俺はこれから闘技大会の受付を済ませてくるから、そしたら特訓をしような」


 そう言って一度ナナちゃんたちと別れると、俺は急いで闘技場に向かうのだった。

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