第18話 ギルド長との模擬戦開始

 次の日、俺は早朝にこっそり王城を抜け出して冒険者ギルドに来ていた。

 10年も田舎村にいたからそろそろ冒険者カードを更新しないといけないと思ったのだ。


 しかし三人を伴って冒険者ギルドになんて行ったら流石に騒ぎになる。

 だから俺はこうしてコソコソと隠れるように王城を出てきたのだった。


「失礼しまぁす……」


 冒険者は好き勝手に生きている人が多い。

 だから深夜に街に帰ってくる者や、早朝に帰ってくる者など、様々いるのだ。

 冒険者ギルドはそれに対応すべく、どの時間帯でも営業していた。


 早朝の冒険者ギルドは出立する準備を整えている冒険者たちが多い。

 みんな綺麗に磨かれた鎧を纏い、緊張や期待の表情を湛えていた。


 俺の顔はまだあまり知られていないらしく、思った通り騒ぎにはならない。

 まあどこにでもいるおっさんだからな、俺は。


 そのまま奥に進み、俺はカウンターの列に並んだ。

 朝だからそんなに列も長くなく、すぐに呼ばれそうだった。


「次の方~、どうぞ」


 呼ばれ、俺は受付嬢の前に立ち冒険者カードを見せながら言った。


「あの、そろそろ冒険者カードを更新しないといけないんですけど」

「冒険者カードの更新ですね。畏まりました。ええと、名前は……アリゼ様!?」


 彼女は俺のカードを受け取りながら名前の欄を見て、目を見開いた。

 その声によって俺は一気に注目を集めてしまう。


 まずったなぁ……。

 注目を浴びたくないから早朝に出てきたというのに。


 そんな内心とは裏腹にゾロゾロと冒険者たちが興味深そうに寄ってくる。

 受付嬢はそんな状況に申し訳なさそうにしながら言った。


「ええとですね……Aランク以上の冒険者カードの更新は、実力が落ちてないかを確かめるため、模擬戦をしてもらわないといけなくてですね……」


 そうなのか、初めて知った。

 Aランクになってからの更新は初めてだったからな。


 その受付嬢の言葉に色めき出す冒険者たち。


「おおっ、アリゼ様の実力が見れるのか!」

「英雄様たちを育て上げた師匠、その力は必見だよな」

「これは出立を遅らせても見なきゃいけないわね」


 うーん、なんだか面倒なことになってきたぞ。

 でも模擬戦は規則らしく、それをしないと更新ができないらしい。

 ……それなら、仕方がないか。


「それで、相手は誰なんですか?」

「我がギルドのギルド長、バラン様との模擬戦になります」


 さらにそれを聞いた冒険者たちはテンションを上げていた。


「あの元Sランク冒険者、バランさんとの対決か!」

「ああ、今日はツイてるな! たまたま早朝に来て良かったぜ!」


 そんな声があちこちから聞こえてきた。

 俺は諦めたようにため息をつくと、頷いて受付嬢に言った。


「分かった。それじゃあ今から模擬戦出来るか?」

「はい、一応バラン様に聞いてきますが、可能だと思います」


 そして他の受付嬢がパタパタと階段を上がり、ギルドの二階に向かっていった。

 対応してくれていた受付嬢は、他の本人確認とかの手続きをしてくれるらしい。


 数分後、そのバランさんは眠そうな声でボソボソと喋りながら、階段をゆっくりと下ってきた。


「こんな早朝から模擬戦をするってぇ奴は誰だ。生半可な奴だったらただじゃおかねぇぞ」


 ……俺はただのおっさんだし、生半可な奴認定されないだろうか?

 恐々としながら彼が下りてくるのを待っていると、ふと目が合った。


「もしかしてあんたか? ……あんた、英雄様の師匠とか呼ばれてるんだってな?」


 そう言いながら獰猛な笑みを浮かべるバランさん。

 どうやら眠気は一気に吹っ飛んだらしい。


「まあ、俺はなんもしてないと思うんだけどねぇ。彼女たちが頑張っただけなんだけど」

「ふむ……決して自分の立場に驕らないと。いいじゃねぇか、気に入った」


 どうやら生半可な奴認定はされなかったっぽい。

 良かった良かった。


「それじゃあ、さっそく模擬戦すっか。久々だな、模擬戦ごときでワクワクするのは」


 ワクワクする相手じゃないです、俺。

 そんな凄くないです、俺。


 どうも期待値が高すぎて、それを裏切らないか不安でしかない。

 俺はバランさんとたくさんの野次馬を連れて、ギルド裏の訓練場に向かうのだった。



   ***



「さて、ルールは単純だ。俺の攻撃に五分耐えるってだけだ」


 対峙し、ブンブンと木剣を振りながらバランさんは言った。


 構えや歩き方などから、彼がとても強者だと言うのが分かった。

 負けることはないと思うが勝つのは厳しいかもと思っていたから、そのルールだったらいけそうだ。


「分かった。それなら大丈夫だ」

「おうおう、余裕だねぇ。普通なら俺の気迫にビビっちまうもんだが」


 まあ確かに一般人ならビビったりするかもな。

 でも冒険者ならこれくらい普通じゃないか?


 バランさんは振っていた木剣をピタッと止め、俺に向けると言った。


「さて、さっそく始めるぞ。準備はいいか?」

「ああ、構わんぞ」


 俺が頷くと、さっきの受付嬢がコイントスしてクルクルと宙を舞った。

 それが落ちたときに、試合開始なのだろう。


 ――コインは回転しながらカツンッと地面に落ち。


 いきなり凄い勢いでバランさんが飛び出してくるのだった。

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