第17話 美少女三人とパンケーキ屋に行った
「ふぃ~、疲れました!」
次の日の昼間、俺はハルカさんと剣の打ち合いをしていた。
彼女はなかなか筋が良く、すぐに教えたことを吸収していった。
「お疲れ様です、ハルカさん。あと、アリゼさんも」
そう言いながらミアがタオルを渡してきてくれる。
俺はそれで汗を拭いながら言った。
「今日はこの辺にしておこう。一日に詰め込みすぎても良くないからな」
「はいっ! ありがとうございました!」
素直に元気よく頭を下げるハルカさん。
彼女も手渡されたタオルで汗を拭うとこう言った。
「それで……午後の予定なんですけど、ちょっと帝都を案内させて貰ってもいいですか?」
「案内してくれるのは凄くありがたいけど、いいのか? 王女様が街を出歩いて」
俺が首を傾げてそう尋ねるとハルカさんは問題ないといった感じで頷いた。
「流石に英雄様二人とその師匠様がいらっしゃるところにちょっかいをかけてくる人なんていないですよ」
そういえばミアとルルネは英雄だった。
俺からすると娘同然の少女たちだからすっかり失念してしまう。
「それもそうか。てか、そもそも二人が来るかどうかだが」
俺の言葉にミアもルルネも食い気味に答えた。
「もちろん行きますよ! アリゼさんのいるところならどこへでも!」
「私もついていきます。ミアがアリゼさんに何をするか分かりませんからね」
どうやら二人も案内してくれることには賛成らしい。
というわけで、俺たちは私服に着替えると街に繰り出すのだった。
***
「アリゼ様。それとルルネ様とミア様も、お腹は空いていますか?」
大通りをそぞろ歩きながらハルカさんはそう尋ねてきた。
周囲の人間たちは俺たちを遠巻きから眺めてきている。
その視線は尊敬、憧れ、などなど、好意的なものばかりだった。
「ああ、流石に訓練した後だしお腹空いたな」
俺は頷きながらそう答える。
ルルネも同じように頷いて言った。
「そうですね、私もお腹が空きました」
すると、ミアは片手をあげてピョンピョンと主張するようにして口を開いた。
「はいはい! 私は甘いものが食べたい気分です! 一番おいしい甘味を所望します!」
そんなミアを見てハルカさんは微笑むと言った。
「分かりました、甘味ですね。それだったら帝都自慢のパンケーキ屋があるのでそこへ行きましょう」
そして俺たちはゾロゾロと観客たちを引き連れてパンケーキ屋に向かった。
「おお、凄く甘い香りが漂ってくるな」
「そうですね! 良いバターの香りです!」
俺の言葉にミアが嬉しそうに頷いてそう言う。
確かに香ばしいバターの香りだ。
その匂いのせいで俺は思わずぐうっと腹を鳴らしてしまった。
そんな俺を見てハルカさんはふふっと笑うと店の扉を開ける。
「さあ、さっそく入りましょう」
「なんか王女様に扉を開けてもらうとか逆に気まずいな」
「ふふっ、こんなことをしてあげられるのは流石にあなたたちだからですよ」
やっぱり自分の現在の立場というものに慣れない。
ただの田舎に住んでいたおっさんなのにな、俺。
ともかく俺たちは店内に入り、店員さんに案内される。
店員さんはガチガチに緊張してしまっていて、少し申し訳なさを感じた。
流石に王女様と英雄二人の相手とか胃が痛くなるに違いない。
「こ、こちらへどうぞ……」
そう案内された椅子に座り、俺たちはメニュー表を見た。
普通のパンケーキから、イチゴのたくさん乗ったものや生クリームのたくさん乗ったものまで、多種多様なパンケーキがイラストともに書いてあった。
「やっぱりイチゴよなぁ……」
「アリゼさんは昔からイチゴが好きですよね。変わらなくて安心しました」
俺がぽつりと呟くとルルネがそう言ってきた。
確かに俺の好みは10年前から変わってない気がする。
「私もイチゴのものにします!」
こうしてミアが一緒のものを頼むのも、10年前と変わらない。
「うーん、私はどれにしましょう?」
ルルネが悩んでいると、ハルカさんがそれを見て一つのメニューを指さした。
「個人的にはこれがおすすめですよ」
そこにはあんこなるものが乗ったパンケーキが書かれていた。
「あんこってなんだ?」
俺がそう尋ねるとハルカさんに代わってミアが答える。
「あんこと言うのは醤油などと同じ鏡華大心国で作られている甘い食べ物ですよ!」
「へー、そんなのがあるのか。確かに前食べさせてもらった醤油は美味しかったな」
ミアはグルメなので、そういったものを色々知っていた。
「じゃあ私はこれにします」
そう言ってルルネも決まり、俺たちは注文した。
注文が来るまでの間、俺たちは思い出話に浸る。
ダンジョンに初めて行った日のこと、一緒に川で泳いだ日のこと、ルルネが怖くて毎晩俺のベッドに潜り込んできていたことなど、懐かしい話がいっぱい出てきた。
潜り込んでくるルルネを見たミアが、その反対側に潜り込んでくるのも、毎晩のお決まりだった。
ハルカさんはそんな話を決して嫌な顔をせず、心底楽しそうに聞いていた。
俺は再び娘同然の少女たちが五人自分の前に集まることを思い描いて、思わず口元がにやけてしまうのだった。
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