第7話 十年ぶりの再会は――
襲い掛かってきた魔物たちを一刀両断してボッコボコにしていたら魔族の方がまたキレた。
「貴様ァ……ジジイのくせにどんなチートを使った?」
「まだジジイじゃないって言ってるでしょ。それにチートも使ってないし」
やれやれと首を振りながら言うと余計に魔族はキレる。
「嘘つけッ! この強さ、絶対にズルをしているに違いないッ!」
出た出た。
自分の知らない世界があることを否定しちゃう人。
まあ若いんだし、仕方がないと思うけどね。
「そう決めつけるのは良くないと思うぜ。てかまずこの魔物たち、そんな強くないでしょ」
「つ、強くないだと……ッ!? 選りすぐりの魔物たちを集めたはずだ!」
これで選りすぐり……?
村周辺の魔物たちなら一匹で軽々殲滅できるくらいだぞ。
感覚バグってないか?
不思議そうに首を傾げると、魔族は腰にぶら下げていた杖を取り出した。
「クソが……。貴様は俺が倒さなければならないらしい」
「いやいや、まだ若いんだし、背伸びしなくてもいいんだぞ。もっと身の丈に合ったな……」
そう説教を始めようとしたそのとき。
横からバッとエルフの少女が出てきた。
「ガガイタスッ! そこまでよ!」
彼女のことを見た魔族は目を見開いて叫ぶ。
「ルルネ! ルルネだとッ!」
ルルネ……? 昔助けた奴隷少女の一人と同じ名前だ。
エルフではよくある名前なのだろうか?
確かにぱっと見、昔見た面影があるような気がするが、あのルルネだったら『魔の森』に足を踏み入れられるほど強くなかったはずだが……。
「アリゼさんのことは私が守るんだからっ! 強くなった私を見て貰うんだからっ!」
うーん、ってことはやっぱりあのルルネなのだろうか。
立派に成長していておじさん少し感動してます。
「くっ……流石にこの二人を相手取るのは分が悪いか……。ここは退散ッ!」
「逃がさないっ!」
ルルネはそう叫んだが、ガガイタスと呼ばれた魔族は何やら魔法を使って姿をくらました。
おー、そんな魔法が使えるならやっぱり有名な人なんだろうか?
転移魔法はかなり上位な魔法だった気がするぞ。
そう少し感心していると、ルルネは悔しそうに地団太を踏んだ。
「ああもう! 逃げられた! 最悪っ!」
確かに声や喋り方はあの時のままだ。
俺は懐かしさでジーンとなりながらルルネに近づいた。
「ルルネ――久しぶりだな」
「あ、アリゼさんっ! アリゼさんっ! ほんっとうにお久しぶりです!」
俺がそう声かけると、先ほどの悔しそうな顔は霧散して、ぱあっと笑顔になった。
「立派に育ったなぁ……。随分と美しくなったものだ」
前の癖でそう言いながら俺は彼女の頭を撫でてしまった。
ああ、もうそんなことをされる歳じゃないよなと思ったが、彼女は満更じゃなさそうな表情をする。
「ふふっ……。こうしてアリゼさんに頭を撫でられるのは久しぶりです」
「ああ、そうだな。もう10年ぶりになるのか」
「そうですよ! 今まで何をしていたんですか! 必死になって探していたのに!」
そうか、探してくれていたのか。
それだったら申し訳ないことしたな。
あの村には誰も寄り付かないだろうからなぁ……。
「俺はこの『魔の森』の最奥にある村に居ついていたんだよ」
そう言うと彼女は不思議そうに首を傾げた。
「この森の奥に村があるんですか……?」
「そうなんだよ。この森の中心地には草原が広がっていて、そこに小さな村があるんだよ」
俺のその言葉に彼女はひどく驚いた表情をした。
「え……っ! 中心地まで行ったんですか!?」
「ああ、まあそうなるな」
なぜ驚いているのか不思議に思っていたが、彼女は一人頷くと勝手に納得した。
「まあアリゼさんならそれくらい余裕なのでしょうね……。まだこの森を踏破出来た人はいないはずだったのですけど」
よく分からないが、俺はふと気になったことがあって話題を変える。
「そういえば他の子たちはどうしているんだ? 彼女たちともまた会いたいし」
ルルネはそれを聞いて、少し考えるように視線を泳がせた後、どこか誤魔化すように言った。
「他の子は……私は知りません。多分、どっかでなんか頑張ってるんじゃないでしょうか」
「そうか、残念。まあとりあえずルルネに会えたってだけで喜ぶことにしよう」
そんな話をしながら森を歩いていると、唐突にルルネは空を見上げ、それからこう言った。
「とと、いったん私は帰りますね。それでアリゼさんは要塞都市アルカナに居るんですか?」
「当分はそうだなぁ。まだ要塞都市にいると思うよ」
その言葉にルルネは満足そうに頷くと、バッと駆け出して行ってしまった。
まだ話したいことたくさんあったんだけどなぁ。
まあ居場所を聞いてきたってことはまた会えるってことだろう。
そう思いつつ、俺も要塞都市アルカナに戻るのだった。
***
天空城にて。
ルルネは円卓に座る他の四人の英雄たちにこう言っていた。
「魔族ガガイタスは私が引かせたわ。だからとりあえず要塞都市アルカナは平和よ」
そう言うとアカネが訝しげにルルネを見て尋ねた。
「……本当か? ルルネにそんな力があるとは思えないが」
「私もあれから成長したということよ。それに天空城の恩恵もあったしね」
みんな半信半疑だったが、ルルネが嘘をつく理由は見当たらない。
だからとりあえず、その言葉に納得することにした。
「でも――ひとまず私は要塞都市に居座るわ。いつ危険が舞い戻ってくるかは分からないもの」
その言葉にアーシャは頷いて言った。
「そうですね、そうしてくれると助かります。アリゼさん探しは私たちに任せてください」
胸を張って言うアーシャにルルネは居心地悪そうに視線を逸らすと背中を向けて言うのだった。
「アリゼさん探しは頼んだわよ。それじゃあ――行ってくるわ」
そして部屋を退出したルルネは、小さい声でボソッとこう呟くのだった。
「最初にアリゼさんを見つけたのは私だし――少しくらい独占してもいいわよね?」
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