第3話 小説の悲哀
ただ、小説家をやっていたことが、探偵としてデメリットになったことはなかった。自分の書いた小説にはそれなりの思い入れもあったし、事件の中には、
「自分がこれを小説に書くとしたら」
などと思って臨んだものもあった。
作家というものが本当に、小説を書くだけだと思っているとすれば、それはあまりにも知らなすぎである。いや、別に小説家のことを一般の人が知らなければいけないという決まりはないが、こちらが考えていることを違うことを想像し、下手な勘ぐりを入れられるとすればそれを心外だと思ってるだけである。
小説家というもの、それぞれにやり方がある。自分の作品を書いている時には、人の作品はまったく読まないという人もいれば、違うジャンルであれば読むという人もいる。ちなみに鎌倉氏の場合は、人の作品は一切読まなかった。小説家を辞めてから読むようになったが、その感想としては、
「なんだ。こんなのでいいのか?」
というものであった。
自分の作品に過信しすぎているわけではないが、少なくとも作品を書いている時は、
「俺の作品が最高だ」
と思って書いている人が多いだろう。
ただ、人を感動させる作品が書きたいと思って小説を皆が皆書いていると思えばそれは間違いである。
「そう思わなかったから、売れなかったんじゃないのか?」
と言われればそれまでだが、小説というものは、身勝手なもので、作家が生みの親だと思っているのをいいことに、作家がどれほど苦労していても、何もヒントを与えてくれるわけではない
小説を書きながら
「ああでもない。こうでもない」
と考えている作家も多いと思うが、鎌倉氏の場合はそういうことはなかった。
もし、そんなことを考えることがあるとすれば、その時は、その小説をそれ以上書けない時ではないだろうか。
彼にとって執筆活動は集中力の三文字がすべてであった。いかに集中して、手を休めることなく書き続けるか、それが命だったと言ってもいい。
だから、書く挙げるまでにそれほど時間は掛からなかった。
「他の先生は、締め切りを守らない人が多くてね」
と担当の人がぼやいていたが、要するに鎌倉氏には、そういう心配はまったくいらないということだった。
小説を書いていると、本当に時間を感じさせない。それだけの集中力が備わっていないと、書き続けることはできないのだ。
鎌倉氏は、記憶力は悪くないと思っていたのに、小説を書き始めると、急に覚えられなくなった。それをいい意味に考えて、
「小説を集中して書いているから、我に返ると集中していた時のことを忘れてしまうんだ」
と感じていた。
実にポジティブな考えではないか。こんなことを堂々と言えば、
「おめでたいやつだな」
と言われるのがオチだろう。
しかし、小説などを書いていると、そんなものである。
元々集中したいから、静かな部屋で書いていたのだが、あまり静かすぎると、却って気が散ってしまうことに気付いた。
有名な作家先生などは、昔から、ホテルに缶詰めになっていると聞いたことがあるが、今でもそうなのだろうか?
本当に集中して書いていると、想像力を高めるために、何か音楽を聴きたくなるものだ。
そんな時に鎌倉氏が選んだのが、クラシックだった。
オーケストラの奏でる壮大なロマンが耳を通して頭を刺激してくれる。そして、壮大なイメージを想像させてくれるのだ。いや、創造を与えてくれると言ってもいいだろう。
彼は楽器の中では一番好きなのがピアノやオルガンなどの管弦楽器だった。その次はフルートやトランペット、クラリネットなどの吹奏楽器である。いかにもクラシック向きと言えるのではないだろうか。
小学生の頃、学校でずっと掛かっていたクラシックのしらべ、いわゆるシンフォニーと呼ばれる交響曲は頭に適度な刺激を与えてくれる。ミステリーなどの場面を思い浮かべるにはちょうそいい。
学生時代に読んだ昔の探偵小説を思い出す。ドロドロした雰囲気に猟奇殺人であったり、時代を象徴するかのような、いまにもつぶれそうな掘っ立て小屋のようなアトリエで作業している変質的な趣味の芸術家など、今ではほとんど見かけないが、昔はきっとたくさんいたのだろうということを想像させられる。
そんな光景を思い出しながら書いていたのだから、今でもクラシックが辞められないのも分かってもらえるであろう。
そんなことを思いながら、こーひを片手に小説を読んでいると、もうすぐに読み終わるであろうと思っていると、急に我に返ってしまった。
ちょうどその時、玄関の扉があいたのに気付き、思わずそちらを振り返った。
普段は、座ってしまうと、なかなか後ろを振り向くことのない鎌倉氏が後ろを振り返ったのを見て、マスターは驚いているようだった。
そして、そこにいたのが女性であったことで、またしても、マスターはビックリしていたようだ。
この店には女性が一人で立ち寄るということはあまりないが、中には女性一人の常連客もいるという不思議な店だった。
ただ、その人はカップルで来るようになったのだが、別れてしまったことで、この店を余計に気に入っていたのが彼女だったことで、彼の方が次第に来なくなったというだけのことなのだが、それでも女性だけが残るというのも、きっと稀な話なのであろう。
その時、扉を開けて入ってきた女性は、その常連の女性ではなかった。マスターもビックリしていることから、きっと初めての客なのだろう。それならそれで、きっと一見さんなのだろうが、マスターはそんなことをお首にも出さず、意識することもない様子だった。
彼女はちょっと戸惑っていたが、入ってきた以上、出るわけにもいかないというべきか、前に歩み出て、カウンターに座ることにした。
最初は一番手前に腰を掛けたが、奥に鎌倉がいるのに気付いて、
「あら? 先ほどはどうも?」
という声が聞こえた。
「あ、さっき本屋で」
と言った鎌倉氏だったが、あれからまだ三十分も経っていないはずなのに、さっき見た顔を忘れてしまったということだろうか?
今ここで本を読んでいるので、本を読むことに集中していたので、その間に彼女の顔を忘れてしまったということなのだろうか?
そういうことであれば、あまりにも都合のいい忘れ方に思えてならなかった。
――いや、都合のいい忘れ方ってどういうことなのだろう?
まるで忘れてしまうことがよかったかのように思ったのはなぜであろうか?
別に思い出したくないわけでもないのに、自分が今何を思っているのか、微妙に分からなくなっていた鎌倉氏であった。
それは読んでいた小説に原因があるのかも知れない。
ちょうど、もうすぐ読み終わりということは、いといと謎解きのシーンであり、いわゆるクライマックスのシーンである。まさに集中して読みたい場面に差し掛かってきているにも関わらず、邪魔をされたかのような気分にさせられたからではないだろうか。
実際にはそんなことはないはずなのに、そう思わされるというのは、それだけ小説に開りこんでいるということだ。
――俺だってこれくらいの小説――
と、作家をしている時であれば感じたであろう。
しかし、今はそんな闘争心もない。
ただ、小説を読んでいて、
――俺なら、もうちょっとここはこんあ風に書くな――
という思いを抱くことは結構ある。
だが、それを顔には出さないようにしている。時にこの店では顔に出してはいけない。
「俺は、小説家をすっぱりやめて、探偵を始めるんだ」
と、声を大にして宣言したのは、マスターの前でだったではないか。
その思いがまだ頭の中には鮮明に残っている。
――俺は探偵になって、どれくらい経ったんだ?
と、たまに考えるのは、そんな思いが結構よみがえってくるからである。
未練がないといいながら、たまに思い出すのは、自分がモノを作ることに造詣が深かったからだと思う。探偵をしていて、何かを創作するということはないので、そこが鎌倉氏に事件が解決に向かってしまうと、急にやる気をなくさせる一番の理由なのだろう。とにかくやる気がなくなるのだ。
「先ほどは、本を譲っていただいてありがとうございます」
という挨拶をしていると、マスターは、興味深そうに彼女の顔を覗いているのが分かった。
「いや、さっき本屋でね。同じ本を取ろうとしてちょうどかち合っちゃったんですよ」
と鎌倉氏がマスターに話した。
これだけを聴いていると、まるで言い訳のように聞こえるが、それはまさしく言い訳だと言ってもいいだろう。
だが、彼女はそんな感覚をまったくもっていないのか、表情が変わることもなかった。注文したコーヒーを口に運んでいる様子も、どこか高貴なイメージを感じさせ、若いのに、いつも一人が似合いそうな落ち着いた雰囲気を漂わせていた。
「どうしても、本屋さんには、ほしい本があるとは限りませんからね。売れる本は平積みにしているんですが、そうでもない本は、棚に一冊しかほとんどありませんからね。まるで図書館のようですよね」
と彼女は言っていたが、まさしくその通り、
「毎日のように何冊も発行されているんだから、それも当然ですよね。それにかなり昔は本を出したいという人が、星の数ほどいて、それに便乗した商法もあったくらいですから、私としては、あの時に本の価値のようなものが下がったんじゃないかって危惧しているくらいなんですよ」
とマスターが話した。
マスターも、鎌倉氏が小説家をしている時に一時期流行って、数年で消えていった、悪名高き、
「自費出版関係の出版社問題」
を知っている。
あの頃は、バブルが弾けたことから端を発し、
「二十四時間、働けますか?」
などというキャッチフレーズがあったバブル期のサラリーマンが、リストラされたり、会社の事業縮小、経費削減のために、残業をしてはいけないなどのそれまでとはまったく変わってしまった仕事生活から、何をしていいのか分からなくなった時期でもあった。
そのために、サブカルチャーというものが注目され、それぞれにスクールができたり、それまではプロしか手を出せなかった業界に今までは素人同然だった、アフターだいぶのサラリーマン、主婦や学生が、手を出す時代に入ってきた。
そのために、芸術、文芸、いわゆる趣味の世界のそれぞれの利用人口は爆発的に増え、そこで友達もできたりして、サブカルチャー生活を謳歌する時代へと変革していった。出版関係もその類に漏れず、原稿募集という形で人を集め、作品を評価する中で、本を出させるように仕向けていく。
しかし、高額な出資にも関わらず、本を出す人が後を絶えなかったのは、本を一冊出したことで、その後はプロにでもなった気分になったのか、それとも一冊で満足したのかは、その人たちでなければよく分からない。しかし、人の欲望に付け込んだ商売であることは間違いなく、その最後も出版した人たちから訴えられるという皮肉な結果になってしまったようだ。
そのために、作った本は大量の在庫として抱え込むようになり、倒産したことで、紙屑と化してしまったも同然だった。
その教訓もあるからか、出版にはかなりの費用が掛かる。折しもネットの普及、ネット内でのSNSという交流サイトの普及により、すたれてしまった出版業界は、ネット配信という形で、人に作品が読まれるようにもなってきた。
今ではスマホという携帯で、表でも気軽に読める時代だ。
活字にして、紙に書かれた媒体ではないため、製作費用は格段に下がった。それが今の本屋の衰退を読んだのだ。
そもそも、サブカルチャーを生活の中心として、にわか作家が世に蔓延った時点で、出版業界の先は見えていたのかも知れない。
確かに自費出版関係の出版方法は目の付け所はよかった。
「お送りいただいた原稿は必ず読んで、評価を付加して、必ずお返しします」
という触れ込みで、しかもちゃんと評価もしてあった。
しかも、その評価はいいことばかりが書かれて理宇訳ではなく、問題点もしっかり指摘していたのだ。
いいことばかりしか書いていなければ、その信憑性は疑わしいが、あくまでも批評したうえで、いいところを強調している。これでは、作者のほとんどが信用するのも無理はないだろう。実にうまいやり口だった。
だが、そんな作品をどんどん世に出すことを目的としているので、とにかく彼らの目的は、どんな形であっても、本を作らせて、作らせた分の利益を貪るしかなかった。
原稿募集と、出版社のイメージ宣伝のための宣伝費、そして、作品の批評をしたり、作品を本にする時のアドバイザーのような仕事、それだけの人のために使う人件費、さらには本を作っても、本屋が置いてくれるはずもなく、マンに一つの可能性で、本屋に置いてもらったとしても、一日か二日ですべてが返品となるはずなので、要するに製作したそのすべてと言っていいほどの本が、どこの本屋に置かれることもなく、日の目を見ることもない状態で、在庫として抱えなければならないという、膨れ上がった莫大な在庫を保管費、それらを経費とするならば、かなりの数、作家という出資者から、お金おwむしり取らなければいけなくなるわけだ。
当然、本屋に本が置かれていないことを知った俄か作家連中は、出版社を訴える。数人で訴えれば問題になって、出版社のやり方が世間に知られるようになると、本を出す人が激減し、そもそも自転車操業なのだから、資金繰りがうまく行かなくなり、倒産もやむなしだった。
しかも、時代の波に載って、似たような自費出版社関係がまったく同じことをしているのだから、一社が潰れれば、他の会社だって対岸の火事ではなくなっていて、ほぼ同じ末路を描くことになり、悲惨を絵に描くとはこのことになってしまったのだ。
だが、果たして出版社関係ばかりが問題だったのだろうか。今までは、有名出版社が設ける新人賞に応募して入選するか、あるいは、誰にも見られない持ち込みによるものしかなかったことで、
「作家というものや、本を出すという行為は、限られた才能のある一部の人間だけしかいない」
と言われていたのに付け込んでの、自費出版の台頭だっただけに、今まで例えば本を出したい、作家になりたいと思っている人が、数千人しかいなかったとすれば、自費出版社の台頭によって、数十万からの人が作家を目指すとなると、そのほとんどは、本を出すのもはばかるような駄作で、どうしようもない作品も中にはあっただろう。
本屋に出回らなかっただけよかったものの、実際に生を受けて生まれてきた作品の中には、文学に対しての冒涜とも思えるほどの作品もあったかも知れない。(もっとも、作者も人のことは言えないが)
それだけ、文章が世の中に氾濫していたと言ってもいいだろう。
それはまるで魑魅魍魎のように、表に出ることはないが、悲惨な目に遭いながら、消えていくでけの運命だったわけだ。
本に罪がないとすれば、生み出した作家、そしてそんな作品を書くように煽った自費出版社の連中と、一体誰の罪が一番大きいというのか、その煽りが今の本屋の衰退を招いている。
つまり、本屋の衰退は、ネットの普及だけにようるものではなく、かつての、高い文学性を持ち、文学という芸術の聖域を保っていた結界があったにも関わらず。そこに土足で入ってきて、人の数という暴力にも似た強引さで、その結界を破り、聖域をめちゃくちゃにしてしまい、その品格を地に落としてしまったということが、ひどさを煽ってしまったのではないかと思える。
実際に、ネットの投稿サイトに挙げられている作品で、見るに堪えないものも散見する。文学の倫理にそぐわないのではないかと思うものもあったりする。やはり時代の流れと称して、ライトノベルやら、ケイタイ小説などという無駄にスペースが多く、原稿用紙の枚数でも稼いでいるのではないかと思えるような作品には目を覆うものも多いような気がする。
作品の品格が地に落ちたことが招いた出版業界の危機は、本屋自体の数を減らしていることにも繋がっている。
そのことを憂いているのは、鎌倉氏だけではないだろう。
彼のようにプロで一度は活躍の場を与えられ、挫折してしまった人間であればこそ、この時代の憂いに対して文句も言えるのではないか。そう思うと、憂いている自分い情けなさも感じるが、誰もその事実を受け止めようとしないというのも、問題ではないかと思うのだった。
誰も問題視しないのは、完全にすたれる前に、ネットという逃げ道が確立してしまったこともあるのかも知れない。
考えてみれば、自費出版社の考え方、あれm逃げ道だったのではないだろうか?
そう思うと、鎌倉氏の嘆きは酷いものだった。
マスターの話にも力が籠っていた。自分は出版や本を書くことに対しては造詣を深めたことがなかったようだが、世間一般の目として、表から見ると、かなりの憤りがあったようだ。下手をすると、鎌倉氏おりも腹を立てているのかも知れない。
「いえ、マスターのおっしゃる通りですね。最近はどうしても、本というとネットですので、昔あれだけあった本もすぐに絶版になってしまい、再販されても、すぐ絶版、そしてまた再販を繰り返しているような気がします。出してみないと分からないという手探りなやり方は、衰退を招く一番の近道のような気がするんですけどね」
と彼女は言った。
「いやいや、まさしくその通りですね。私などもその器具を味わったようなものですからね」
と鎌倉氏がいうと、横からマスターが、
「ああ、この方は昔、小説家の先生だったんですよ。今は探偵になっているという変わり種ですがね」
とフォローしてくれた。
「これは失礼しました。作家さんだったんですね。私も一時期自分にも小説が書けるんじゃないかと思った時期がありましたけど、すぐに辞めました。だから書いたという意識もないんですが、中途半端に嵌るよりもよかったんじゃないかと今では思っています」
「そうですね。早い段階で見切りを自分につけた人や、今でも懲りずに自分の作品を貫いて書いている人は、僕はそれでいいんだって思います。今でも書き続けるということは、本当に好きじゃないとできませんからね。やはり趣味は、それをすることを好きなのかどうかということが一番ですよ。自分にもできるんじゃないかというのは動機としてはいいかも知れませんが、いつまでも同じ気持ちだったら、僕はロクな作品はできないような気がするんですよ。少々形が整っていたとしても、それは小手先だけのもので、自分で本当に満足できている作品なのかって疑ってみたくなります。僕は人に感銘を与える作品というよりも、書いている本人がどれほど満足できる作品を書けるかということの方がよほど大切な気がするんですよ。だって、他人よりも親の方が断然子供を愛しているわけでしょう? それを思うと、僕は作品に対しての良し悪しや責任は、あくまでも作者にあると思っているからですね」
と鎌倉氏は言った
「あ、私は高橋楓という者です。近くの会社に勤めています」
と丁寧に挨拶してくれた。
「僕は、鎌倉といいます。昔は、鎌倉三十郎という名前で何冊か書いたことがありましたね」
というと、
「一度読んでみたいですわ」
と楓は言った。
「お恥ずかしい話ですが、今は半分以上が絶版になっていて、発行されていても、なかなか本屋には置いていないので、取り寄せになってしまいますね」
「それは残念、でも本当に読んでみたいと思っていますよ」
という楓の言葉を嬉しく感じる鎌倉氏であった。
「どんな小説が多いんですか?」
「いわゆる、探偵小説関係が多いカモ知れませんね。最近ではあまり人気のない分野かも知れませんが、社会派というよりも、昔の本格探偵小説という感じです」
「本格というと?」
「謎解きやトリックなどを主流に下書き方ですね。私は、初期は猟奇的な犯罪とか、ドロドロした雰囲気の作品が多かったんですが、途中から変わっていきましたね」
「何か思うところがあったんですか?」
「そうですね、猟奇的な犯罪を書いていると、気持ちが滅入ってくるというのもあったし、本格的な探偵小説を書いてみたいという思いもあったんでしょうね」
「そうだったんですね」
「でも、僕の作品は初期の方が売れたような気がします。本格探偵小説を書くようになってから、急に売れ行きも悪くなってきて、出版社の担当の人からも、猟奇的な話に戻すように言われて、一時期、ジレンマに陥って、鬱状態になりました。作家を辞める原因の一つになったということには違いありませんね」
というと、
「でも、今は探偵さんをされているんですよね? 書いていた小説が役に立つこともあるんじゃないですか?」
「探偵と探偵小説ではまったくと言って違いますからね。でも、探偵小せつぃを書いている時も、今も基本的な考え方は変わっていないように思うので、今のお話もまんざらかけ離れた発想ではないような気がしています」
と、鎌倉氏は言った。
「いろいろな小説もある中で、今日、さっきですね、一つの小説を同じ時に取ろうとしたという偶然だったあるわけではないですか。きっと神様の思し召しか何かのように私は勝手に思っていますが、どうなんでしょうね」
と言われて、鎌倉氏は一瞬顔が赤くなった。
それをマスターはニッコリと笑いながら見ているのだった。
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