第17話 メデューサ?

 中に入ろうと片足を出した途端時が止まった。

 いや、止まったというより俺が止まったというべきか。

 ダンジョン内の自然や鳥型のモンスターが空を飛んでいるのが見える。

 

「ふふふ」


 不気味な笑い声が神殿中に響き渡る。

 突然俺の目の前に髪が蛇で、目を閉じている女性が現れる。


「人間の探究者!」


 女性は目を開けて言う。

 すると両足が石に代わる。

 メデューサなのか………。

 両足に力を入れるが、感覚がないせいかオーラが足まで到達しない。

 

《これやばいな》

《石化とか無理げーだろ》

《そういえば紅羽ちゃんたちどこへ行ったんだ?》


 足の石化が徐々に下半身を浸食していく。

 全身動けないために反抗することすらできず、目の前の配信画面を見ることしかできない。

 何かが崩れる音が聞こえてくる。

 その音は徐々に俺の方へと近づいてくる。

 突然のその音がやむ。

 すると、上半身が動くようになっていた。

 思いっきり右手に力をいれ目の前のメデューサの腹を殴る。

 予想以上に壁を壊して奥の方へと吹っ飛んで行いく。


「やりすぎたか」

 

 と独り言つぶやく。

 石化している下半身を右手で触れる。

 感触は、完全に石像に触ったかのように石の感触だった。


「やっぱりここでしたか、父上」


 後ろから声が聞こえてくる。

 振り返ると、白い翼をはやしたアテナが空を飛んでいた。


「アテナ………紅羽はどうした?」

「紅羽って、誰のことですか?」


 と言ってアテナが首をかしげる。

 

「っ………! いてぇ! なにすんだ紅羽!」


 俺は右の首筋を噛んだ彼女に言う。


「なにって」


 彼女が俺の下半身を指差す。

 すると、徐々に石化から解放されていった。

 感覚が元に戻り、足が動く。


「てかいつのまに俺の側にいたんだよ」


 頭を左手で抱えながら俺は言う。

 彼女はそんな俺を見てニコニコと笑顔で笑っていた。

 

「メデューサを殴る辺りからじゃが?」

「助けろよ!」

「メデューサを殴った旦那様がかっこよかったからついつい見惚れてしまったのじゃ」


 頬を赤くして慌てて両手で自分の顔を隠してしまう。

 かわいかったのになぁ。

 背後で風が吹く。

 背中に和ら感触が広がっていく。

 

「………これでいいのでしょうか?」


 少し恥ずかしがっているアテナの声が背中から聞こえてくる。

 その声が聞こえた途端全身の血流が上がる。

 アテナが抱き着いていることに気付いた彼女も俺に抱き着く。


「あの………」


 まさにサンドイッチ状態になる。

 ダンジョン攻略どころではない。

 動けなかった足を動かしたいのに、この状況では全く動くことすらできない。


「いい加減離してくれないか?」

 

 俺がそういった途端前後の柔らかい感触が無くなる。

 少し悲しい。


「紅羽て、母上の名前だったんですね」

「旦那様に付けてもらったのじゃ!」


 彼女は思いっきり尻尾を横に振って喜ぶ。

 聞かれたから付けただけなんだけどなぁ………。

 神殿の方へと少し入る。

 メデューサを吹っ飛ばしたおかげか、目的の場所まですぐ着いた。


「これは………。魔方陣ですか?」

「ああ、てかアテナこれ知らなかったのか?」

「はい。メデューサがこの神殿を支配していましたし、それに私はあの女神像に封印されてましたから。あはは………」


 アテナが困り顔で言う。

 すると、彼女はアテナの頭を撫でる。

 

「これでよいか?」

「はい。ありがとうございます」


 アテナの目には涙がたまっていた。

 母に頭を撫でられるのは子供にとっては幸せだ。

 俺はここ何年も撫でられたことがない。


「そうじゃ、なぜあのような像に封印されとったんじゃ?」

「よく分からないんです。なぜかそのことだけ記憶がなくて」


 彼女の顔が暗くなる。


「そうか」


 というと彼女は俺から距離を置いてしまった。

 彼女の元へと近づく。 

 

「紅羽、とりあえず次の層いこうぜ」

「ああ、そうじゃな………」


 彼女が無理笑顔を作る。

 俺は、その笑顔を見た途端、魔法陣へ向かう足を止め後ろを振り返る。

 彼女の両肩を掴む。

 咄嗟の反応で彼女が顔を上げる。

 俺は、少しゃがみ彼女を抱きしめる。

 

「な、なにするのじゃ………」


 驚く彼女を抱きかかえ、魔法陣の方へと向かう。

 付いてきていたアテナと共に第百二層へ。


「ごめんなさいのじゃ………」


 腕の中の彼女がしょぼくれた顔で言う。

 アテナが腕の中の彼女の頭を撫でる。


「大丈夫です。頑張って思い出してみますから!」


 アテナは、両腕をグーにしていう。

 そんな様子を見た彼女は、俺の腕から降りて背中を向ける。

 こっちに振り替えると光り輝くような笑顔を彼女は見せた。

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