第15話 夫婦?

《一気に五十上がるとかすごいな》

《紅羽ちゃんの血で経験値を手に入れたとか?》

《ありえそうだな。紅羽ちゃんも言ってた血の解放が関係あるんやろな》


「なるほどなぁ。てかこのオーラずっと出てんだけど………」


 身体全体から流れ出ているオーラに気付く。

 コメント欄を触れていたときにずっと出ているのに気づいたわけだが。


「安心せい、童にはんのうしているだけじゃ。それにその状態の方が何かと都合がよい」

 

 隣にいた彼女に言われる。

 デメリットはなく、メリットだらけならこのままでいいか。

 そう思ってから気にせずに歩き。

 すると、森の木々の間から黒いオーラを身に纏った牛ほどあるウサギがぴょこッと出てきた。

 俺たちに気付いた途端、こっちに突撃してくる。


「ホーンラビットのでかい差じゃないぞこいつ!」

 

 剣を構えて突撃してきたウサギを防ぐ。

 軽く防いだけなのに、思いっきりウサギが弾き飛ばされた。

 地面に転がるとそのままもう一度突撃してくる。

 咄嗟に剣を横に振る。


「今の調子で頑張るのじゃ」


 と彼女が俺の隣に来て言う。

 後ろを振り返ると、首が飛んだ牛ぐらいのウサギが地面に血を出して転がっていた。

 

「つよくなったのか?」


 あっさり倒してしまった出来事に困惑する。

 すると、死体が消え肉と角、魔石が地面にドロップしていた。

 あの大きさのウサギでも肉はスーパーの肉ほどしかなかった。

 ため息を付きながら持っていた鞄に入れようとした途端、おかしなことが起きた。

 鞄の中にドロップ品が勝手に吸い込まれてしまった。


「当たり前じゃ! あ、言い忘れとったが、その鞄なのじゃが空間魔法でダンジョンはいるぐらいに拡張しておいたぞ」


 というと彼女はにぱっと笑顔こっちを向いた。

 そして片手で先を指差していた。

 鞄を背負い彼女の方へと走る。


《鞄まで拡張する紅羽ちゃん………》

《もう何でもありだな》

《モンスターに母と呼ばれるぐらいだしなぁ》

《あの見た目で人妻だと………》

《いや、ユーイのこと旦那様呼びしてるからもう人妻だろ》

《なんだと………》

《な、なんだと………》

《死にたい》

《俺も》


「何言ってんだこいつら」

 

 歩きながらコメント欄を見てひとりごとを言ってしまう。

 それを聞いていたのか隣で歩いていた彼女がコメント欄を覗き込む。

 すると、顔全体を真っ赤にして黙り込んでしまった。

 理由は聞かないでおこう。うん。


「い、いまどこ目指してるんだ?」


 と聞くと、彼女が前をずっと指差す。

 その先は、気絶する前にみた草原だった。

 しかし、彼女はその草原ではなく、その奥を指差している。

 なんだ?

 気になって集中していると、草原の奥にギリシャの神殿の様な物が立っていた。

 

「あれはなんだ? ギリシャの神殿?」

「見えてしまったか」

「え、あ、ああ。なんか集中したら見えてしまった」

 

 なぜか彼女の表情が暗くなり、歩みを止めてしまう。

 俺も足を止め彼女の方をじっと見つめる。


「………ほしいのじゃ」

「え?」

「目を閉じててほしいのじゃ」

「ああ、わかった」


 彼女に言われた通り、目を閉じる。

 目の前が真っ黒になる。

 すると、俺の唇に柔らかい感触が触れた。

 咄嗟に目を開き、俺は彼女にキスされているのに気づく。

 彼女の両肩に手を置き、彼女を離そうとする。

 だが、信じられないほどびくともしない。


「これでよいか?」


 彼女が唇を離し、顔を赤く染め、俺の顔を見ずにいう。


「え、え? ええええええ⁉」


 なぜか声が出てしまった。

 彼女が言っているのかわからない。

 ただ、あえていうなら彼女がものすごくかわいく見える。


「だめ、なのか?」

「え、いや………何のことかわからなくて」

「………夫婦なのじゃし、してはダメじゃったか?」


 いやいや、いつ夫婦になった?

 確かに彼女に旦那様呼ばれしているが。

 そういえば彼女、コメント欄をみてから様子がおかしくなったな。

 

《すき》

《ありがとうございます》

《ちくしょう………ちくしょう》

《〇ね〇ね〇ね‼》

《照れてる紅羽ちゃんかわいすぎだろ、ちくしょうめ》

《していいと思う人 ノ》

《ノ》

《ノシ》


「なんもわかんねぇ~!」


 咄嗟にコメント欄を観てその言葉が出る。

 ただ、その言葉が駄目だったのか彼女突然そのまま泣き出す。

 俺は慌てて彼女を抱きしめる。


「駄目じゃない! ただあれが本当に夫婦なんだって知らなかったんだ」


 彼女が泣くのをやめる。

 だが、そのまま何も言わなくなってしまう。

 彼女も俺を抱きしめてくると、顔を見上げる。


「そうか。ならいいのじゃ」


 というと彼女は俺の胸に顔を埋める。

 その表情がとても幸せそうに見えた。

 いつもの癖で彼女の頭を撫でていると、それに応じて彼女が喜ぶのだった。

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