第11話 検査終わりました

 すると、

 研究服を着て黒髪をポニーテールにまとめ上げ、バインダーを手に持っている女性

 が俺に気付いたのかこっちに向かってくる。

 その女性は俺に抱き着きながら泣き出す。


「よがっだぁ、がえっできだぁああああああ」

「姉さん………大げさだよ」


 大きな胸の下敷きになっている彼女を支えながら俺は言う。

 俺より五つほど年上で、二年前は医学系の大学に通っていたはずだ。

 卒業してこの施設に入ったのだろう。


「なんじゃこの脂肪の塊は!」


 彼女が怒りながら姉さんの胸を触る。

 まぁ、この大きさはけしからんよなぁ。


「ちょ、やめ………」

「どうじゃ!」

「もうやめてえええ!」


 姉は彼女を胸に押さえつける。

 あまりにモノ大きさにすっぽりと彼女の顔が谷間に入っていた。

 

「姉さん。紅羽を離してあげて」


 顔を青ざめている彼女がひょっこり見える。

 姉さんは、その言葉に反応して彼女を解放する。

 少し伸びている、彼女を支える。

 

「ん? あ、ごめんね」


 気づいたのか、彼女から離れてくれる。

 気づかないうちに人が窒息しかけているのが毎回ある。


「姉さんここの勤務だったんだ」

「まぁね。裕太が行方不明になって両親が離婚しちゃったけどね」

「聞いたよ。ここに連れてきてくれた人に」

「そう。まぁあんたなら私たちの支援なしで何とか生きていけるでしょ?」


 俺は一度うなづこうとするが、それをやめる。

 両親が離婚した影響で俺の部屋がないのは明白だろう。


「いや、紅羽の部屋を準備してほしい。俺のは後でいい」


 と俺がそういうと、驚いた様子の姉さん前にいた。

 なにか、鞄から書類を出し俺に渡してきた。


「そういうと思ったわ。とりあえずダンジョンから近い2LDKの部屋に荷物とか置いてあるから」


 じゃと言って姉さんはどこかへと行ってしまった。

 書類を開けてみると、そこにはマンションの契約書が入っていた。

 マンションへの情報が入っているであろうUSBメモリーも入っている。

 

「ここに行けてことかぁ」


 彼女がいつの間にか、俺に横でその書類をじっと見つめていた。

 わっとびっくりして、書類を周りに舞いてしまう。


「すまぬ、驚かせしまったの………」


 椅子から立ち上がってばらまいた書類を拾い集めている彼女が言った。

 俺も、書類を拾い集めなんとか集めきれた。

 今時全部紙て、時代遅れもいいとこだ。

 書類をフォルダーにすべて入れ何とかなる。


「これもそうか?」


 彼女がUSBメモリーを廊下の端から持ってきた。

 さっき書類の中に入っていたやつとまったく同じだ。


「ああ、ありがとう」


 と言って、俺はフォルダーの中にしまい込む。


「うむ。これぐらいお安いごようじゃ」


 尻尾をパタパタと地面にたたきつけながら言う。

 踏まれたりしないのかな。


「あ、お待たせしました。検査の結果は、陰性だったので今から帰宅して大丈夫です」


 と白衣を着た人が俺たち二人の前でそういう。

 椅子から立ち上がり、書類を持って、その人と別れる。


「どこ行くのじゃ?」


 研究所をでて海沿いに歩いているときに彼女に聞かれた。


「とりあえずダンジョンに戻ろうと思ってる」

 彼女にさっき姉さんからもらった書類の中の地図を彼女に渡す。

 地図を見ているがわからないのか首をかしげていた。


「ここが、ダンジョンで俺達の家がここだ」


 地図にあるダンジョンのマークと赤いマークがついている場所を指差しながら言う。

 すると、彼女は何かに気付いたのか研究所の方を向かって手を振っていた。

 

「もうおかえりですか?」


 行きに研究所にまで連れてきてくれた運転手が黒塗りの車を道路に止めて言う。

 彼に気付いたから彼女は手を振っていたのだ。

 助手席をみるとおっさんは、乗っていない。


「ああ、ここに向かおうかと思ってたんだが」


 と彼に地図をみせていう。

 

「乗ってください。ちょうどダンジョンに書類を届けるついでなので」


 そういう彼の言葉に甘えて後部座席に俺達は乗る。

 俺達が乗ってシートベルトをかけた途端に車が発進した。


「そういえば、運転手。お主は名前はあるのか?」

「はい。海という名前があります。ただこの名前は、私を拾ってくれた人間の親に付けられたもので、元々は名前なしでしたが」

「そうか、よい名じゃな」

「ええ」


 彼の笑顔がルームミラー越しでわかる。

 目の下には、涙が流れているのは黙っておこう。


「海さんは、姉さんと面識があるんですか?」

「姉さん? 優希さんのこと?」

「ええ、天宮優希です」


 真面目に俺は答える。

 すると、車のスピードが少し上がったような気がした。


「知ってるよ。あの子は天才だ、モンスターである私たちが言うのだから間違いない。それに彼女はいつも君のことを探していたよ」

「そうですか………では、両親が離婚したことも………」

「ああ、彼女から相談を受けたよ。研修に来てた時にいきなり言われてね。ほんと驚いたよ」


 彼に表情がだんだんと暗くなっていく。

 姉さんは、彼にかなり色々話していたようだ。

 

「と、もうすぐ着きますよ」


 フロントガラスの先に、天まで届く塔が徐々に表れていく。

 やっぱでかいな。


「これが、あの塔か?」


 彼女が首をかしげてそういう。

 ダンジョンから出てきたときはそれどころではなかったからな。

 

「ああ、アメノミハシラて呼ばれているダンジョンだ」

「アメノミハシラ………そうか」


 アメノミハシラと言って、彼女は悩みこんでしまう。

 この塔の名前が気に入らなかったのか?

 すると、車が塔の前で停車する。


「着いたよ。この時間なら人がいないし歩いて帰って大丈夫だよ」


 彼はそういう。

 俺達は、そのまま車から降りる。


「ありがとうございました。助かりました」

「海。ありがとなのじゃ」


 俺達はそうお礼を言って彼と別れる。

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