第10話 研究所で検査

「まぁまぁ先輩。そんなこと言うと母上に一回殺されますよ?」


 運転手が片手を彼女の方に指さす。

 彼女はいつの間にか、おっさんの背中に変化させた腕を近づけていた。


「分かりました。とりあえずこのままでお願いしますぅ」


 おっさんはだれに言っているのかわからないことを口走る。

 すると、彼女の腕が、おっさんの腹を貫く。

 俺が、彼女の腕をおっさんから抜く。


「はは、これで許してな裕太くん」

「は? はぁ………」


 返事に困るが一応声を出す。

 彼女の腕は、いつの間にか元に戻っている。

 おっさんの座席には、真ん中に丸い穴が開いていた。


「旦那さまぁ~えへへっ」


 寝言なのか、俺の膝で寝ころび俺を抱きしめる。

 さっきのことがまるで嘘なのかのようだった。

 でも子の感じなら、大丈夫そうだな。


「あ、そろそろ着きます」


 車が、海上に建てられた大きな建物に入っていく。

 彼女ならはしゃぐだろうが、俺はいちどきたことがあるのであまり驚いていない


「いつ見てもここはいいですね」


 俺は、窓の外の光景を見て言う。

 窓の外には、高圧のガラスに覆われ外を様々な種類の魚が泳いでいた。

 まるで水族館にいるみたいだ。


「そうですね。私もここは気に入っています。あ、先輩そろそろ起きてください」


 運転手が車を止め、おっさんの体を揺らす。


「あ~すまん。一度死んだわ………」


 出てきた言葉に耳を疑った。

 死んだはずのおっさんが声を出したのが驚きである。

 でも、リッチなら死を回避する補法も知っているのだろう。


「むぅ………なんじゃ? もう着いたのか?」


 彼女は右目をこすりながら言う。

 どうやら復活したみたいだ。


「ああ、さっきは助けてくれてありがとな」


 と俺が頭を下げて礼を言う。

 すると、慌てた声が聞こえてくる。


「あわあわ………こ………こっちこそ助けに来てくれてありがとなのじゃ」


 頭を上げると頬を赤くしている彼女の姿が目の前にあった。


「そろそろ降りていただけますか?」


 運転手が外からノックして言う。

 いつまでも彼らを待たせておくのは申し訳なく。

 すぐさま、俺達は車から降りる。


「こちらやで、母上」


 おっさんが俺達の前を先導する。

 後ろには運転手がいる。

 あちこちで興味を示す彼女の手を掴む。

 これ以上、時間を遅くさせるのはまずい。

 

「ちょっと待っててや」


 おっさんはそういって部屋に入っていった。


「面白そうなとこじゃの、ここは!」

「裕太くん。飲み物買ってきますが何がいいですか?」


 運転手に聞かれる、


「お茶でいいよ。紅羽にも同じのお願い」

「分かりました。ちょっと待っててください」


 小走りで部屋とは反対側の方へ運転手は行ってしまった。

 すると、部屋の扉が開き、おっさんが廊下に出てくる。


「あれ、あいつどこ行った?」

「運転手さんなら飲み物買いに行くとかなんとか」

「せや、これ二人に渡しとくさかい」


 おっさんからUSBメモリーを受け取る。

 彼女は、何なのかわからず首をかしげている。

 とりあえず何なのかを説明するとかなり喜んでくれた。


 そんなことしてる間にペットボトルを四本持った運転手が戻ってきた。


「どうぞ 母上も」


 渡されたへ~いおちゃを受け取る。

 おっさんと運転手さんは、コーヒーを持っていた。


「すまん。今度返すわ」

「いいえ。勝手に持ち場を離れてしまったので………そのお詫びです」

「そうか、まぁ飯でもおごるからそれでチャラで」


 いいコンビなんだなぁと思っていると。

 彼女がペットボトルの開け方に苦戦していた。

 まるで雑巾のように絞っている。


「ちょ、紅羽ストップ!」

「え?」


 中のお茶が圧力によって外へ弾け飛ぶ。

 当たったお茶がこぶしで殴られたかのように痛い。

 彼女はそれを平気そうにしている。


「なんじゃこれは?」


 大きなため息を付いて彼女に俺が持っていたお茶を蓋を取って渡す。

 彼女は感動しながら美味しそうに飲む。

 半分飲むと、そのまま俺の方へと返してきた。


「元は旦那様のじゃから、半分こじゃ」


 俺は、それを受け取るも、その場では飲まなかった。

 おっさんたちには笑われたが、まぁいい。

 

 そのままおっさんたちについていき、色々検査することになる。

 全身スキャンされ、血を抜かれ、まぁ色々したわけだが。


「注射………怖い………のじゃ」


 暗い顔で泣いている彼女が俺に抱き着く。

 そんな彼女の頭を撫でる。

 帰りたい………。

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