第9話 地上へ
「かわいい! あの子でしょ?」
「なにあのこ超かわいいんだけど」
「和服に白髪て完璧じゃん!」
「てか、あいつ配信者のユーイじゃね?」
「ほんとだ!」
目を開けると、俺達を人々が囲んでいた。
彼女の手の感触は、残っている。
「待ってたで。ユーイくんいや裕太くん」
高給な生地でできていそうなスーツを着こなすおっさんが声をかけてきた。
紅羽を、手繰り寄せ抱きしめる。
「そんな警戒せんくても、取って食ったりしませんよ」
いつのまにか俺達の周りから人々がいなくなっていた。
よく見ると、警備員が人だかりを遠ざけているのがわかる。
「人の皮を脱げ! このリッチ!」
彼女が怒鳴りつけるかのように言う。
おっさんはくすっと笑う。
すると、おっさんの姿がみるみると変わっていく。
まるで、人骨に核のよなものがはめ込まれたような姿に変わった。
「さすがに、母上にはバレてしまいますか」
その姿を見て驚きを隠せない。
変な汗が体中に出ているのがわかる。
この人もモンスターだったのかよ。
「要件はなんじゃ?」
「いえ、母上と裕太くんに診察を受けてもらうため国防省から派遣されてきました」
国防省という単語に、驚く。
なぜ俺達のために国が動くのかわからない。
「分かりました。言われなくても診察にはいこうと思っていたので」
「そうですか。せや、もう一つ君の家族の事だが………」
おっさんが俺の耳もとでささやく。
その言葉に、悲しみが全身を震え上がらせ、嫌な汗が大量に出始める。
「とりあえず行きましょか」
おっさんに車に案内される。
俺達の方を見て騒ぐ人たちの方へ彼女は笑顔で手を振っていた。
まるで、芸能人みたいだなぁと思ったのは言うまでもない。
「こっちらにどうぞ」
おっさんが黒い高級車の後部座席のドアを開ける。
彼女が見慣れていない車を前にして恐れている。
「こ、こいつに乗れと申すのか?」
「ええ、そうです母上」
恐る恐る車に乗ろとしている彼女。
俺が、反対側の後部座席の扉から座る。
すると、俺に飛びつくかのように彼女が急に乗り込んできた。
「シートベルトつけろよ」
彼女に言うと、首をかしげる。
あ、そういえば知らないか。
仕方なく、彼女の方のシートベルトを引っ張り、金具に着ける。
それが終ると、車が走り出した。
「母上、お久しぶりです」
車を運転している男がそういう。
動いている車が怖いのか俺の膝でじっとかたまっている彼女がかわいい。
「今言われても多分、何も聞こえてないと思いますよ?」
俺がそういうと運転手の男がカーミラーを少し見つめ後部座席の様子を確認していた。
「そのようですね」
運転手の笑顔がカーミラー越しにわかる。
「せやせや、これ渡しとくで」
おっさんが指輪が入っていそうな小さな箱を渡してくる。
受け取ると、その見た目とは全く違い、金属の塊を持っているかのように思い。
彼女が俺からその箱を奪い取る。
「ほほう………お主も悪よのう」
箱には、金色に輝くものがいくつか見えた。
たしかドラゴンは光り輝くもの好む習性がある。
「いえいえ、母上へのプレゼントですから」
おっさんの反応からして通常ルートから手に入れたものだろう。
すると、彼女が突然車の窓に顔をくっつける。
少ししかない窓から外を観ると、そこには青々と輝く海が広がっていた。
「海じゃ! 旦那様海じゃよ! 海!」
彼女は子供のように窓を指差していう。
海辺に住んでいるため全く珍しくない。
「あそこ行くんですね………」
俺は彼女とは反対に、かなり落ち込ん見ながら言う。
そんな様子を見せたせいなのか。
「席変わるかえ?」
運転手がいつの間にか彼女の方の窓を開けたのか。
彼女が白い髪を海風になびかせながら言った。
俺は、そんな様子の彼女に見惚れてしまう。
「え………いや、紅羽がそこにいろ」
彼女の頭を撫でて俺は言う。
するとおっさんが話に割り込んできた。
「ちと時間あるし、寄ってくか?」
おっさんがARで時間を見せながら、窓の外の海を指差す。
彼女が思いっきり縦に首を振る。
そのおかげか、海の方へ行くことになる。
「ここでいいでしょうか?」
駐車場に止めて運転手がそういう。
すると、彼女が突然車の扉を開け、海に向かって飛び出す。
俺はそんな彼女の背中を追う。
「これが海か………」
浜辺で夕焼けかかった海を彼女がじっと見つめる。
やっと彼女に追いつき、息を整えながら海を見つめる。
「裸足になってみなよ」
俺がそういうと靴を脱ぐとそのまま海に浸かった。
何故か全身を浸かっている彼女が面白くて仕方ない。
「ひんやりしてて気持ちいのじゃ」
真冬の海に入って気持ちいていうのは彼女だけだろうな。
てかさむ………。
「旦那様も入らぬのか?」
彼女が海に浮かびながらそう言う。
だが、気温十六度の海は冷たい。
俺は思いっきり首を横に振る。
「そうか………こんなに気持ちいんじゃがのう」
俺が断った途端、彼女がしょんぼりと落ち込んでしまう。
すると、彼女がいるとこが次第に浜辺から離れているのがわかる。
「なんじゃ? 動けぬぞ!」
離岸流に巻き込まれたようだった。
どんどん離れていく彼女を見て。
俺はいつの間にか冷たい海に飛び込んでいた。
身体が一瞬で重くなる。
服が海水を吸ったのだろう。
だが、そんなことは気にしてられない。
「紅羽!」
彼女に向かって全速力で泳ぐ。
だが、途中で片足を捻ったのか激痛に襲われ溺れる。
水中に沈んでいく中で、俺の方へと向かってくる白い光が見える。
俺は、その光に手を伸ばす。
「しっかりするのじゃ!」
意識を取り戻すと、俺の前にはドラゴンの羽を背中にはやした彼女が俺を持ち上げていた。
彼女に引っ張られ岸の方へ。
かけつけるおっさんと運転手の姿が見える。
身体を震えさせていると、彼女が俺に抱き着き暖めてくれる。
車に乗っても、そのまま彼女に抱きしめられたままだった。
羽はいつの間にか消えていた。
「おい、紅羽? 紅羽!」
俺に抱き着いていた彼女が俺の膝に倒れこむ。
彼女の額を触ると高熱を出していた。
「急いでくれ!」
俺は運転手にそういう。
「なんで、こんなことになるんだ」
「さっきのあれや。無理に人化で本来の力の一部を無理矢理、引き出したのが原因やろな」
とおっさんがいう。
次第に彼女の状態が悪化しているのがわかる。
「なぁ。紅羽が俺にしたみたい紅羽が紅羽自身に治療できないのか?」
俺がそういうと、おっさんの表情が暗くなる。
「黙ってろ。ただの人間がいい気乗るんじゃねぇ!」
おっさんが俺の方に振り返って言う。
その言葉で、俺は黙り込む。
だが、見るたびに彼女がつらそうにしている。
それが俺自身にとってもつらいのだから。
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