第8話 解放者 

『アメノミハシラの第百層ボス ヤマタノオロチが討伐されました』

 

 するとダンジョン内にアナウンスが流れ始める。

 コメント欄がそのことで荒れ始める。


《おい、今のアナウンス聞いたか?》

《聞いた。百層のボスが倒れたて》

《聞いたぜ。てか討伐配信ここでされてたからな》

《ユーイ。すげぇ》

《紅羽ちゃんかっこよかったぁあああ》

《でもこれでやっとアマノミハシラの十分の一が攻略されたてことか》

《あと九百層もあるの????》

《つらいわぁ》

《それ、攻略組おいてかれてるぞ~》

《@oumn うっせぇ 頑張ってやってんだ!》

《@akito 怒らないでくださいよぉ》


『新たに二百層まで解放されます。解放者にはギフトが用意されます』


コメント欄を確認しながら、アナウンスを聞いていると。

 

「なんじゃ、宝箱か」


 彼女が俺の前に現れた宝箱を人差し指でつんつんしていた。

 少し近づくと、勝手に宝箱が開き中の物が俺の身体に入っていった。

 慌てて、取り出そうとするもどこに行ったのかわからず諦める。


「なんだったんだ………」

「旦那様! これ見てほしいのじゃ!」


 彼女の方を見つめると背中の方が少しもっこりしていた。

 何だと思いじっと見つめていると、フリフリと揺れているのがわかる。


「尻尾か?」

「そうじゃよ! 童の尻尾じゃ!」


 袴から飛び出たのは、尻尾だった。

 イモリの尻尾のような形をしているが、しっかり白い鱗が付いている。

 なぜ急に生えたのかは、よくわからない。

 そして俺に入り込んだあの玉と関係があるのだろう。


「なぁ、これ手紙だよな」

 

 宝箱を見てみると奥に白い紙が入っていた。

 彼女にそれを見せるが首をかしげる。


「なんのことじゃ? 何も持っておらぬぞ?」


《なんだったんだあの玉》

《てか、紅羽たん今まで尻尾なかったのかよ》

《尻尾ありの紅羽たんかわええ》

《手紙見える人挙手 ノ》

《ノ》

《ノ》


 コメント欄では『ノ』が徐々に増えている。

 視聴者たちには見えているが、彼女には見えていないのだろう。

 手紙を開き、中を見る。


『やぁ、裕太くん。母を目覚めさせてくれてありがとう。

 あ、母とは君が【紅羽】と呼んでいるエンシェントドラゴンの事さ。

 本題なのだが、君にはアマノミハシラの最上層 第千層の月の屋敷に来てほしい。

 報酬なのだが、世界の真実と母のことでどうだろう?

 選別として、解放者の称号と解放者の宝玉を授けておいた。

 宝玉は、君が持っているダンジョンコアの使いまわし可能なものだと思ってくれ。

 母のことを頼んだぞ。裕太くん

                              カグヤ    』


 そんなことが書かれていた。

 紅羽の子であるカグヤからの手紙らしい。

 俺に第千層までいけと………。


《手紙の内容みえたか?》

《いや、文字化けしていた》

《俺も》

《俺も》

《私も》


 どうやら視聴者たちに文字化けしていて見えないみたいだ。

 読み終えてポケットの中に入れようとする。

 だが、ガラスのように手紙が突然割れ塵となってしまう。


「今のなんじゃったのじゃ?」


 彼女が首をかしげながら聞いてきた。


「このまま千層まで来てほしいてさ」

「むむ? カグヤかの?」

「ああ、そうらしい。選別として色々貰った」


 やはり彼女はカグヤとなのるもののことを知っているみたいだった。

 とりあえず地面に刺さった刀を抜く。

 持ってみると、何も持っていない可能用に軽い。

 だが、刃が錆びていた。


「なんだ、ゴミか」


 地面に刀を突き刺そうとする。

 すると、彼女に刀を持っていた手を掴まれる。

 手から刀を奪い取られる。


「お、おい」


 彼女は刀を宙に投げ捨て、一瞬で刃の部分を半分に折ってしまった。


「これでよいか?」


 彼女が白い鞘に入った刀を渡してきた。

 あまりにもの美しさに刀に見惚れてしまう。

 先ほどの錆びついた刀とは全く違った


《お、おい。今紅羽ちゃん手刃で刀の刃折らなかったか?》

《見えたぞ。俺には………》

《さすがドラゴンというべきか》

《しかし、ただ折っただけなのになぜこんなきれいな刀になったんだ?》

《紅羽ちゃんの能力だろ》

《納得》

《なるほ》

《なるほどなぁ。確かに》


 コメント欄の反応を見る。

 一瞬だったから何しているのか見えなかった。


「ああ、ありがとう」

「お礼はいいのじゃ!」


 とりあえずこの刀をじっと見つめる。

 すると刀の詳細がARで目の前に現れる。

 そこには、この刀の名の「魁輝」と書かれているだけだった。


「次行くかの?」

「あ~いや、一旦家帰るわ」

 

 というと彼女の表情が一気に暗くなる。


「そ、そうか」


 としょんぼりと落ち込んだ彼女が返事する。

 俺は刀を持っていない手で彼女の頭を撫でる。


「紅羽も行くだろ?」


 と俺が言う。

 すると彼女の表情が一気に明るくなる。


「よいのか?」

「良いに決まってんだろ。てか、国買うんだろ?」

「それはいいのじゃ………ただ童は、皆が言うモンスターじゃよ?」

「多分いいんじゃね? ダンジョンが現れて以降、人類以外住んでるし。それにこれみろよ」


《紅羽ちゃんとリアルで会いたいわぁ~》

《わかる。ドラゴンとか今の世の中じゃ少し珍しいぐらいだし》

《てか、紅羽ちゃん出てきた後が大変かもなぁ》

《紅羽ちゃんとの約束守りに今からアマノミハシラに向かいます。by探索者》

《俺も行くぜ》

《私も》

《私も行くよ~》

《俺も行くぞ》

《紅羽ちゃんて何が好きなの?》

《それ今聞くか?》


 コメント欄を彼女に見せる。

 すると、彼女はその場で崩れ大声で泣き出す。


「童は………童は………」


 俺は泣いている彼女の頭を優しくなでる。


「あ~オフ会の日程はたぶん一か月後くらいになります。理由は俺と紅羽の検査のためです。では、また会いましょう」


 配信を切り、彼女の手を握る。

 

「一度外に出るぞ」

「………わか………った」


 解放者の宝玉を頭の中でイメージする。


「我らを外の世界へと導き給え。転移」

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