第6話 外に出たら国を買うぞ! 旦那様

「見つけたぞ! くそあま!」


 通路の奥から剣を構えて突撃してくる男の姿が見えた。

 すぐに剣を構え、紅羽の前に立つ。

 すると、男がその光景を見て動揺し始めた。


「な、なんでここにいんだよ。雄太」

「紅羽に助けてもらったからな。それよりその剣はなんだ?」


 男が持っている剣を睨みつける。

 すると、男が悲鳴を上げて表情を暗くする。

 

「くははははは、小童。よくここまでこれたのう」


 彼女が俺の背中から離れ、笑いながら男の目の前に立つ。

 すると、彼女に向かって男が剣を振った。

 

「貴様ああああ」


 だが、振りかぶった剣がキーンという音と共に、半分におれてしまう。

 ドラゴンのように変化させた右腕に弾かれ、折れてしまったようだった。


 しかし、彼女から恐れという感情が一切伝わってこない。

 伝わってくるのは、強大な殺意だけだった。


「あの男は、童がもらい受けた。小童にはもうやらぬよ」


 男はすぐに違う剣に切り替える。

 今度は助走つけて彼女に斬りかかる。

 金属同士がぶつかり合う音が通路中に聞こえてくる。

 俺は二人の戦いをただじっと見ていることしかできなかった。


《てか、どこかで見たことあるなぁて思ったら凸したやつじゃん》

《ホントだ。顔すげぇ暗くなってるけど》

《てかこいつソロなんか?》

《だろうな。ほかのやつ見かけないし》

《おこな紅羽たんかわゆ》

《さっき言ってた勇者だったりして?》

《ありえそうだなぁ》

《顔の情報なかったからその辺はわからんわ》


 コメント欄が再度荒れ始める。

 こいつが駆けつけてくれたのか、てかなんで本名しってんだこいつ。


「もうおわりかえ?」


 血がついた右腕をペロッと舐める彼女。

 切り傷を片手で押さえてる男。

 彼女の圧倒的な無双に見惚れてしまう。


「紅羽、それくらいにしてやれ!」


 彼女の頭をポンポンと優しくたたき、そのあと撫でる。

 俺が出てきたせいなのか、男は臨戦態勢を解除しようとしていた。

 配信してるのバレたか?


「雄太。お前はその化物に騙されている! さぁこっちへ来い!」


 男は俺の方へ右腕をむける。

 だが、彼女のことを化物だと呼んだのが少し、イラついてしまった。

 確かに化物なのかもしれない。

 だが、彼女は俺の恩人であることには決して変わらない。


「あーそう。君、知らないやつに名前で呼ばれるどうなの?」

「な、何を言っている。俺だよ俺! 忘れちまったのかよ」


 男の表情が次第に崩れて、焦りだしているのがわかる。

 顔全体が汗ばんでいるのが何よりの証拠だ。

 嘘か………。


「やっても構わぬぞ?」


 彼女が血の付いた顔で上目遣いでこっちを見つめてくる。

 血のせいか、一瞬別の何かだと勘違いしてしまう。

 彼女の笑顔で我に返ると、彼女に頭を撫でられていた。


「拘束できるか?」

「問題ないぞ」


 自身気にどこから取り出したのかわからない縄を持っていう。

 男が拘束されるのを恐れてなのか、一気に引き返し始めた。

 彼女は逃げ出した男をすぐに追いかけていく。


《紅羽ちゃん。足の力すごすぎだろ》

《あの距離を一瞬で、男さんには合掌》

《ストーカーにもほどがあるよなぁ》

《だな。てか配信主あの男のことなんも知らないんだな》

《あ~それ思った。二年も寝たから忘れてるとか?》

《ありえそう。でもそれぐらいなら紅羽たんに治されてるだろ》


 男の事と彼女のことでコメント欄がにぎわってくる。

 そういえば、鞄の中にあれが入っていたはずだ。

 彼女が保管してくれていた俺の鞄をあさり始める。

 モンスターの素材が入っている中、その中に光り輝く宝石を見つけ手に取る。


「あった。ダンジョンコア」


 ダンジョンコア。ダンジョンの中心に生まれる丸い宝石の様な物。小さいコアは、地上でも売られており、ダンジョンコアを使用し、ダンジョンから地上へ戻る方法の一でもある。ほかにも色々できるが、この小さなコアでは帰還ぐらいしかできない。


 荷物をあさっている間に、大きく左手を振って片手で男を引きずっている彼女がこっちに来ていた。


「おかえり。怪我無いか?」

「平気なのじゃ! それよりほれ」


 男の身柄と宝石を一つ渡してきた。

 クッキーほどの大きさの宝石を渡され、鼓動が激しくなる。

 この宝石は、ダンジョンでしか生成されないアラメライトという宝石。

 七色に輝き続け、装備者にあらゆるバフを付与する神のような宝石だ。


「アラメライトだと………」

「なんじゃその名は? 童の涙じゃよ?」

「は?」

「だから、童の涙じゃ!」


 彼女の両目から雫サイズのアラメライトが出てきた。

 あまりの驚きのあまり、紅羽の前で土下座する。


「な、なんじゃ! 土下座されるようなことしとらんだろ? だから、表を上げるのじゃ」


 強引に俺の頭を上げさせられる。首が痛い。

 ただ、顔を真っ赤に染め上げあわあわと慌てている様子がなんだかかわいい。

 土下座をやめると彼女の慌てぶりが収まる。


「紅羽の涙。一応俺達の界隈じゃ超貴重品なんだぞ? そんなのひょいと渡されたらこうするしかないだろ」

「ほほう。ちなみにこれならいくらじゃ?」


 彼女がどこからか大きな岩のようなアラメライトを両手で抱えて持つ。

 生成主である彼女だからこその者だろう。

 ただこんなものがあると値が崩れるのは間違いない。

 コメント欄でも、言葉を失ったり意味不明なコメントだらけだ。


「国買えるな」

「今すぐ国を買うのじゃ!」


 目をキラキラさせて俺に巨大アラメライトを渡してくる。

 想像以上の三倍以上重く、倒れそうになる

 両足を地面に思いっきり踏ん張り、なんとか倒れることを回避することができた。


「買うとしてもここから出ないとな。とりあえずこれ返すわ」


 彼女に巨大アラメライトを返す。

 どこに置いてきたのか少し俺から離れていた。


「ここから出るならあそこがおすすめじゃ!」


 片手にダンジョンコアを握りしめ、彼女の背中を追う。


《星が回ってるよ。あははは》

《紅羽たんの涙だと!》

《国が買える…だがあれは紅羽ちゃんの涙………》

《今日から今持ってるアラメライトを神棚において祭るわ!》

《今から買ってくるぜ!》

《俺は今からダンジョンに取りに行くぜ!》


「む? 外にでたらお主らにもやるぞ?」


 彼女は、俺が開いていた配信画面をのぞきながら言う。

 すると、コメント欄が一気にお祭り騒ぎになる。

 ほとんどすべてのコメントがスパチャなのが怖い。

 一万がめっちゃ流れていくのが見えた。

 その中のコメントにこんなことが書いてあった。


《アラメライトの料金です》

《紅羽ちゃんの衣装代です》

《紅羽たんのメイド服きぼんぬの代金です》

《ちくしょう………今月の小遣いもってけ泥棒!》


「なんじゃこれは?」


 配信画面を指差して彼女が言う。


「コメントでお金送ってくれてるんだ」

「ほんとか!」


 カメラの前で目を輝かせながら言う。

 だが、地上に戻らないと使えないというと、しょぼくれてしまった。

 

「とりあえず、ここから出ないとな」

「うむ!」

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