第5話 ダンジョンでの配信再開します!

 だが、右肩をかむ力がさらに増したような気がした。

 急に痛みが引いていく。


「これでよいかの………」


 一人で彼女はつぶやくと今まで噛んでいた右肩を優しくなでる。

 何したのかわからない。


「な、何したんだ?」

「む? 旦那様の位置を常時把握するものを右肩に埋め込んだだけじゃ」


 すると突然、配信画面とは全く違う。

 まるでゲームのステータス画面の様な物が目の前に表示された。

 そこには、俺に関する情報と、位置情報、時間が書かれていた。

 端っこの方には、よくゲームで見かけるミニマップある。

 

「どうじゃ? 面白いじゃろ」


 彼女は自慢げにそういう。


「ああ、すごい。これがあればダンジョン攻略なんて楽になる」

「うむ。そうじゃとも童がいなくとも童の元まで来ることができるじゃろうて」

「え? いや何言ってんの? 紅羽も一緒に行くんだろ?」


 と思ったことを俺は言ってしまった。

 すると、彼女の表情が一段と明るくなる。


「よい………の………か?」

「良いに決まってんだろ。てか、紅羽に恩返さないとだし」


 少し照れながら、俺は言う。

 すると、彼女は大きな声で泣き始めた。

 まるで幼い子供が泣いているかのように。

 泣いている彼女の頭を俺は優しくなでる。

 

「もう大丈夫か?」


 彼女は涙をハンカチでふき取って自身気にいう。


「うむ! 今からでもダンジョンいけるのじゃ!」

「それはよかった。てか紅羽がいたらこの部屋に出入り自由なのか?」

「そうじゃよ?」

「そうか」


 玄関の扉を開ける前に配信画面を起動させる。

 カメラを正面や斜め上などに合わせ、配信を始める。


「む? 配信かの?」

「ああ、ダンジョンに行くなら配信しないとな」


《おつユー! 紅羽ちゃんこんばんは!》

《おつユー! 夜中配信とか珍しい!》

《おつユー! 紅羽ちゃんを称えよ! 皆の衆》

《ははは~!》

《紅羽様ぁ》


 相変わらず騒がしいコメント欄を見てにやけてくる。

 彼女がカメラに写っていることで、話題が彼女の方に行っている。


「とりあえず、今日からダンジョン攻略復帰します! じゃあいくか、紅羽」

「うむ!」


 一緒に玄関を出る。

 すると一瞬配信画面が暗くなるも、ダンジョン内にいる俺達に変わった。

 ミニマップには第百層と書かれている。

 あ、オワタ。


一時間後………。


「なんで何にも来ないんだよ!」


《いやー何にも出てこないな………》

《復帰早々貧乏くじ引いたな》

《紅羽たんかわええ》


 いつの間にか、彼女がカメラの前で決めポーズをしていた。

 暇なのはわかるが…。

 彼女とは別の気配を感じ、前を見渡す。

 

「なんかいるのか………」

「む?」


 気配がする方へと剣を構える。

 だが、一瞬にして気配が消えた。

 焦って背中の方へと振り返る。

 

「あ………あ………く………紅羽」


《紅羽ああああああ》

《やばいやばいやばい》

《なんだこの化物》

《首が七つとか、ヤマタノオロチかよ………》


 目の前には、一つの頭が彼女の頭を食っていた。

 胴体は他の首が持ち、その下に、赤い血が垂れ流れていた。

 その絶望的な光景を見て、俺は、吐き気を催す。

 

「なんじゃ? わかったわかった」


 彼女の声が聞こえてきた。

 ありえないと思いながら顔を上げる。

 するとそこには、普段の紅羽がそこにはいた。


「大丈夫か? 旦那様」


 彼女が心配して俺の前でしゃがみ込む。

 その横や頭の上には七つの首がいた。

 その光景を見て、先ほどの光景を思い出してしまう。


「幻惑か?」


 そう思いたかった。

 だが、しゃがんだ先には、真っ赤な血が目の前に残っている。

 それを見た途端、とうとう吐いてしまった。


「本当大丈夫か?」


 全部吐き出したのか、おのずと吐き気が治まった。

 俺が吐いている間、彼女がせなかをさすってくれていた。

 彼女のおかげで吐き気が収まったに違いない。


「もう大丈夫だ」


《紅羽ちゃん再生してなかった?》

《千切れたはずの首と体がくっついていたの観たぞ》

《よくそんなの観れるよなぁ。俺なんて一度配信画面消したぞ》

《俺も》

《私も》


 コメント欄で何が起きたのかを理解する。

 瀕死の俺を助けたならそれぐらいできて当然なのだろう。


「驚かせてすまぬの」

 

 彼女はそういって七つの頭の一つを優しくなでている。

 そういえば、初めて会ったときすべての始祖であるとかなんとか。

 その関係で、何も襲ってこなかったというわけか。


「いや、いい。てかそいつなんだよ………」


 頭から先ほどの光景を忘れようと話題を変えようとする。

 すぐにあの光景を忘れてしまいた。


「こいつは………この塔の守護者じゃ。童の部屋に誰も通すなと命令してずっと実行している優秀な奴じゃよ?」

「やっぱり、ボスか」


《まじかぁあああああ》

《おい、冒険者ども今すぐ攻略をやめろ!》

《いや、まてまてこんなの居たらだれだってかてねぇだろ》

《でも最近、勇者と呼ばれてるやつがもう九十層に行ったてうわさがあるぜ?》

《マジかよ》


 コメント欄が、ボスのことで少し荒れる。

 気になったのが勇者と呼ばれているやつがもう近くに迫っているということだ

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