第3話 復帰配信でバズります

 体が重い。

 あちこちがおもりを置いたかのように動かない。

 瞼すら重いんだが………。


「ふむ………やはり美味いの………」


 声が聞こえる。

 誰の声だ?

 俺は、ダンジョンにいたはずだ。

 そこで俺は息絶えたはずだ。


「これでよいか、うーんもっと濃い味の方はよいのか? 人間はわからぬからの」


 また声が聞こえてくる。 

 なんだ、このいい匂いは………。

 ぐ、ぐぅーー。

 どうやら俺の腹の音のようだ。


「なんじゃ? 今の音は………」


 こっちに誰かが近づいてくる。

 多分声の主だろう。

 しかし、なんで生きてんだ………。


「起きたかの? 少年」


 瞼を開くと、そこには少女が立っていた。

 白く先端ががっており刺さると痛そうな角。

 部屋のライトの光が跳ね返っているような白い髪。

 金塊のようにキラキラと黄金の光を放つ瞳。

 羽の柄が入った羽織のようなものを綺麗に着こなしていた。

 彼女は、突然俺の額に触る。


「ふむ。熱はもう無いようじゃな」


 あまりにも衝撃なことで言葉が出ない。

 彼女は、人間ではない。つまり魔物だ。

 魔物が人間を助けた? ありえない。


「どうしたのじゃ? そんな悲しい顔をして」

「………」


 やはり声が出ない。

 まるで何年も声を出していないかのような感覚だ。

 彼女からは、魔物特有の殺気が感じない。


「あ、そうじゃ。 こいつらの礼を言っとけよ。少年をずっと見ていてくれたのじゃ」


 彼女が指をさす方向には、倒れる前までにつけていた配信画面だった。

 その中で滝のようにコメントが流れる。


《生きてたぞ!》

《いきででよがっだあああああああ》

《おかえり、ユーイ》

《お帰り》

《おかえり》

《のじゃロリマジ感謝》

《のじゃロリありがとう!》


 コメントには俺の生還と、彼女のことが書いてあった。

 ずっと配信付けっぱなしだったのだろう。

 今までに見たことがない視聴者数とコメント数だった。

 なぜこんなに人がいるのかわからない。


《二年間ずっと配信観てたけど今までで一番いい回だ!》

《配信初期から見てたけど二年前のあの日死んだかと思ったわ!》

《いぎでてぇよがっだあああああ》

《おいおい、大げさだろ》

《うるせぇ! 古参なめんな!》


 コメント欄で喧嘩が始まる中をじっと見つめる。

 その様子を見て、面白いのに顔が固まっており動かない。

 このことをみんなに伝えたいのに伝えることができない。


「よし、これでよいか」


 いつの間にかいなくなっていた彼女。

 その手には、羽織には似合わない金属製の鍋をこっちに持ってきた。

 器に鍋に入った味噌汁を注ぐと俺に渡してきた。


「ほれ、食べれるか?」


 食べようと、口の方に持っていこうとするも左腕が重く、全く動こうとしない。

 やばいなこれ………。


「仕方ないのぉ………」


 スプーンを彼女は俺の方へと向ける。

 だが、口の筋肉も弱っているのか少ししかあかない。

 その中にぶち込むかのように彼女はスプーンを入れた。

 舌で味噌汁の味が伝わってくる。

 久しぶりなのか、唾液だかなり口の中にあふれ出す。

 次第に、胃の方へと流れていくのがよくわかる。


「どうかの? 儂、特製の味噌汁の味は」

 

 スプーンを俺の口から抜き取った彼女は自身気に言った。

 すると、左腕に水のようなものが垂れ落ちる。


「そうか、そうか泣くほどおいしかったか」


 俺はいつの間にか、泣いていた。

 今まで食べた中で一番おいしく、心が一瞬で暖まった。


《うらやましい》

《俺も食べてぇ》

《ちょっくら母ちゃんに作ってきてもらうわ》

《俺も!》

《彼女に作ってもらてくるか》

《〇ね!》


 あ、最後のコメント規制入った。

 俺の彼女いないから分かるけども………。

 だけど、なぜか味噌汁を飲んだとたん身体が重くない。

 どういうことだ?


「あの………」


 声が出た。

 俺が声を出したことで、コメント欄が素早い速さで流れ始める。


「助けてくれてありがとうございました」


 その言葉とともに腰を曲げる。

 すると、彼女が俺の頭を撫でる。


「よいよい、血の契約をしたのじゃ助けるのは当たり前じゃろうて」


 血の契約に引っかかってしまう。

 よく吸血鬼がするという説がネットに乗ったいたが。

 彼女は、吸血鬼ではないような気がした。


「そうじゃ、儂はあやつらの始祖じゃ。よろしく頼むぞ、旦那様」

「だ、旦那さま???」


《ついにユーイもリア充かぁ》

《もう一度死んでください》

《誰か爆弾もってこい》

《いいなぁ。俺も人外彼女ほしい》

《俺も》

《同じく》

《これだから日リア充は、》

《うるせぇ!》


 旦那様という単語でコメント欄が荒れ始める。

 彼女が始祖とはどういうことだ。

 それにいきなり声がでて体が軽くなったのもわけがあるのか?


「うむ。旦那様を助ける代わりに血をもらっての。あれがなんとも美味でな」


 コメント欄を見ると、彼女が俺に噛みついていたこと。

 一度首を切られ傷を治していたこと。

 規制がかかりそうな内容ばかりだった。

 

「そ、そうなんですね………」


 彼女に恐怖を抱き、少し距離を取る。

 だが、彼女は距離を取った分を埋めるかのように近づいてきた。

 俺の右頬に触れながら彼女は俺をじっと見つめる。


「ど、どうかしました?」

「け………」

「け?」

「敬語やめてほしいのじゃ………」


 ポッと彼女は頬を赤く染める。

 少し照れているのだろう。

 そんな一面を見たことがなかったのかコメント欄が再度荒れ始める。


《やべぇ、なにこののじゃロリ》

《かわいい! お持ち帰りしたい!》

《どうやったらこの子に会えますか?》

《連絡先教えてください》

《〇IN教えてくれえええ》

《もうやばい、龍たん推せる!》

《@yasu いいあだ名だな。龍たん決定!》

《龍たん………はぁはぁ………やばい興奮が止まらん》


 荒れている配信画面が目に入ったのか、彼女は自分の顔を両手で隠す。

 彼女には、この配信画面が見えているのだろう。 

 

「わ、分かった」

「うむ………頼むぞ………少年」


 ずっと顔を隠してる彼女。

 まだ名前も知らないのに敬語はいいといわれるのもどうかと思うが。


「少年じゃなくて裕太で」

「そ、そうか。いい名じゃな」


 あ、配信に本名バレた。

 配信画面を見るとコメント欄が荒れていない。

 

《いいですねぇ》

《あ~いいわ》

《今更だよねぇ………》


 今更だと? 

 何もわからず黙り込む。

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