後日談① お風呂くらい一緒に入ってよ!
あの花火大会が終わってから一週間が経過し、夏休みも残すところあと三日となってしまった。
そして、花火大会が終わってから一週間が経過したということは、奏と恋人になってからも一週間が経過したということだ。
「湊!おはよ!もう朝ご飯できてるよ〜!」
「おはよう……ありがとう」
あれから一週間、奏は毎日俺の家に泊まっている。
もはや泊まっているという感覚すら無く、俺の家に住んでいる、少し恥ずかしいが同棲しているという言葉を使った方が的確かもしれない。
俺よりも奏の方が起きるのが早いから朝は奏が作ってくれて、夜は撮影で奏が疲れているから俺が料理を作るという具合で、上手くその辺りは分割できている。
俺がベッドから起き上がろうとすると、奏は一瞬だけ俺の唇を奪った。
「か、奏!いつもいきなりは驚くからキスするなら事前に言ってくれって言ってるだろ!?」
「え〜!キスしたい!ってなった時が一番キスしたい時なんだもん!あ、でもそうなったらずっとキスしてないといけなくなっちゃうね〜!」
奏は笑いながら俺の腕を引っ張って階段を下り、もうすでにご飯ができているというリビングに向かい、二人で朝食を済ませた。
今考えてみると、恋人になる前からも奏のアプローチはかなり多かったと思うが、そんな奏と恋人になったらどうなるのか。
答えは……
「湊、大好き」
座っていると、突然後ろから抱きしめられて耳元でそう囁かれ。
「湊好き〜!」
立っている時は正面から抱きしめられ。
「湊……」
隣合わせで一緒に映画を観ている時は、俺の名前を甘い声で呼んだかと思って奏の方を見てみるとその瞬間にキスされたりと、とにかく積極的になった。
そして今も。
「湊〜!今日オフの日だから、一日中イチャイチャしようね〜!」
奏は俺の髪の毛を触ったり、抱きしめたりして、言葉通りイチャイチャしてきた……その楽しい日常とは裏腹に、俺は今後恋人関係を続けていくにあたって、今大きな壁に当たっている。
それは────俺も積極的になりたい、ということだ。
このままでは一年後ぐらいには俺はただただ奏に流されるだけになっている可能性がある、そんなのは俺が理想とする恋人関係じゃない。
性格的に積極的にアプローチするのはあまり向いていないが、それでも……俺は積極的になりたい。
それに、このままだと俺が奏のことを好きだと本当に伝わっているのか不安になるからな。
「私飲み物取ってくる!」
奏は一度俺から離れると、飲み物を取りにキッチンに向かった。
……次奏が戻ってきた時には、俺から積極的にアプローチしてみせる。
奏は飲み物を手に持ち、俺の居る場所に戻ってきた。
……俺から抱きしめる、俺から抱きしめる。
俺は心を決めて、奏が飲み物を飲み終わりそのカップをテーブルの上に置いた瞬間────
「えっ!?」
俺は、奏のことを抱きしめた。
奏は突然のことに動揺しているようだが────成功した!
奏のことはもちろん好きだが、俺は自分からアプローチをするのが得意では無く、恥ずかしさが動きにも出ていて多少抱きしめ方に不自然さがあるかもしれないけど、今はとにかく行動に移せたことを喜ぶ時だ。
「も、もう、湊ったら……自分から抱きしめたりするの得意じゃないのに、無理しなくても良いんだよ?……でも、嬉しい」
「今まではずっと奏からアプローチしてくれてたから、俺もちゃんと奏のことを好きだって、知って欲しくて」
「……そんなの、伝わってるよ」
そう言いながら、奏は俺のことを優しく抱きしめ返してくれた。
俺はそのまま、五秒ほど奏の唇にキスした。
「……湊がこんなに私のこと求めてくれて、幸せ」
「俺も、奏とこんな風に同じ感情を文字通り身も心も通わせることができて幸せだ、奏のためならなんだってしたいと思える」
「……なんだって?」
奏が俺の言葉を聞き返してきたので、俺は一度奏を抱きしめるのをやめてちゃんと話す態勢に入った。
「あぁ、なんだってだ」
「────だったらなんでこの一週間ずっと私とお風呂に入ることだけは嫌がるの!?他のことに不満は一切無いんだよ?私がいきなり抱きついたりキスしたりしても湊は怒らないし、私が一緒に寝たいって言ったら湊本当は照れてるのに同じシングルベッドで寝てくれたり、今は照れながらも湊の方から頑張って抱きしめてくれようとしたりして、表面だけ見るとただかっこいい湊だけど、私に好意が伝わってるかどうかを気にしたりして不安がってるのも可愛くて全部好き……なのに、なのに!どうして私とお風呂に入ってくれないのかだけちゃんと教えて!なんだってっていうなら私とお風呂くらい一緒に入ってよ!じゃないと私も色々と不安にもなっちゃうよ〜!」
奏は顔を赤くしながら早口で、だが最後だけは大声で言った。
……お風呂に俺が奏と頑なに入らない理由。
それはシンプルで、だが一番大きな理由だ。
「俺が奏とお風呂に入らない理由は……シンプルに恥ずかしいからだ」
「……え?」
「理由がそれだけとか高校生にもなって恥ずかしいと思って黙ってたけど、本当にそれだけなんだ、奏と……好きな人と、一緒にお風呂に入るなんて、正直直視できる気がしないし……理性も、持ちそうにない」
「っ……!理性が、持たない……湊から、理性が消えたら……!み〜なと!今からお風呂入ろ!」
奏は俺の両肩に手を置いて、笑顔で言った。
「まだ朝だろ!?よ、夜に入れば良いんじゃないか?それに一緒にっていうのは────」
「良いから良いから!早く!!……今日だけは絶対に逃さない」
奏の勢いに負けてしまい、とうとう本当にお風呂に入ることになってしまった……積極的になりたいとは言ったけど、お風呂は────無理だ!!
俺はこのお風呂に入っている最中、絶対に目を開けないことを決意して奏と一緒にお風呂に入った。
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