湊と一緒に居たい

「────花火大会開始の時刻となりましたので、花火の打ち上げを開始させていただきます」


 花火大会開始のアナウンスが流れると、一発、また一発と、次々に花火が打ち上げられていったが、俺と奏は花火の方を見ずに互いのことだけを見つめ合っていた……伝えることは、もう決まっている。


「奏のことが好きだ、俺と付き合ってくれるか?」

「うん!もちろんおっけーだよ!湊!」


 奏が急速で俺に近づいてきたので、抱きつかれるのかと思ったが────奏は俺にキスしてきた。

 今までは互いに頬にしかキスして来なかったが、今回は唇。

 それは、俺たちの関係性が明確に変化したことを表しているキスだった。


「……」

「……」


 しばらくしてから奏は俺から顔を離すと、頬を赤く染めて涙を流しながら……だが、確かな笑顔で言った。


「本当に湊の彼女になったんだよね、私……夢みたい」

「もう夢じゃない」

「うん!……湊のことばっか見てて、花火全然見てなかった」

「俺も奏のことしか……」


 二人で同じことを言っていると、奏が涙を拭って笑いながら言った。


「私たち花火見にきたのに花火見てないとか、おかしいよね〜!でも、仕方無いよね!花火よりもっと魅力的な人が目の前に居るんだから……」

「そんなこと正面から言われると照れるからやめてくれ」

「うわ〜!湊が今までで一番照れた顔してる〜!え、何その照れた顔!十年一緒に居たのにまだそんな顔隠してたの!?」

「あー!うるさいうるさい、俺たちは今花火を見にきてたんだ、早く花火に目を向けよう」

「え〜!待って待って!他には?何か隠してる顔無い?」

「無い!早く花火を見よう!」


 俺は半ば強引に花火を見る方に話を変えた。

 ……いざ花火を見てみると、やっぱり花火は花火で綺麗だ。

 俺は目を横に動かして、花火を見ている奏のことを見る。

 相変わらず浴衣姿が似合っていて、思わずその姿には目を奪われてしまう。

 奏は花火に集中している様子で、その目には花火が打ち上げられるたびにそれぞれの花火が映し出されていた。


「……綺麗だな」

「うん!綺麗〜!湊はどの花火が────って、湊今私の方見てた?」

「見てた」

「え、じゃあ綺麗って私のこと!?」

「そうだ」


 俺は今まで奏のことを素直に褒めることはあまりしなかったため、奏は少し戸惑っている様子だった。


「いきなりそんなこと言ってくるとか……み、湊のバカ」


 俺たちがその後花火を楽しんでいると、奏はスマホを取り出して言った。


「この花火を背景に写真撮らない?せっかく浴衣着てるし、何より!恋人になった記念日だから!」

「そうだな」


 奏はスマホのカメラを起動してそれをインカメにすると、そのスマホを右手で上に上げた。


「じゃあ撮るよ!はい、チーズ!」


 その合図とともに、スマホのシャッターが切られた。

 ……その写真には、奏がファッションショーで一位を獲った浴衣姿と、夏祭りに一緒に来たという思い出と、俺たちが十年の時を経て幼馴染から恋人になった記念日ということが納められている。

 写真撮影が終わった後も花火を最後まで堪能した俺たちは、帰路についていた。


「花火綺麗だったね〜!最後の花火が連続で打ち上げられるのとか綺麗すぎて驚いちゃった!今まで花火大会来たことあったんだけど、やっぱり湊と……大好きな人と来たら、綺麗って思うのも何倍にも増えるんだね!」

「そう、だな……俺も同意見だ」


 続けて夏祭りのことについても話している間に、すぐに家の前に着いてしまった……奏と話していると、楽しくて過ぎる時間が一瞬だ。


「じゃあ、また明日な、奏」


 俺は奏に軽く手を振って、奏が家の中に入るのを見てから俺も家に帰ろうとした────が、奏は帰るどころか顔を下に向けながら俺に抱きついてきた。


「か、奏?」

「今日は……最後まで、湊と一緒に居たい」

「……わかった、泊まっていくか?」

「っ!良いの?」


 奏は顔を上げると、驚いたような表情で言った。


「良いに決まってるだろ?」

「だって、今までは高校生にもなって、みたいなこと言ってたのに!」

「もう俺たちは恋人なんだから、そんなこと気にするはずがない……だろ?」


 その言葉を聞いた途端、奏はとても嬉しそうな表情になると、その場でジャンプしながら言った。


「やった、やった!え!じゃあこれからは好きなだけ湊の家に泊まっても良いってこと!?」

「あぁ、いつでも泊まりに来てくれ」

「うわ〜!もう最高!え、お風呂はお風呂は?昔みたいに一緒にお風呂入って、体洗いっことかしちゃう?」

「い、一緒にお風呂!?待ってくれ、俺はそこまで言ってな────」

「ここまで来て一緒にお風呂は無理とか言わないでよ!私たちもうなんだから!」


 確かに恋人にはなったけど、だからっていきなり一緒にお風呂というのは……でも、どうせいつかは恋人としてそのぐらいはしたほうがいいこと、なんだよな。


「そう、私たち……もう幼馴染じゃなくて恋人、今日この日からは、幼馴染じゃできなかった恋人にしかできないこと、いっぱいしていきたい!」

「あぁ、していこう……今日から、俺たちは今までの俺たちにはできなかったことをたくさんしよう」


 そうすることで、きっと……奏と幸せな人生を歩んでいける。

 俺はそう信じている。

 幼馴染から恋人になっても、俺たちが俺たちであることは変わらない。

 確かに変わったものと、どれだけ経っても変わらないもの。

 その二つを大切にしながらも、変わったことでできるようになったことを、二人で一つずつ楽しんでいきたい。

 俺たちの日常は、幼馴染いつも通りの日常から、恋人いつも通りの日常へと移り変わって行く────それはきっと、幸せなことだ。



【あとがき】


 この作品はこの話を持って、最終回とさせていただきます。


 最終回、と言わせていただいていますが区切り的に最終回と言わせていただいているだけで、絶対後日談出します、むしろ出させてください!!


【後日談スケジュール】

 後日談①8/11 後日談②8/12 後日談③8/13 時間:21時5分


 それと、良ければこの作品を最後まで読んでくださった皆様には気軽にこの作品に対しての気持ちをどれだけ短くても良いのでコメントしていただけるととても嬉しいです!


 この作品が、少しでも皆様の日々の楽しみとなっていたことを祈っています。


 著者の詳しい思いなどは近況ノートにて語らせていただこうと思いますが、この場では最後までこの作品を読んで応援してくださった皆様に今の気持ちだけをお伝えしたいと思います。


 この作品をここまで読んで応援してくださり、本当にありがとうございました!

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