今日は夏祭り一緒に楽しもうね!

 昨日は、無事奏が『サマー・コーディネート・ファッションショー』で一位を獲れたことを帰りにケーキを買って祝い、そして今日は、俺にとって人生で一番の転換点と言っても良いほどの日。

 俺はある服に袖を通すと、そのタイミングで奏から通話がかかってきた。


「もしもし」

『あ、湊〜?そろそろ夜になって夏祭り始まってると思うからもう迎えに行っても良い?』

「あぁ、いつでも」


 その通話を終えてから一分としない間にインターホンが鳴ったため、俺は玄関のドアを開けて外に出た。


「じゃじゃ〜ん!昨日一位を獲ったのと同じ浴衣────み、湊!?え、な、何その!?いつ買ったの!?」


 俺が浴衣を着ていることに、奏は驚いている様子だ。

 俺は前、奏に浴衣は多分着ないと言っていたから、驚くのも無理は無い。


「ファッションショーの何日か前に買ったんだ、俺が浴衣を着ないって言った時奏は着飾らない方が良いって言ってたけど、どこか影があるような感じがしたからやっぱり浴衣を着ることにしたんだ」

「え〜!嬉しい〜!私のこと喜ばせてくれるためってこと!?まだ夏祭り行ってないのにもう満足なんだけど!え、浴衣似合ってる!あ、でも腰に巻く帯は?帯で締めないと上の浴衣が開いてちょっと色気ある感じになっちゃってるよ?帯は?」

「あ、あぁ、帯は調べてもよく付け方がわからなかったから付けないことにしようと思ったんだけど……」

「ダ〜メ!私が居るんだから、ちゃんと私が着付けてあげる!」


 俺は帯を奏に渡すと、奏は鼻歌混じりに帯を巻いてくれた。


「ありがとう、奏」

「ううん……あぁ、私今本当に幸せ」

「……今日からはもっと幸せになろう、一緒に」

「湊……!」


 奏は俺のことを強く抱きしめてくると、俺の耳元に甘い声で囁いた。


「ねぇ、湊……このまま湊の部屋行かない?」

「俺の部屋……?夏祭りはどうするんだ?」

「そ、そうだ!今日夏祭り行くんだった!今が幸せすぎて忘れちゃってた!」


 奏は一度俺から離れると、改めて下駄を履いて言った。


「じゃあ、今日夏祭り一緒に楽しもうね!」

「……あぁ、そうしよう」


 そうして、俺たちは夏祭りが行われている夏祭り会場に向かった。

 花火もある夏祭りということで会場もかなり賑わっていて、張り紙を見てみるとあと二十分ほどで花火の時間らしい。


「私金魚すくいしたい!」


 奏が真っ先に金魚すくいをしたいと言ったので、俺と奏は二人で一緒に金魚すくいの屋台に向かった。


「お!かっこいいお兄さんと可愛いお嬢ちゃん!お似合いだね〜、金魚すくいやって行くかい?」

「え!?お、お似合いだなんてそんな……」

「そこまで反応するところじゃ無いと思う、金魚すくい一人分お願いします」

「はいよ!」


 屋台の人は元気良くそう言うと、俺に金魚すくいで使う道具を渡してくれた。

 俺はそれを奏に渡す。


「これ、どうやって持つんだっけ?」


 金魚たちが居る水槽の前でしゃがんだ奏だったが、金魚すくいで使う道具の使い方がわからないみたいだ。


「確か、こうやって持つんじゃなかったか?」


 俺は奏の手を正しい持ち方の形に直した。


「あとは力加減さえ上手くすればすくえるはずだ」

「う、うん!頑張る!」


 そう言って金魚すくいを始めた奏の手は、何故か震えていた。


「奏?どうしたんだ?」

「え、えぇ!?な、何も!?昔は平気でお風呂だって一緒に入ってたのに、今はちょっと手を触られるだけでこんなにドキドキしちゃなんて……」


 奏はその後なんとか金魚をすくおうとして、あと少しのところで紙が破けてしまった。


「惜しかったな」

「うん!あとちょっとだったのに〜!湊はやらないの?」

「俺が金魚すくい苦手なのは知ってるだろ?小学生の時五回連続ですぐに破けたんだから」

「あ〜!そんなことあったね〜!」


 その後俺たちは射的、わたあめ、りんご飴を食べて、存分に夏祭りを堪能した。


「りんご飴美味しかった〜!りんご飴持ってるだけで夏祭り来たって感じするよね〜!この感じわかる?」

「あぁ、わかる、その点で言うならわたあめも祭りって感じがする」

「そうだよね〜!……夏祭り来た感じって言っても、私は湊と夏祭りに二人で来れてるだけで幸せなんだけどね」

「俺もだ」


 そんな話を交えながら夏祭りの雰囲気に当てられていると、夏祭り会場全体にアナウンスが流れた。


「五分後、花火大会が始まります、花火をご覧になる予定の皆さんは、夏祭り会場の奥まで移動してください」


 ……いよいよ、花火の時だ。

 俺たちは花火の時に大事なことを言うと約束しているため、互いに少し緊張した顔つきになってしまったが、奏はその緊張を振り払って幸福感に満ちているような表情と声で言った。


「花火見に行こ?」

「あぁ、行こう」


 俺はその奏の手を握り、手を繋いで一緒に花火会場まで向かった。

 花火会場に着くと、花火まで残り時間があと二分になっていた。

 ……花火が上がったら、俺は────奏に告白する。

 俺と奏の関係性が幼馴染としてだけで居られるのは、あと二分間だけ……それからは、もっと特別な関係になる。

 俺は静かに今までのとして奏と一緒に過ごしてきた時のことを振り返りながら、花火の時を待った。

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