湊を一番安心させてあげられる服だからです!
プロデューサーが見て驚いた氷花さんのコーディネートは、本来予定していたであろう水着では無く、体のラインはハッキリとわかるが露出はそこまで多くない服だった。
「え〜?氷花ちゃん今回は絶対一位獲りたいからって自分から水着が良いってお願いしてきたのに、どうしてそれがハイネックのコンドレスになってるわけ?」
「……何か、心境の変化があったのかもしれませんね」
「はぁ、まぁあれはあれで十分似合ってるから良いけど……っていうか、氷花ちゃんがあんなに笑顔で仕事するなんて珍しい〜」
俺はランウェイの方を目で直接見ていたが、そこから視線を外してモデルたちがアップで表示されている大画面の方に目を移した。
そこには楽しそうな笑顔をしている氷花さんが歩いている姿が映し出されていた……きっと、氷花さんが水着姿だったなら、見れなかった笑顔だろう。
やがてその十人全員が歩き終えると、十人は全員横並びになって舞台に並んだ。
「ここから、確か歓声の量で次のステージに進む人を決めるんでしたっけ?」
「そうそう、って!さっきもやってたよ?」
「す、すみません、話に夢中になってました」
「なんか奏ちゃんがいちいち心配になっちゃう気持ちもわかるような気がする……」
会場全体が静まり返り舞台上の電気が消されると、司会の女の人の声が会場中に響いた。
「それでは皆さん!今回の十人の中で、一番目を奪われたというモデルにスポットライトが当たった時に、大きな拍手と歓声をよろしくお願いします!」
司会の人がそう言うと、十人のモデルそれぞれ順番にスポットライトが当てられていった。
それぞれのモデルさんが拍手と歓声を浴びていたが、その中でも特に歓声を浴びていたのは────
「ということで!最後尾までスポットライトを当て終わりましたので!次のファイナルステージに進出できる一名にスポットライトを当てたいと思います!そのモデルは────この方です!」
司会の人がそう言うと、さっきまでは一つしか無かったスポットライトが、今度は三つに増えて、それが一人の人に当てられていた。
「氷花ちゃん、流石だね〜」
「そうですね」
俺も観客席から観ていて、贔屓目かもしれないが氷花さんが一番輝いて見えたため、驚きは特に無いが、改めて氷花さんの凄さが理解できた。
観客の人たちからの拍手と歓声を横目にして、十人のモデルの人たちは、舞台裏に戻って行った。
────その直前、一瞬氷花さんと目が合って、笑顔を向けられたような気がする。
「いや〜、良かった良かった、とりあえずこれでうちの事務所から上位十名のうちの一人は絶対に出ることが確定したね〜」
「そうですね、奏も絶対一位を獲ると思うので、二人になると思います」
「あ……あぁ、奏ちゃんね」
プロデューサーは少し気まずそうに言った。
その間に、次のモデル十人が出てきた。
奏の出番はまだみたいだな……それよりも。
「どうして気まずそうにしてるんですか?」
「いやぁ?き、気まずそうになんてしてないんだけどね?ただ、もしかしたら場合によては奏ちゃん、ファイナルステージにも進出できないかもしれないんだよね……」
「え!?」
奏が最初の十人の中から選ばれることすらできないかもしれない……!?
「そ、そんなことないですって、幼馴染の俺がこんなこと言っても引かれるかもしれないですけど、モデルとしてのカナデはプロデューサーが認めるぐらい輝いてるはずです」
俺がそう言うと、プロデューサーは頭を抱えながら言った。
「そう、なんだけど、今回の奏ちゃんのコーデがファッションショーにとって前代未聞っていうか、もちろんそういうショーもあったんだけど、こんなコーディネート力と着こなし力が必要とされるファッションショーでは前代未聞なコーデっていうか……」
プロデューサー自身も動揺している様子で何を言っているのかあまり理解できなかったが、とにかくファッションショー受けしない服装を奏が選んだ、ということだろうか?
でも……
「ファッションショーで前代未聞って、奏はどんな服を選んだんですか?」
「私がなんでその服装にしたのか聞いたら────」
「この服が、ファッションショーの次の日、湊のことを一番安心させてあげられる服だからです!」
「────って言ってたよ」
「俺を、一番安心させられる服……?」
俺たちが話している間に、さっきの十人の審査が終わったらしく、次の十人が出てくる時間になっていた。
「ちょうど次が奏ちゃんだから、ちゃんと見てあげてね」
「はい……!」
「────それでは!モデルたちを皆さん拍手でお迎えください!」
会場中が拍手で包まれると、次のモデルの人たちが続々と出てきたが、奏の姿はまだ無い……一体どんな服を着ているのか────と考え始めようとしたところで、その十人の最後尾から奏の姿が見えた。
奏の、姿が……え?
「わぁ、流石奏ちゃん、着こなすの難しそうなのにちゃんと着こなして緊張してないみたいに笑顔で手なんて振っちゃって────」
「それよりも!どうして奏は浴衣なんですか!?」
「あ、やっぱり驚いた?ね?前代未聞でしょ?」
「前代未聞っていうか……」
こんな派手な服を着ている人しか居ない中で一人だけ浴衣って、どう考えてもおかしい……はずなのに。
俺は、笑顔で手を振っている奏の浴衣姿に目を奪われていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます