好きになってたの
ナイトプールは下にグラデーションで様々な色に変わっていくライトが設置されていて、夜で暗いことも相まって水が幻想的な雰囲気を作ってくれている。
「綺麗だね〜!別の世界に来たみたい〜!」
奏もさっきまでの辿々しい雰囲気を忘れたかのように楽しそうにしている。
「あっちの方に行くとここが屋上っていうこともあって絶景が見られそうだ、行ってみないか?」
「うん、行く行く!」
俺は奏と一緒にプールの壁側まで移動した。
プールの壁側は、もうそのままこの屋上の壁となっていて、胴体ぐらいの高さがあるため飛び越えようとしない限り落ちる心配は無く、しっかりと屋上からの景色も楽しめる造りになっているようだ。
「綺麗〜!ホテルの周りがいっぱいライト点いてて綺麗で、海なんかも遠くまで見ても変わらないのが不思議ですご〜い!」
「あぁ、良い景色だ……あっちの方に飛行機も置いてある」
「え、どこどこ!?」
奏は慌てて俺の指差した方を見ようとしてしまったため、軽く俺とぶつかってしまったが、俺はそれを軽く受け止める。
「そんなに慌てなくても、飛行機はそんなにすぐには動かない」
「ご、ごめん……ねぇ湊、私このナイトプールで湊に話したいことがあるって言ってたよね?」
「言ってた」
「そのこと、今話しても良い?」
「もちろんだ」
俺は受け止めていた奏のことを手から話すと、奏はほんの少しだけ俺と距離を取って俺に向き直った。
それに合わせて、俺も奏に向き直る。
「あのね、湊……その、私たちって、今まで十年ぐらいほとんどずっとに居たじゃん?」
「そうだな」
幼稚園の時から今に至るまで家が近かったこともあって登下校を共にしたり、学校でも一緒に過ごして、放課後は一緒に遊んだり、本当に奏とは十年間ずっと一緒に居た。
「それで、やっぱり、十年も一緒に居たらお互いに異性として肉体的にも精神的にも成長していって、それにつれて気持ちの変化?っていうか、そういうのもあるじゃん?」
さっきからわかっていたことだが、奏の喋り口調がこのナイトプールに来る前と同様に辿々しくなった。
それだけ重要な話ということ……俺は黙ってそれに耳を傾ける。
「最初は、家が近い男の子で、その次は仲の良い男の子で、その次は異性の男の子、で、その、次は……」
奏は言葉を発するたびに声が震えていき、最終的には声を出せなくなっていた。
「奏?大丈夫か?」
「だ、大丈夫……大丈夫、だけど、湊は私が何言っても嫌いになったりしない?」
「当たり前だ、嫌いになんてならない」
「じゃあ、頑張って言う!」
奏は少し間を開けると、今度は全く声を震わさずに、芯のある力強い声で言った。
「異性の男の子って認識した次は、いつの間にか湊は気になる男の子になってた……気になるっていうのはもちろん恋愛的な意味でってことで、湊の一挙手一投足が全部気になり始めて、いつの間にか、好きになってたの」
「……」
驚かない、驚いてはいけない。
心の中では少し驚いているが、朝の海の時からなんとなく予想はできていたこと……それに、今恐怖の感情と向き合って話してくれている奏の好きという言葉に対して驚くのは失礼極まりないこと。
そんなことは絶対にしない。
「それからはただただ頑張ったよ、小学生なりに必死にアプローチしてみたり、中学生になったらボディタッチを増やしてみたりして、本当に頑張った……けど、湊はそれを全部私がからかってるって捉えてた」
「……」
「それで、高校生になって、私はこのままじゃダメって思ったから、湊に可愛いって思ってもらうためにモデルを始めた……湊に可愛いって思ってもらうために」
……奏がモデルを始めたのは、俺に可愛いと思ってもらうため?
そのことは全く予測できなかったが、結果として奏は超人気モデルになって、今を輝く女子高生モデルになったということなのか。
「で、湊はその撮影に毎回付き合ってくれて……もしかしたら私のこと可愛いって思ってくれたのかなって最初の方は思ってたけど、それはただ湊が優しいだけだった……でも、優しいのに、そんなに優しいのに」
奏は俺のラッシュガードを強く握りながら言った。
「湊は、私の気持ちにだけは絶対に気づいてくれない……ねぇ、どうしてなの?本当は私の気持ちに気づいてたの?ううん、そうじゃないことは私が一番わかってる……私の気持ちはちゃんと伝えたから、返事……もらっても良い?」
返事……俺は今までに経験した事がないほどに自分の口が重かったが、それでもなんとか口を開いて言った。
「奏の想いは、ちゃんと受け取らせてもらう」
「そうじゃないよ!ちゃんと言わないと伝わらないの?私は、湊と付き合いたいって思ってるの!」
「……仮に俺と付き合ったら、モデルの方はどうするんだ?」
「モデル?もし湊との時間に差し支えあるようならいつでも辞めるよ」
「奏は、モデルの仕事を本気で楽しんでた、それを俺と付き合うせいで失うなんて────」
「あ〜!もうわかった、はいはい、そうなった湊は優しすぎるせいで優しさが止まらなくなるのは私もう知ってるから!」
奏は俺に抱きつくと、俺の耳元で囁いた。
「私は、湊がどう想ってるのかを知りたいの……今までは私のことを無意識に幼馴染としてしか見てなかったかもしれないけど、さっきの私の言葉を聞いた今は?私は、湊の今の気持ちが知りたい」
「……俺は────」
「もし私のこと好きって思ってくれるなら、私のこと抱きしめ返して」
「……」
奏が今全力で楽しんでいるモデルの仕事に何かしらで俺が絶対に邪魔になってしまう……だからこそ俺は今日奏に告白されたとしても振ろうと決めていた。
でも……そんなに簡単に、感情なんて制御できるわけがない。
今芽生えたのか、もしくは今まで無意識下で押さえていたのかはわからないが、俺はその分も含めて力強く奏のことを抱きしめ返した。
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