私決めました!
次の日の早朝。
私は、プロデューサーのことを事務所に呼び出して、一晩かけて考えたことを伝えようとしていた。
「おはよー奏ちゃん、こんな朝早くに呼び出しなんて初めてじゃない?何か急用とか?」
「はい、私モデル辞めようと思います」
「あー、次の撮影場所?次の撮影場所は────今、なんて?」
「私モデル辞めようと思います」
「……え!?」
一度驚いたプロデューサーは、今の私の言葉で目が覚めたのか、大声で叫びながら話始めた。
「ちょ、え、えぇ!?奏ちゃん、何言ってんの!?辞めるって、いつかみたいにツーショットが嫌とか明確な理由があるの?」
「いえ、今回はプロデューサーが原因では無いです、ただ……私、何してるんだろって思っちゃって」
「何って……モデルでしょ?それも今すごい勢い!モデル始めてから数ヶ月で毎日撮影があるほど仕事があるのは凄いことなのよ?」
「もちろんそれはありがたいと思ってます……でも、どれだけ私にファンが付いて、どれだけ人気になったとしても、湊が私のことを見てくれないならモデルを続ける理由にはならないんです」
私は淡々と自分の考えをプロデューサーに伝える。
プロデューサーは仕事熱心だけど私の心遣いはちゃんとしてくれる人、私本人が辞めたいって言ってる以上無理にモデルを続けさせようとすることはしないはず。
「あのね奏ちゃん、もちろん私はモデルである奏ちゃんの心境が何より大事だと思ってるし、奏ちゃんが辞めるって言うなら止めたくも無いけど……そんなバカな理由で辞めるって言われると私だって止めたくなるわ」
私はそのプロデューサーの言葉で怒りの感情が込み上げてきた。
……バカな理由?
私が一晩中……ううん、湊に見て欲しくてモデルを始めたって意味ではモデルを始めてからずっと考えてたことを、バカな理由?
「バカな理由なんかじゃ無いです、私は────」
「あー!もう酸っぱい酸っぱい!そんなに湊くんに奏ちゃんのことを見て欲しいならさっさと告白しちゃえば良いじゃん!」
「っ!それができないから私はモデルを辞めて、モデルのカナデは完全に辞めて星宮奏として湊と向き合おうとしてるんです!」
告白なんてできたら……私だって、私だって!
「あーもう、他ならともかく告白したら確定でオッケーされる状況で何がそんなに怖いの?」
「確定して無いです!その証拠に、湊は私のことを異性じゃなくて幼馴染として見てるし……」
「そんなの奏ちゃんが告白しちゃえば全部解決だって、それに本当に湊くんは奏ちゃんのこと異性として見てないのかな?」
……見てない。
それは私が一番よくわかってる。
「見てないです、たとえば私がわざとらしく覗きしないでねって言っても全く覗きする素振り見せませんでした」
「それは普通の判断でしょ……たとえば、昨日とか奏ちゃん湊くんのこと誘惑するためか結構露出の多い服とか着てたけど、湊くんはそれにノーコメントだった?」
「……私の服装のせいでドキドキしてるとは言ってました」
でも、それは私にドキドキしてるんじゃなくて、ただあの服が露出多かっただけ……湊は、私のことを幼馴染としか思ってない。
私は、小学四年生の時から色んなアプローチしてるのに、湊はそれを全部からかいだと思ってる……
「ドキドキしてるなら、やっぱり奏ちゃんはただの幼馴染じゃ無いって」
「いえ、服装にドキドキしてるだけです」
「兄妹が家の中でどんな服着ててもドキドキなんてしない、それと同じで、もし幼馴染だって思ってるなら奏ちゃんがどんな服着ててもドキドキしないはずだよ?」
「でも……でも────」
「奏ちゃん、モデルを辞めるんじゃなくていい加減逃げるのを辞めたら?」
っ……!
その言葉に私は心臓を掴まれたような感覚に陥った。
「奏ちゃんは、モデルを辞めたいんじゃない、ただ告白するのが怖いからモデルごとその恐怖から逃げようとしてるだけ、でもそんなんじゃ、いつまで経っても湊くんは手に入らないよ?」
プロデューサーの言うこともわかる……わかるけど!
「でも、だからってどうしようもないじゃ無いですか!もし湊に振られたら私絶対病む自信あるし、その間湊が私のこと励ましてくれたとしても『じゃあ私と付き合ってよ』とかって言う最低女になる自信しかないです!」
で、湊は優しいから多分同情で私のその言葉を受け入れて、付き合って……私は優しい湊に甘えちゃう。
「そんなところに自信持つならもっと別のところに自信持てば良いのに……まぁ、でも確かに焦って告白するのは得策じゃないことは確かね」
「はい……でも、プロデューサーも言う通り、私はモデルを辞めることで、湊に告白することから逃げてるような気もします」
……だからって、どうしたら良いの?
湊に告白して振られるのは怖いし、アプローチしてもからかってるだけだと思われて終わり。
この前の間接キスだって私を異性として認識させるためだし、昨日露出の多い服で行ったのも、私を大人っぽいと認識させるのとドキドキしてもらうため……もちろん、湊が相手じゃないとあんな服着れるわけない。
……こう考えてたらムカついてきた!
なんで私はこんなに必死に頑張ってるのに、私が何かしたらからかってるって判断して私の想いから逃げて、湊からは何もして来ない!!
おかしくない!?
「……今すぐ考えて答えを出すようなことでも無いと思うし、とりあえずモデルの仕事の方は奏ちゃんがやる気出るまで休みにしてあげるから、その間に────」
「プロデューサー、私決めました!」
「決めた?決めたって何を?」
わざわざプロデューサーに言う必要も無いけど、ここまで私の話に付き合ってくれたし、プロデューサーに言うことで私の決意がより固まると思ったから、私はプロデューサーに宣言する。
「今まで、もし湊に他の好きな人ができた時のことを考えて、大胆すぎることはして来なかったんですけど……もうそんなの考えない事にしました!湊が好きな相手になるのは私だし、湊と恋人になるのも私!!それ以外有り得ませんから!!」
「わぁ、いつもの奏ちゃんに戻ったね〜!なら!私もちょっとだけ手伝ってあげる、何か願いがあったら言ってみて〜?一つだけ、私にできる事ならなんでも叶えてあげる!」
プロデューサーは自信満々な表情でそんなことを言った。
……なんでも?
「それって、たとえばパフェ買ってくださいとかでも良いんですか?」
「もちろん!その時は私のお金から出すから!」
「じゃあ、夏で湊と泳ぎに行きたいので────」
「オッケー!プールね、となると可愛い水着とかかな?任せて!ちゃんと奏ちゃんに似合う水着を────」
「そうじゃなくて、一泊二日のリゾートホテルを探してください、あと予約もプロデューサーの方でしていただけるとありがたいです」
私はプロデューサーの言葉を遮ってそう強く言い切る。
リゾートホテルなら、近くに海もあって湊に水着を見せられるチャンスだし、もしかしたら私の水着に照れた可愛い湊が見れるかも!
で、湊は水着だから上半身は何も着てなくて……最高じゃん!今から楽しみ────
「ま、待って奏ちゃん、リゾートホテルって、お値段何円するか知ってる?それにここ都心だし、ちゃんとした海とかが使えるリゾートホテルに行くなら下手したら航空機も使って航空費も────」
「一つだけ、私にできる事ならなんでも叶えてあげる!でしたっけ!もちろん、旅行は行ってから帰るまでがワンセットですよね!」
「奏ちゃんが、悪魔に見えてきた……」
「さっき決めましたから!私は湊と幸せになるためなら……悪魔にもなっちゃいますよ!」
「湊くん、その一泊二日で亡くなる事なく無事帰って来られることを陰から願ってるわ……」
プロデューサーと話し終えた私は、家に帰って制服に着替え始めた。
とにかく、湊に次の休日空いてるか聞かないと……そうだ、あとプロデューサーにはちゃんと一室っていう風にお願いして……あ〜!やることがいっぱい!だけど幸せ〜!
制服に着替え終わると、学校用の鞄を持っていつも通り湊の家のインターホンを鳴らした。
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