好きですよ!何か悪いんですか!?

「奏……?まずは、今までの話を全部忘れてちゃんと俺の話を聞いて────」

「湊、縁結びたいって、本当に言ったの?」

「言ってな────」

「本当に言ったの!?」

「だから、言ってな────」

「うるさいうるさい!湊のバカ!」


 まともに会話ができる状態じゃないな……こういう時は、とにかく奏が冷静になってくれるまで待つしか────


「どうせ綺麗な人だからって名前聞き出そうとしてたんでしょ!私のこと可愛いっていう割に私には何も────」


 奏が感情的になって話を続けようとしたところで、銀髪のモデルさんがそれを遮るように話に入ってきた。


「奏さん?何があったのかはわかりませんが、一度落ち着いて話してみませんか?会話というのは、双方が意見を相手に伝えることができて初めて成立するものです」


 ……言ってることはごもっともだが元はと言えばあなたの天然発言のせいでこうなってるんですけど……というか、このタイミングでそんなことを言うのも天然に拍車をかけている。


「部外者は黙っててください!この話は私と湊の問題です!」

「部外者ではありません!先に湊さんとお話ししていたのは私です!」

「本当、今はちょっと黙っててもらえますか?それより湊────」

「会話ではなく一方的な口撃など湊さんが可哀想ではありませんか!」


 そう言いながら銀髪のモデルさんは俺のことを強く抱きしめた。

 ……え?


「あの────」

「……私だって湊のこと抱きしめたことなんて物心ついてからは片手で数えれるくらいしか無いのに」

「抱きしめる……?何のお話ですか?」

「あなたが今湊のこと抱きしめてるんじゃ無いですか!」

「え……?失礼しました、つい感情的になってしまったようです、それと……男性を抱きしめたのは人生で初めてです」

「……湊、ちょっと部屋の外出て」

「言いたいことはわかるけど、せめて手続きの後で────」


 俺の言うことを聞かずに、奏は部屋の外に出て行ってしまった。

 もし今俺も外に出なかったら、今回は本当の喧嘩に発展してしまいそうだ。


「……あの、そろそろ離していただいても良いですか?」

「はい、わかりました」


 俺がそう言うと、銀髪モデルさんは俺から離れてくれたため俺はすぐに部屋の外に出た。

 ────それと同時に、頬に痛みが走った。


「痛っ────」

「バカ!湊のバカ!あれだけ綺麗な人が居ても気を取られちゃダメだよって言ったのに!湊わかったって言ったのにっ!」


 そう言いながら奏は俺の両肩を揺らそうとしてきたので、俺はその奏の両腕を抑えながら言う。


「落ち着いてくれ奏、俺は本当にただ名前を聞いただけで、他意は無いんだ」

「……本当?」


 ようやく冷静に俺の話を聞いてくれる気になったのか、奏は俺の話に耳を傾けた。


「あぁ、本当だ」

「絶対の絶対?」

「絶対だ」

「……でも、約束破ったのは変わらないから、一個だけ約束してくれたら今回の件は許してあげる」

「なんだ?」


 奏が俺の話を聞かずに怒っているよりかは奏と何かを約束した方が良いと思った俺は、奏にその約束の内容を詳しく聞く。


「今年の夏祭り、二人で一緒に行きたいの」

「なんだ、そんなことで良いのか?もちろん大丈夫だ」

「……湊、今までとは違うよ?」

「……え?」

「私と湊、男女で夏祭りに行くことの意味……夏祭りまでに、ちゃんと考えてて」

「それ、どういう意味────」

「湊くん、そろそろ手続きしてもらっても良いかな?さっきの子の要件も早く聞かないといけないから」

「────す、すみません!すぐ続き書きます!」


 俺は自分が手続きをしている最中だということを思い出し、すぐにプロデューサー室の中に入って、俺が手続きをしていた客用のテーブルに向かった。


「……あんなに嫉妬しちゃって、まだ湊くんのこと好きじゃないとか言うつもり────」

「好きですよ!何か悪いんですか!?」

「────……もう隠さないんだ、驚いちゃった」

「……いつまでも今まで通りだと、その間に湊が誰かに取られちゃうかもってことに気づいたんです、だから私は────」

「そういうことなら協力してあげる、次の奏ちゃんと湊くんのツーショット撮影のスタジオ、前は例で挙げただけだったけど本当に実現できたの」

「それってもしかして────」

「まぁまぁ、とにかく、明後日を楽しみにしてて」

「……はい!」


 俺が元居たテーブルには、何故か銀髪モデルさんが座っていて、俺の手続き書に目を通して────


「って、何してるんですか!」

「湊さん、おかえりなさい、暇だったので湊さんが書いていたものを拝見させていただいておりました」

「拝見って、勝手に見ないでもらっても良いですか!?」


 この紙には名前はもちろん、電話番号や住所などその他重要なことが書かれていて、第三者に見られるのはかなりまずい。

 俺はすぐにこの人が腰掛けているソファの隣に座ると、その手続き書とボールペンを手に持った。


「す、すみません……そうですよね、湊さんも男性ですし、見られてやましいものの一つや二つありますよね」

「いや、そういうわけじゃ……」


 ……まずいかとも思ったが、この人なら特に問題無い気がしてきた。

 俺は少し呆れながら口を開く。


「もう大丈夫です、気にしないでください」

「そうですか……そういえば、湊さんは何歳の方なのですか?」

「今年で16歳です」

「なるほど、奏さんと仲の良い様子でしたのでもしやと思いましたが、奏さんと……そして、私と同じ高校生の方なのですね」


 私と同じ……高校生?


「……あなたも、高校生なんですか?」

「はい、今年で17歳になります」

「今年で17って、俺と一つしか変わらないじゃ無いですか!」

「そうですね、同じ高校生の方も珍しいので、とても嬉しいです」


 そう言いながら優しく微笑んだ。

 ……この人が、高校生?

 最低でも大学生以上だとは思っていた、それほどまでに容姿が綺麗で大人びて見える。


「それはよかったです……それにしても、俺と一つしか変わらないのにこの事務所のトップモデルって呼ばれてるなんてすごいですね」

「本当にそんな大したものでは無いんです……私は、人生のほとんどをモデルになるためだけに過ごすよう言われて育ちました、食事制限は当然のこと、睡眠時間や運動の時間なども秒単位で────すみません、こんな話どうでも良かったですね」

「どうでも良いこと無いです、その努力の積み重ねがこの事務所のトップモデルにまでなれるほど実ったんですから、もっと誇ってください」

「……そんなことを言われてのは初めてです、それと、私の名前は────」

「湊〜!そろそろ手続き────」

「ラストスパート!頑張るか〜!」


 奏が部屋に入ってきたため、俺は誤魔化すように大きな声を上げてペンを持ち直して手続き書に記入する。


「────なんで隣に座ってるの?」

「あ、あー、ちょっとわからないところがあってな」

「もう!わからないところがあったなら私を呼んでくれたら良かったのに!」

「悪かったって、でももう終わるから」


 その後俺は素早く手続き書に記入を終えると、その紙をプロデューサーに渡して、今日のところ用事はそれだけなので速やかに奏と一緒に事務所を後にした。


「ごめんね待たせちゃって、それで、次の撮影の話だっけ?」

「湊、さん……素晴らしい方でした、プロデューサーさんが起用されたのですか?」

「えぇ、そうだけど……珍しいわね、あなたが他人をそこまで褒めるのは」

「そうですか?私はいつも周りの方々に感謝して生きていますよ……いえ、感謝と褒めるは、確かに違いますね」

「あなたに限って無いと思うけど、湊くんのこと好きになるとかやめてね?奏ちゃん、私でも手につけられなくなっちゃうんだから」

「はい……わかっていますよ」


 家までの帰り道、俺たちは互いに沈黙していた。

 ……俺は少し気まずかったため、珍しく俺の方から口を開くことにした。


「事務所、思ったより綺麗だったな」

「……」

「……壁の白色が綺麗で────」

「湊は、ああいう大人っぽい人が好みなの?」


 沈黙していた奏が口を開いたかと思えば、出てきた言葉は予想外のものだった……大人っぽい人、間違いなくあのトップモデルの人のことだ。


「別に、好みってわけじゃ────」

「だったら、どんな女の子が好み?」

「え、え……!?そんなの、普段から考えてるわけじゃ無いからすぐには出てこない」

「……明後日、きっと湊好みの女の子と会えるよ」

「……明後日?俺好み?どういう────」

「もう家着くね〜!私まだ課題終わってないから!先帰るね〜!」

「あ、おい!」


 奏は俺に手を振ると、もう見えている自分の家まで走っていき、家のドアを開けて中に入る前にもう一度だけ俺に手を振ってから家の中に入った。

 ……明後日、俺好みの女の子に会える?

 よくわからないが、とにかく明後日を待ってみないとわからないな。

 ……俺好みの女の子、か。


「私が、湊好みの女の子になってみせる……待っててね、湊」

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