私と湊のツーショット?
「起きて!起きてよ湊!」
「……」
「もう!休日だからって寝過ぎ!今もう朝の九時だよ!」
「ん……」
俺はやたらとうるさい声によって目が覚めて、ゆっくりと体を起こした。
起きて一番最初に視界に入ってきたのは、相変わらずオシャレな服を着た奏の姿だ。
「……どうして奏が俺の部屋に?」
「あぁ、私湊のお姉さんに何かあった時用に湊の家の鍵渡されてるの、前言わなかったっけ?」
「それは知ってる」
家が隣同士ということもあって、俺だけでなく家族も奏のことは信頼している、だからもし災害があった時用に鍵を渡してあるっていうのは知っている。
だから問題はそこでは無く……
「どうして寝てる俺の部屋に勝手に入って来てるんだ?」
「それはね〜!私が湊のことを起こしにきてあげたの!朝からいっぱいメール送ったのに一つも既読付かないんだもん、半分怒って殴り込みに来た感じなんだけど、ちょっと湊の顔見たらどうでも良くなっちゃって、でもせっかく私が来たのにずっと寝てるの見てイラついちゃって起こしたの」
そんな理由でまだ眠いのに無理やり起こされたのか……とはいえ、朝九時ならそろそろ起きたほうが良い時間なのも確かだ。
「……今日の撮影は何時からだ?」
「えっと…お昼の一時!」
俺の中で奏の撮影に付き合うのが当たり前となっていて、その日会うたびに奏には撮影会の時間を確認している気がする。
「そうか…ならまだ時間はあるし、のんびりご飯でも食べ────」
「え!?ご飯食べに行く!?良いよ!?どこ行きたい!?」
「え、食べに行く……?そうじゃなくて、俺が言ったのは、家でのんびりご飯でも食べるっていう────」
「この前食べたパフェめっちゃ美味しかったから湊と行きたいと思ってたんだよね〜!あ、でもパフェは朝から重いかもしれないから、あっさりしたやつのほうが────」
奏は自分の世界に入ってしまい、延々と俺とどこにご飯を食べに行くかということを一人で論じている。
……こうなった奏は止められないため、俺は今日奏と朝ごはんに行くことが今この瞬間に決定してしまった。
その後顔を洗って歯を磨くと、服を着替えて奏と家の外に出た。
「いつも思うけど、こうして二人で歩いてると外から見たら恋人みたいに見えてるのかな〜」
「そんなことより、奏の長い一人議論の末に、俺は今日どこに朝ごはんを食べに行くことに決定したんだ?」
「そんなことじゃ無いから!……食べに行くのは────」
それから数十分後、奏に付いて行くと……
「────ここ!美味しいフルーツとかがいっぱいあるスイーツ店!都会の中心部ってこともあって結構人気で、私の写真とかが載ってある雑誌でも結構特集されてるんだよね〜」
「ちょっと待て、俺たちがこの場所に来たのは朝ごはんが目的だよな?それがどうしていつの間にかスイーツ店に来ることになってるんだ?」
「何もわかってない湊に説明してあげる!朝ごはんを食べる、つまりお腹をいっぱいにしたい、お腹をいっぱいにしたいなら美味しく無いものよりも美味しいもの、美味しいもので代表されるのは甘いもの……甘いものと言えばスイーツ!だから今日の朝ごはんはスイーツになったんだよ!」
「スイーツじゃご飯にならないだろ!」
よくそんな無茶苦茶な話を真面目に語れるな……俺は奏の天然ぶりに呆れていると、奏が申し訳なさそうに謝ってきた。
「ごめん湊、湊が喜んでくれたらと思って……」
「……」
無茶苦茶ではあるが、お腹をいっぱいにしたいなら美味しく無いものよりも美味しいもの、というのは確かにその通りだ。
「……わかった、今日の朝ごはんはこのスイーツ店にしよう」
「え……良いの!?」
「最近スイーツはあまり食べて無かったし、たまには朝からスイーツっていうのも悪くない」
「やった〜!」
俺は自分のことを納得させ、奏と一緒にスイーツ店に入った。
スイーツ店に入ると、女性店員さんが俺たちに対応してくれた。
「いらっしゃいませー、何名様────え!?カナデ!?」
店員さんは突然奏の名前を呼ぶと、奏に顔を近づけて言った。
「あの、えっと……カナデさんですか!?モデルの!」
「あ、うん、そうだよ?」
「え〜〜〜!カナデさんと会えるなんて夢見たい!写真撮ってもいいですか?」
「良いよ!」
奏がポーズを決めると、カナデのファンらしい店員さんはカナデの写真を撮った。
もちろん俺は奏から離れて画角に入らない位置に居る。
「ありがとうございます!……あの!そっちの人もモデルさんですか!?」
「……え、俺?いや、俺は────」
「モデルさんなら写真撮らせてもらっても良いですか!?私モデルさんとか雑誌で見るの本当に大好きで!」
たまに俺はモデルじゃ無いのに奏と一緒に居ることによってモデルだと勘違いされることがあるが、今回もそのケースのようだ。
……それで写真まで要求されたのは初めてだ、俺はモデルじゃないしどうにか────
「湊の写真はダメ、撮っていいのは私だけ」
「……奏?」
奏がさっきまでの元気な対応をやめて、暗い声で言った。
その奏の言葉を聞いて、店員さんも暗そうな声で言った。
「あ、そうなんですか……モデルさんだと、やっぱり撮影許可とか色々と難しいですよね、無理言ってごめんなさい、お二人お似合いだったので、是非ツーショットを撮らせていただこうと思ったんですけど、撮っちゃダメだったら仕方ないですよね……」
「……え、私と湊のツーショット?」
奏はツーショットという言葉に反応して、さっきと少し態度を変えた。
「ちょっと待って、私と湊のツーショットなら撮っても良いよ!でもその代わり私のスマホでも良い?」
「もちろんです!カナデさんのカメラマンになれるなんて、めちゃくちゃ嬉しいです!」
奏は店員さんにスマホを渡すと、俺の腕に自分の腕を絡めてもう片方の腕でピースした。
「……え、奏?どうしてツーショット────」
「良いから良いから!早くポーズ作って!」
「……わかった」
俺は表情をポーズとして作ることに慣れていないが、少し笑って奏と同じようにピースをした。
その瞬間、店員さんはシャッターを切った。
「ありがと〜!」
奏は店員さんにお礼を言うと、店員さんは「こちらこそです!」と言って俺たちのことを席まで案内した。
「ではごゆっくり!」
店員さんはお辞儀をすると、入り口あたりに戻って行った。
……奏のファンと遭遇することは珍しくもなんとも無いことだが、俺にまで積極的だったのはあの人が初めてだ。
「うわ〜!私湊と写真撮ってる〜!」
「そんなに嬉しいのか?」
「だって湊、私がツーショ撮ろって言っても嫌って言うんだもん」
「変な問題になったら困るのはむしろ奏の方だろ?」
「湊は気にしすぎなんだって!もし私がモデルだからって何か思うところがあるんだったら、私モデル辞めるもん」
「そんなことは簡単に言うことじゃない」
「簡単じゃないよ、私湊のためならモデルぐらい辞めるから」
……奏は、時折力強い意志を見せる時がある。
その時の奏は、きっと俺が何を言っても意志を曲げることは無いというほどのものを感じさせる。
「な〜んてね!そんなこと無いと思うけど!」
奏はいつもの雰囲気に戻り笑って誤魔化した。
その後、俺たちは朝ごはんにスイーツを食べて撮影の時間まで適当にその辺りを歩いていると、いつの間にかその撮影の時間間際になっていたため、二人で一緒に撮影現場へと向かった。
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