超人気モデルの幼馴染の撮影に付き合っていると、何故か俺もモデルにスカウトされた
神月
モデルになったらダメだからね!
今日もいつものように幼馴染の超人気モデル、
奏がどのぐらい人気なのかと言えば、コンビニに行くといつでも必ず一つは表紙になっている雑誌を見つけられるほどだ。
「お疲れ様で〜す!」
カメラマンの人や照明の人に挨拶を済ますと、奏は俺のところに駆け寄るように走ってきた。
「ねぇねぇ、見てた見てた?私の最高に可愛いところ!」
「見てた、ていうか見飽きた」
「はぁ!?ちょっとそれ酷くない!?」
見飽きたと口に出すと奏の言う通り俺が酷いと思われかねないが、よく考えて見てほしい。
俺はほとんど毎日学校終わりや休日の昼間は奏のモデルとしての撮影に付き合わされている、それも高校に上がってからずっと……今は高校一年生の夏だから、ざっと三ヶ月はほとんど毎日だ。
その状況を踏まえても、果たして俺が酷いと言えるのかどうか。
絶対に俺は酷く無い!そうに決まっている!
……だが、それでも付き合っているのは、一応奏のことを幼馴染として大事に思っているからだ。
「もう知らないよ!今謝るんだったら許してあげるけど、謝らないって言うんだったら個人的に私の水着ショット上げようと思ってたのやめちゃうからね!」
「要らないから結構だ」
「うわ、うわ〜!私の水着ショットなんてまだ無いからもし今世に出たらどれだけ価値出るかわからないのにそれを要らないとか言っちゃうんだ〜!?」
奏は、人気モデルなだけあって見た目はとても美人、と言うよりかは可愛いと綺麗を混ぜ合わせたような感じで、その派手な金髪と整った顔立ちが見た目で言えば特徴的だ。
あとは表情が豊かだったりもするが、それは雑誌などではなかなか見えない部分だろう。
「もう知らない!
「わかったわかった」
どうせ次の日には忘れて美味しい食べ物のことでも話しているのがオチなため、俺は無駄に頭を下げることはしない。
今日もいつも通り撮影が終わったため奏と一緒に帰ろうかと思ったが、突然知らない人に話しかけられた。
「ちょっと待って、前から思ってたけど、君結構良いカンジじゃない?」
話しかけてきたのはサングラスをかけた若い女性……よく見ると、この人はいつも奏の撮影の時に居る人だ。
いつも画角調整とか照明の当て方とかを注意していた気がする。
……奏のプロデュサーか?
「良いカンジって、何がですか?言っておきますけど、もし俺と奏が付き合ってるとかって思ってるならそれは完全な誤解なので、モデルの仕事に支障は無いと思います」
「うわ、堅〜!別に奏と付き合ってるって思って言ったんじゃないし、うち恋愛オッケーだから!」
若い女性プロデューサーさんは手でグッドマークを作っている。
「だからそんなのじゃ無いですって」
「そんな否定することも無くない……?」
さっき口を利かないと言っていたばかりだが、もうそのことを忘れたのか、奏は俺に話しかけてきた。
「こういうのはハッキリ本当のことを言った方が良いと思う」
「そういうことじゃなくて!バカ!」
「バカじゃない!」
「バカだからバカって言ってるの!」
「俺はバカじゃないからバカじゃないって言ってるんだ!」
「イチャつくのは良いけど私が話し終わった後にしてもらえる?」
プロデューサーさんにそう言われ、俺と奏は口を揃えて言った。
「イチャついてないです!」
「イチャついてないです!」
「あー、はいはい」
プロデューサーさんは少し呆れたような顔をすると、切り替えるように俺に向き直って話を続けた。
「君を良いカンジって言ったのは、見た目のこと」
「……見た目?」
「うちの女の子の照明担当とかの子達の間でもちょっと話題になってるよ?」
「っ……!」
プロデューサーさんがそう言い放った瞬間、奏は両手を震わし始めた……表情も少し動揺しているような表情だ、このプロデューサーさんが言ったことで、何か気に触ることでもあったのか?
だが、それも構わずにプロデューサーさんは話を続けた。
「高い身長に筋肉質すぎない体つき、整っている顔立ち……流石いつも奏ちゃんと一緒に居るだけあるわ、どう?良かったらあなたもモデルになってみない?」
「俺が、モデル……?話の流れが────」
「────ダメダメダメダメダメ!湊がモデルになるとかダメに決まってるでしょプロデューサー!」
奏はプロデューサーさんの目の前に立つと、大声でそれを否定した。
……もちろん俺もモデルになるつもりは無いが、どうして奏がそこまで否定するんだ?
「どうして?奏ちゃんも実際にモデル業してたらわかると思うけど、高校生としては膨大なお金が入ってくるでしょ?奏ちゃんの連れの彼もお金はもらえた方が良いと思うけど?」
「ダメです!湊がモデルになったりしたら絶対人気出ちゃうからダメ!」
「……え?人気になるとどうしてダメなんだ?」
仮にモデルになるとするなら、色々なリスクはあるにせよ人気が出るならそれは喜ばしいことのはずだ。
事実、奏が人気が出たことによって得た給料で好きな服とかを大量に買っているのを俺は知っている。
「それは……私湊に口利かないって言ったから教えてあ〜げない!」
「は!?さっきまであんなに話しかけてきてただろ!?」
「聞こえない聞こえない!とにかく湊がモデルになるとか絶対ダメだから!」
「……わかった、奏ちゃんがそこまで言うならこの話は保留にしとくね」
「保留じゃなくて白紙にしてください!」
「あはは、じゃあ気をつけてね〜」
プロデューサーさんは俺たちに手を振りながらどこかへと歩いて行ってしまった。
突然の話に少し動揺したが、とにかく。
「帰ろう」
「……うん」
帰り道を歩いている道中、奏はあからさまに暗い様子だった。
……すぐに怒ったり感情的になったりする奏だが、暗くなることは滅多に無い。
「奏が暗くなるなんて珍しいな、俺で良かったら相談に乗るから話してくれ」
俺がそう声を掛けると、奏はいつもに比べると小さな声で口を開いた。
「……モデル、なるの?」
「その話か、ならない」
「……今まで誤魔化してきたけど、湊がモデルになること想像して、私さっき胸が痛くなったよ、私、湊のこと────」
「誤魔化すって、何を?」
しまった……会話を被せてしまった。
「悪い、気にせず続けてく────」
「あー!もう本当バカ!バカバカ!バカ〜!知らないから!明日になっても謝らないなら口利いてあげないから!!もう知らない!!付いてこないでね!!……あと絶対モデルとかなったらダメだからね!!」
そう言いながら奏は家の方に早歩きして行った。
付いてくるなと言いながらも最後にはしっかりと自分の言いたいことを伝えてきたな。
「って、家隣なんだから付いて来るなって言われても無理だ!」
その後俺が奏に謝罪することで、なんとか仲直りすることができた。
……明日もまた奏の撮影会がある、その時にまた同じことを言われても返せる言葉を考えておかないといけないな。
◇
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