あの日願った翼

窓の外をぼんやりと眺めながら、あの日のことを思い出す。

目を覚ましたら部屋が真っ赤に染まっていた。視界をぼやかす黒い煙が苦しくて、肌を焦がす炎が苦しくてすぐに逃げることで頭がいっぱいになった。

口を押さえて這うように窓に向かった。扉はもう炎に飲まれていたのだ。

窓を開けて身を乗り出すが、下を見ると地面はいつもよりはるか遠くに感じた。しかし、躊躇っていると背中も、手をついてる窓のサッシもどんどん熱くなっていく。すぐにでも飛び出さなければならないと思った。だから私は、翼を願ったのだ。


「――さん、ご飯の時間ですよ」

振り向くと、看護師さんが食事を持ってきてくれていた。会釈すると、ニコリと笑って配膳してくれる。

「調子はどう?どこか痛いところとかはない?」

私は黙って首を振る。

「そう、よかった。それならもうすぐ退院できるね。2階から飛び降りて無傷だったのは本当に奇跡よ。一応検査入院してもらったけど特に異常は見つからなかったから、安心してね」

私が頷くと、看護師さんはまたニコリと笑って部屋から出て行った。


私は再び窓の外を見る。あの日の願いが聞き届けられたのか、私は窓から飛び出したにもかかわらず無傷で逃げ出すことができた。

目の前を鳩が空に飛びあがっていく。視線を空に向け、飛んでいる鳥をぼんやりと眺めながら私はベッドから降りて窓を開いた。


私は飛び降りるための翼を願ったけれど、正しい選択だったのだろうか。

本当はみんなのように、お母さんやお父さんやお姉ちゃんのように、天に向かうための翼を願うべきだったのではないだろうか。


視界が滲み、鳥の姿が見えなくなる。私は目を強くこすり、窓もカーテンも閉めて外に背を向けた。さっき看護師さんが持ってきてくれた食事が目に入る。私はベッドに戻り、手を合わせた。

「いただきます」

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