ふるさとの林で
十数年ぶりに故郷に帰ってきた私は、最低限の荷物を持って夕方の雑木林を散策していた。ザクザクという足音も、ふわりと甘いようなツンと来る香りも全てが懐かしい。景色だけ少し違和感があるのは、随分と目線が高くなったからだろう。
自然と口元を緩めながらちょうどいい木を探していると、ふと白いネットが目に入った。何はともなしに近づいてみると中にはスイカやらりんごやらが入っている。ネットは木に刺してあるネジに吊り下げられていた。
そういえば昔、私も友達と一緒に木にネジを刺して、りんごの入った袋を下げてオオクワガタを捕まえようとしていた。オオクワガタはきっと大きいから釘や画鋲じゃ足りないだろうと、無断で電動ドライバーを持ち出してネジを無理やり木にねじ込んだのだ。
そんなことを思い出していると、不意に涙が止まらなくなった。どうしてもあの頃の友達に一目だけでも会いたいという気持ちでいっぱいになった。とめどなく流れる涙をぬぐいながら、力の無い笑いが溢れる。私は持ってきた荷物をその場に放り投げて、彼らに連絡を取るために今来た道を引き返した。
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