死ぬまでには
とある片田舎の小さな屋敷の中で、僕は痩せたおじさんとテーブルを挟んで向かい合っていた。テーブルの上には蓋に時計がついている小箱がある。
「つまり、ぼくはこの箱の中身を確認すればいいのですか?」
「そうだ。もう気づいていると思うが、この箱に付いている時計は時刻を表していない。箱が開くまでのカウントダウンをしているだけだ。私は若い頃にカラクリ屋でこの箱を買ったのだが、最近病気を患ってしまってね。ずっと気になっていた箱の中身を見ることなくこの世を去ってしまいそうなのだ。せっかく長いカウントダウンが終わっても、誰にも箱の中身を確認されることがないのはこのカラクリに申し訳なくてね。もちろん私が確認できるのが一番いいが、できなかった場合でもせめて誰かに箱の中身を見て欲しいと思ったんだ。そうすれば私も箱も報われる気がする」
「わかりました。その時はしっかり中身を確認させていただきます。もちろん、箱が開くまで生きていてもらえるように少しはがんばりますけど」
「ありがとう。とても利発そうな少年だ。君を雇ってよかったよ。そうだ、君さえよければこの箱と中身もあげよう」
「いいんですか?」
「ああ、私はもう長くはないからな。中にどんなものが入ってたとしても先が短い私が持っているよりは君が持ってた方がいいだろう。もちろん、あまりにくだらないものなら捨ててもらってもかまわないよ」
「わかりました。是非頂戴させていただきます」
「ありがとう。だがなんだかこの箱にも愛着がわいてしまっていてね。今夜はこの箱と最後の夜を過ごしたい。明朝にでも君にあげよう。それでいいかい?」
「もちろんです」
明くる朝、僕はおじさんを起こすため部屋に向かったが、ノックしても中から返事がない。気配も感じないため不思議に思いながら部屋に入ると、テーブルの上に例の箱と置き手紙を見つけた。
『もうこの箱は君のものだ』
手紙を手に取り目を通した瞬間、突然悪寒が走った。何かに導かれるように箱を手に持ち、箱についた時計を見る。
昨夜よりも残り時間が長くなっていた。そのとき途端に僕は理解させられた。これは箱が開くまでのカウントダウンであり、持ち主であるぼく自身のいのちのカウントダウンでもある。そして箱が開くととんでもないことになるぞと、箱の中の存在が脳に直接恐怖を刻んできたからだ。
箱に精気をわずかずつ取られていることを感じながら、ぼくは急いで帰り支度を始める。
「急いで帰って、誰かにこの箱を押し付けなきゃ…」
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