知ってはいけない裏側の世界

日本某所の地下、とある工事現場で男は丁度一畳程度の大きさの一枚の板を眺めていた。手には真っ赤な旗と棒が4セット。忽然と現れたこの不審な板について現場監督に報告したところ、あとで対処するから目立つ印だけつけておくように頼まれたのだ。その際、板の近くではできるだけ物音を立てないよう、絶対に板を踏むことだけはないよう固く言いつけられた。


監督の顔があまりに迫真だったため、板の様子を伺いながら言いつけ通りそろりと棒を立て、旗をつけていく。4つ目の棒を立てたとき、男はふと板から微かな音がしているとに気がついた。注意を向けると確かにギシギシと音が鳴っている。やめた方がいいとは思いつつも、音の正体がどうしても気になり音を立てないようゆっくりと近づく。


ついに板まであと十数センチの距離まで近づいたところで、男ははたと気がついた。この板は畳の裏側であると。この音は畳の上を歩くときの足音であると。


数瞬の後、たった今直感した事実があまりに現実離れしていることに気が付き全身が総毛立つ。男は矢も盾もたまらず必死にその場から逃げ出した。慌てていたにもかかわらず、音をほとんど立てることはなかった。


その後、畳は入念に流し込まれたセメントによって完全に隠され、その現場は特に問題なく終わりを迎えた。しかし男は、それから何度も同じ夢を見るようになったという。どこかの地下で、目の前に泰然と存在している畳を見つめている夢だ。じっと見ていると、裏側になった畳はぬらりと向こう側に持ち上がり始める。そして何かが覗き込もうとする気配を感じる恐怖で、男は決まって目を覚ますのだ。

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