第28話 バイラクタル、ダウンッ! バイラクタル、ダウンッ!
――エル・シンドラー
「バイラクタル、ダウンッ! バイラクタル、ダウンッ!」
車内に反響するほどの声量でオペレーターが、無人航空機が撃墜された事実を報告してくる。
その言葉を聞いて、俺を含めたチームの全員が言葉を失い。
車内は緊張と静寂に包まれた。
「バイラクタルTB2は撃墜された。間違いないのか?」
俺は指揮官の義務を果たすために声を絞り出して報告内容を確認する。
「間違いありません。TB2の反応ロストです」
「ファックッ!! この基地に対空兵器配備されているなんてなんて話聞いていないぞ」
部下の一人が感情的に毒を吐く。
「大型のSAMや対空砲の可能性は低いです。それらの兵器が周辺に配備されていないのは別班の事前偵察で確認済みです」
「可能性があるとしたらジャベリン……いや、おそらく魔法だな」
ジャベリンはアメリカが開発した歩兵携帯型地対空ミサイルだ。
対空兵器としては世界最高水準の性能を有しているが、高価な兵器のため米軍でも一部の部隊にしか配備されていない。
そんな貴重な兵器が北海道の山奥に配備されているとはとても考えられない。
「異世界人は魔法でTB2を撃墜したって言うんですか!?」
「時速500キロで走って敵をぶん殴れる連中だ。TB2を撃墜できるマジックが使えても不思議じゃない。まあ、敵がどんな対空兵器を持っていようと今となっては関係ない。問題はTB2が撃墜されたことで俺達がメクラになっちまったことだ」
悲しいことに無人航空機に2機目は存在しないので、敵がどんな対空兵器を持っていようとこれ以上損害が出ることはない。
しかし、状況は苦しくなってしまった。
今までは無人航空機の赤外線センサーで敵の位置を確認し、敵の動きに合わせて子供兵に威嚇射撃をさせることで敵の足止めを行っていた。
それが出来なくなった以上、敵が引くのか突撃してくるのかの状況判断を、ガキ共の不確かな報告でやらなくてはならない。
「TB2が撃墜されたことはガキ共には黙っておけ。ちなみに、いま地上戦の戦況はどうなっている?」
「いまのところ、下山して来る敵兵2名の足止めには成功しているそうです。敵は銃を持っていないらしく威嚇射撃をしても応射はしてこないのですが、近接戦闘はかなり強く、先行偵察に出ていた№14が捕虜にされたという報告も入っています」
「幸か不幸か敵は積極的に攻勢に出るつもりはないようだな」
俺は現場を任された指揮官として、この戦場でどのように戦うのかを思案する。
俺達に与えられた任務は、HSSからオントネーに出向しているアイリス・オスカーの拉致。
他の人員については可能であれば捕獲、難しいようであれば殺害することが許可されている。
撃墜される直前まで無人航空機は、敵5名のうち3名が山頂に留まり、2名が下山して子供兵と交戦しているのをモニターしていた。
敵の狙いは非戦闘員であるアイリスの安全を確保するために下山した2名が突破口を開き、山頂にいる3名は前衛が作った突破口から脱出するつもりだと思っていたが、下山して来た2名は交戦が開始すると足を止め積極的な攻勢に出てこない。
このあまりに消極的な敵の動きを見るに、別の狙いがあると考えた方が良さそうだ。
「敵が数的不利を感じて足を止めているなら。ガキ共を突撃させて敵の前衛を突破できるのでは?」
部下が子供兵を突撃させて前線を制圧することを提案してくる。
もし敵が威嚇射撃を恐れて足を止めているなら突撃は有効だ。
魔法を使う超人と接近戦闘をすることになるので子供兵にかなりの犠牲が出るが、前線を制圧できれば山頂に待機しているアイリス・オスカーの確保という任務達成にグッと近づく。
「魔法使いは本当に威嚇射撃にビビッて足を止めていると思うか?」
別班がオントネー分室に所属する魔法使いを監視して得た情報で、敵兵は一秒足らずで時速100キロ以上に加速する人知を超えた運動能力の持ち主だと聞かされた。
そんなバケモノが威嚇射撃で足を止めるとは思えない。
「そうかッ! 子供兵の突撃は無しだ。あの二人は陽動だ。ちらちら目の前で動き回って俺達をこの場にクギ付けにして、その隙にアイリスを別ルートでゲートに運ぶつもりだ」
アイリス・オスカーと外2名が、無人航空機を撃墜するまで山頂で待機していた理由も説明がつく。
無人航空機にモニターされてる状態だと、どこに逃げても逃走経路が筒抜けになってしまうので撃墜するまで動きが取れなかったのだろう。
「Aチームに緊急入電。アイリス・オスカーはBチームの包囲を突破して、白藤の滝に向かったと伝えろ」
「いいんですか? Aチームの連中にイヤミ言われますよ」
「仕方ないだろ。TB2を堕とされた以上、ガキ共だけでアイリス・オスカーの確保は困難だ。ここは優秀な社員様に手柄を譲ることにしよう」
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