第19話 でも、やり方がズルいです。
――天原衛
立て続けに鳴り響いた政府高官からの呼び出しに対応するため、急遽テレビ会議が開かれることになった。
札幌にいるメンバーはこういう政府高官からの呼び出しに慣れているようで、5分とかからずテレビ会議システムのセッティングが完了する。
テレビ会議システムのスイッチをオンにすると大型モニターの画面が4分割されて、3人の政府高官の顔が映し出された。
1人目は、俺の知っている顔だ。
北海道警察本部の佐藤本部長。
オントネーにノウウジが居るとわかったときに、異世界生物対策課が使う重火器の使用に難色を示した人だ。
2人目は、警察庁の河口長官。
言わずと知れた日本の治安を守る警察組織のトップで、齋藤さんをスパイとして異世界生物対策課に送り込んだ黒幕の一人だ。
そして問題の3人目、防衛省統合幕僚本部の梓別班長。
米軍の手先となって異世界生物対策課の監視と情報収集をしていた、自衛隊の諜報組織別班のトップだ。
異世界生物対策課を取り巻く陰謀の黒幕が一同に会することになり、テレビ会議にも関わらず室内は重苦しい空気に包まれる。
「河口長官、お久しぶりです」
最初に口を開いたのは、佐藤本部長だった。
自分の上司である河口長官の姿を見て、テレビ画面に向かって敬礼する。
「佐藤本部長、あまり固くならないでください。今日、私はお詫びをするために連絡したんです。北海道で戦争同然の騒ぎを起こしてしまったことは私にも責任があります。佐藤本部長と、中島課長には大変なご迷惑をおかけすることになって本当に申しわけない」
「戦闘が人気のないところで起こったのが不幸中の幸いでした。自衛隊と環境省の特殊部隊が銃撃戦を繰り広げたなんてマスコミに嗅ぎつけられたら、日本中が針で突いたような騒ぎになってましたよ」
当事者になってしまうと感覚がマヒしてしまうが。
警察長官が出てきてテレビ画面越しに頭を下げている姿を見ると、俺達と別班との戦いが歴史に名を残す大事件だったことを実感して、背筋にブルブルと寒気が走る。
「ただ、私が言うのもなんだが齋藤君のことは責めないでやって欲しい。彼は今回、日本の治安を守るために最高の仕事をしてくれた」
「銃刀法違反と窃盗行為で武器を調達して、同僚を巻き込んで自衛隊と戦争するのが最高の仕事なんですか?」
由香は齋藤さんのやった犯罪行為を並べて警察長官に食ってっかかる。
「確かに法を逸脱した行為があったことは認めますが、米軍がオントネー分室を襲撃してアイリス女史やウルクから交換留学生として来日しているミ・ミカさん達が戦死すれば、国益の損失は計り知れません。警察庁としては、最悪の事態を避けるために超法規的措置もやむなしと判断しました」
河口長官がテレビ画面越しだが深々と頭を下げる。
警察長官が超法規的措置と言っている以上、齋藤さんが今回の事件で罪に問われることは無いのだろう。
「由香、許してやるのだ。警察と齋藤は、あくまで私達を守るために無茶をやったのだ」
「………わかりました。
でも、やり方がズルいです。
今回の作戦って警察は米軍や自衛隊と直接戦っても勝てないから、守るという名目で勝てそうな私達を舞台に引っ張り上げて、自衛隊別班と対決するように誘導したんですよねッ!」
ああ、そういうことか。
俺は由香の言葉を聞いて、ようやく俺は警察と齋藤さんの企みの真の目的を理解する。
「それを言われると耳が痛いです。でも、異世界生物対策課は私達の思惑通り自衛隊別班に勝った」
そう俺達は警察の思惑に乗せられて自衛隊別班と戦い、そして勝った。
こちらは負傷者0に対して、別班は18人の工作員を捕虜に取られている。
被害の度合いで考えたら異世界生物対策課の圧勝だ。
「それで、私達に喧嘩を売って大敗した別班さんは何のために連絡して来たんですか?」
由香が今まで沈黙を貫いていた梓別班長に話を振る。
正直、彼が何を言うのか全く予想がつかない。
自衛隊別班は、米軍から依頼を受けて異世界生物対策課を監視と情報収集を行い、米軍が近い将来オントネー分室を襲撃するために必要な情報を流していた敵だ。
「私が連絡したのは白旗を上げるためです。自衛隊別班は異世界生物対策課に対して無条件降伏を宣言します」
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