第17話 ライフルとサブマシンガンだけであれを突破するのは無理だぞ
――天原衛
「あれが本命だな。猟犬を追い払えなかったら危なかったな」
おそらく別班の作戦は、小型車2台で俺達を追い立て、停車が間に合わない状況を作ってトラックに突っ込ませるつもりだったのだろう。
そんなことをすれば俺達が拉致した自衛官も死んでしまうが、機密保持のためなら隊員の命は切り捨てるのが奴らの方針のようだ。
「しかし、どうする? ライフルとサブマシンガンだけであれを突破するのは無理だぞ」
別班は、大型トラックで道を封鎖するだけではなく大型トラックの前に2台ピックアップトラックを横付けして仮設の野戦陣地を構築していた。
ピックアップトラックの荷台には牙門の持っているライフルと同じ口径の弾をバラ撒ける重機関銃が据え付けられているので、このまま突っ込めば防弾装備があろうと蜂の巣にされる。
「ハイラックスの荷台にM60機関銃か、まるで中東のテロ組織みたいな装備だな」
「対策課だって同じことしてるじゃん」
ピックアップトラックの荷台に重火器を仮設して運用するのは、経費が安くつくし、武器を外して隠してしまえば市街地を普通に走れるので別班や異世界生物対策課みたいな存在がグレーな組織には使い勝手がいい。
「どうする引き返すか?」
「そんな事したらハイラックスに追い回されて後ろから撃たれますよ。敵が撃ってこないのは足を止めた俺達の行動を見極めるためでしょ」
彼我の距離が100メートル以上あって、機関銃の弾をバラまいても命中率が低いのも理由だと思うが、逃げるか、突っ込むか、降伏するか。
別班の連中は、俺達がどう動くか見極めてから攻撃すればいいと思っているのだろう。
「齋藤さんグレネードが欲しいです。グレネードがあれば、俺が突っ込んでM60を黙らせます」
仮設陣地を制圧出来れば、トラック動かす方法はいくらでもあるはずだ。
「グレネードはないが、火力が欲しいなら右手に置いてあるケースの中身を使え」
齋藤さんが指示した場所には、ビール瓶を収納するプラスチックケース置いてあり、中に革ひもを巻き付けたビール瓶が収納されていた。
「齋藤さん……もしかして、これ……」
「以前、凶悪なマモノを駆除するときに作ったものだ。たくさん作ったから在庫がけっこう余っているんだよ」
俺と牙門は、ビールケースを持って車を降りた。
おそらく、別班の連中は100メートル以上離れた場所に居る俺達が何をしようとしているのかよくわかっていないだろう。
「頼むぞ、この距離からストライク投げ込めるのはお前だけだ」
「まさか野球見に行った帰りに、こんな物騒なもん投げることになるとは夢にも思わなかったぜ」
牙門はビンの飲み口から垂れ下がるボロ布にライターで火をつけてから、革ひもを持ってビンをグルグルと回転させる。
こうやって遠心力を付けることで、重いビール瓶をより遠くまで投擲することが出来るようになる。
「食らえッ! 俺のソフトボール投げの記録は112メートルだッ!」
牙門は元エースピッチャーの名に恥じないキレイな投球フォームで火炎瓶を投擲した。
革ひもを使って得られた遠心力の助けもあって、火炎瓶はキレイな弧を描いて別班の作った野戦陣地に命中する。
パンッ!
さすがに距離が遠すぎてビンが割れる音は聞こえなかったが、機関銃を載せたピックアップトラックから紅蓮の炎が吹き上がるのはこの距離からでも見て取れた。
いま投げたのはビール瓶の中にナパーム材を入れたDIYナパーム弾。
元はシロクズシという凶悪なマモノを倒すために作ったもで、着火すればビンの中のナパーム材が燃え尽きるまで3000度の炎が周囲を焼き焦がす恐ろしい兵器だ。
「天原、次ッ! どうせなら、この場で全部使い切って証拠隠滅するぞ」
「応ッ!」
俺は先端にあるボロ布にライターで火をつけてから、2本目のナパーム弾を牙門に手渡す。
3本目、4本目、5本目――。
牙門の遠投の腕は素晴らしいもので、100メートル以上の距離があるにも関わらず敵の野戦陣地にDIYナパーム弾を次々と命中させた。
またたく間に周囲が紅蓮の炎に包まれてしまったため、別班の連中は応戦することさえできず全員炎を避けるために大型トラックの背後に避難していく。
おそらく別班の用意した車両は全て拳銃弾を軽く弾き返す防弾装備を備えていただろう。
しかし、どれほど強固な装甲で守りを固めようとも金属を使っている限り熱伝導を防ぐことは出来ない。
ボガーンッ!
爆発音は100メートル以上離れた俺達にも聞こえて来た。
ナパーム弾の炎が発する熱が車体のフレームを伝って燃料タンクに到達したのだ。
機関銃を載せていたピックアップトラックの燃料タンクが大爆発を起こし、巨大な車体が空中を舞ったあと真っ逆さまにひっくり返る。
「機関銃が沈黙した。なら、ここから先は俺の出番だ」
「天原、できるだけ別班の連中は殺さずに生かして捕らえてくれ」
「わかってますよ、人質は多い方が別班との交渉を有利に進められますからね」
俺は軽く屈伸をして手足の筋肉を伸ばしてから、崩壊した別班の野戦陣地に突撃した。
陣地への突撃は拍子抜けするほど簡単だった。
まず俺が近づいても銃弾が飛んで来ない。
牙門が投げ込んだナパーム弾の炎が大型トラックの前方で激しい炎を上げている。
ただ高熱の炎が燃えさかっているだけではなく、常人が近づけば一酸化炭素中毒で即死するような状況なので別班の連中は俺達の様子を見に行くことも出来ない。
ただし、ナパーム弾の炎に近づけば呼吸できなくなるのは俺も同じなので、肺一杯に空気を貯め込んで燃え盛る炎の中に飛び込む。
炎を超えてトラックの裏側に回り込むと、アサルトライフルを持った別班員達が逃げることも炎に近づくことも出来ずに呆然と立ち尽くしていた。
炎を超えて俺が姿を現したのを見て、別班員達の顔色が恐怖に染まる。
彼らは慌てて持っていたアサルトライフルを腰だめに構えようとするが……。
「もう遅い」
俺は手直にいる別班員の首筋を鷲づかみにして頸動脈を強く圧迫した。
アニメでは腹や後頭部を殴って人間を気絶させる描写をよく見かけるが、本来打撃で人を気絶させるのはとても難しいし力加減を誤って殺してしまう可能性もある。
重傷を負わせずに敵を無力化するのならクビを絞めて失神させるのが一番安全だ。
俺は右手で一人目のクビを絞めながら、間髪入れずに左手で二人目の首筋に手をかける。
頸動脈を強く圧迫されて呼吸困難に陥った別班員は俺の手をつかんで必死の抵抗を試みていたが十秒ほどで意識を失い手足がだらりと垂れ下がる。
「ふたつッ!」
敵を二人無力化したのを確認してから、俺は次なるターゲットに飛び掛かった。
格闘戦ができる距離まで近づいた時点で勝負は決した。
懐に飛び込まれたら、仲間を撃つ可能性があるので別班の連中は銃を撃つことができない。
ナイフを抜いて抵抗を試みる隊員も居たが、魔法で肉体を強化したマジンに普通の人間がナイフを突き立てるのは不可能だ。
俺は手当たり次第に別班員達のクビを絞めて気絶させ、気が付いた時には誰も立っていなかった。
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