第16話 銃は、グロック19にMP5、あとは豊和M1500か

――天原衛


 齋藤さんのワゴン車が走り始めて30分余り。

 車は北広島市の市街地を抜けて、道道341号線沿いの森林地帯を走り始める。

 道道341号線は真駒内御料札幌線とも呼ばれていて、札幌市と北広島市の間にある広大な森の中を貫くように敷設されている。

 この森に囲まれた道を30分ほど走れば基地のある駒岡にたどり着くのだが、仲間を拉致された別班がこんな絶好の襲撃ポイントを素通りさせてくれるとは思えない。

 俺は最も危険な30分が始まったことを意識して、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「別班の連中どう仕掛けてくるかな?」

「わからん。ただ、別班は自衛隊の諜報部隊だからな、森の中から戦闘ヘリが出てきてロケット弾撃ってくることもありえるぞ」

「それやられたら、さすがに死ぬな」


 森の中に隠したヘリからロケット弾や対地ミサイルで攻撃されたらさすがに防ぎようがない。


「いくら別班でも、防衛装備品をいきなり持ち出すのは無理だと思いたいな」


 一番可能性が高いのは、一般車両に防弾装備を施した改造車を使った襲撃だろう。

 俺と牙門は、シートには座らず後部座席を取り外して拡張した収納スペースの床に直接座り、齋藤さんが用意してくれた武器の品定めをする。


「銃は、グロック19にMP5、あとは豊和M1500か」

「SAT仕様の装備だな。俺は豊和のライフルを使う。天原はどうする?」

「MP5かな、俺の腕じゃ狙って当てるのは無理だし」


 俺がサブマシンガンで弾をバラまいて敵の頭を下げさせたところで、牙門がライフルで敵車両のフロントガラスを狙撃する。

 教科書通りのフォーメーションだが、基本と呼ばれる戦術は、効率がいい戦術だと世間に認められていることを意味する。

 それから数分後。

 俺達の後方から、グレーと黄色の小型車が2台、猛スピードでこちらに近づいてくるのが見えた。

 

「齋藤さん、後方からスイフトが2台こっちに突っ込んでくる。別班かもしれないッ!?」

「追い抜き狙いじゃない。あいつら左右に広がって俺達を挟みこもうとしてるぞ」


 牙門が車の挙動を見て後ろから迫って来る車が追い抜き狙いの一般車ではなく、俺達を襲撃に来た別班の車両であることに気づく。


「相手はスイフトか、この車じゃ振り切れないな。悪いけど、二人共応戦頼むッ!」


 齋藤さんがそう言うのとほぼ同時に、小型車のフロントガラスが開きニョキンとサブマシンガンの銃口が顔を覗かせる。


 ダッダッダッダッダッダッダッダッダッ!


 サブマシンガンに装填された拳銃弾が俺達の乗るワゴン車の車体を激しく叩く。

 幸いなことに、敵が放った銃弾はワゴン車の車体に阻まれ車内に飛び込んでくることはなかった。


「ハハハッ! 安心しろ、この車は車体もガラスも防弾仕様だ」

「それを聞いて安心しましたッ!」


 とはいえ無抵抗で撃たれ続けるわけにはいかないので、俺もリアウインドを半開きにしてサブマシンガンの銃口を敵の車両に向ける。


 ダッダッダッダッダッダッダッダッダッ!


 バラまいた銃弾は何発か敵の小型車に命中したが、命中弾は全て車体とフロントガラスに弾かれてしまった。


「齋藤さん、敵の車も防弾装備です。9パラだと防弾ガラスが抜けません」

「条件はこっちと同じか。天原、無駄でもいいからとにかく弾をバラまいて敵を牽制してくれ」


 齋藤さんの指示に従って俺はリアウインドから銃口を出して弾をバラまく。

 例え車体にダメージが与えられなくても、こちらが応射すれば敵は弾を避けるために頭を引っ込めるので全く無意味なわけじゃない。


「天原、一斉射したら俺に変われ。俺の武器なら防弾装備があってもなんとかなる」


 牙門の武器はボルトアクション式のライフル。

 一発撃つ毎にボルトを引いて弾を装填しなくてはならないが、一発の威力はサブマシンガンとは比べ物にならない。

 俺はサブマシンガンのマガジンが尽きるまで弾をバラまいてから身をかがめて、牙門に射撃位置を明け渡す。


 ズドンッ!


 狙撃銃が火を噴いた直後、ボフッ!と鈍い音を立てて黄色い小型車の前輪タイヤがバーストした。

 突然タイヤを失ったことで黄色い小型車はガクンと前方に傾き、クルクルと駒の様に回転しながら右側の森に飛び込んでいく。


「よっしゃあッ!」


 タイヤを撃ち抜き、敵車両を一台沈黙させた牙門が歓声をあげる。

 もう一台のグレーの小型車もスピードを落とし、彼我の距離は急速に広がっていく。

 仲間を救出するためか、牙門の狙撃を警戒したのか、どちらにせよ攻撃を諦めてくれたみたいだ。


「タイヤを一発で撃ち抜くなんてさすがだな」

「運が良かったです。さすがにあの状況で確実に命中させる自信はないですよ」


 そんな話をした直後、齋藤さんが急ブレーキをかけて車を止めた。

 急ブレーキ―の勢いで俺と牙門は立っていられず、鉄板の床に倒れ込む。


「どうしたんですか、いきなり!?」

「すまん……だが、ちょっと先に進める状況じゃなくてな」


 立ち上がって前を見ると、100メートル以上先で横付けに停車した大型トラックが道路を封鎖していた。

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