第71話 こんな大規模な魔法使ってるのに≪天眼≫が役に立たないのが悔しいですね
――ミ・カミ
シロクズシ駆除作戦5日目。
2日目以降、守りを主体としたフォーメーションのおかげで負傷者も減り、ゆっくりとであるが確実にシロクズシの駆除は進んでいる。
そして今日から、新しい作戦を試すことになった。
きっかけは、3日目に来た伊藤君が撮影してくれた戦闘時の映像記録だった。
戦いの様子を後から映像で確認していた私はある事に気が付いた。
『ねえ、最初に投げてるナパーム弾って、全員が一斉に投げる必要無いんじゃない?』
初日の失敗を教訓にして細かい人員配置の変更は行ったものの、シロクズシ駆除作戦の基本戦術は変わっていない。
①ナパーム弾を投げて攻撃地点のつる草を事前に焼き払う。
②近接攻撃の際に大きな脅威となる土魔法≪ドロバクダン≫を消火作業に使わせて、各部隊の脅威を最小限に減らすと同時にシロクズシのエネルギーと魔力を消耗させる。
③シロクズシがナパーム弾の火を8割~9割消火したところを見計らって近接攻撃を仕掛けて、エネルギーの貯蔵庫兼つる草の司令塔となる地下根を掘り出して焼却処分する。
私が動画を見て感じたのは、一度に50本のナパーム弾を投げ込むより。
半分の25本を先に投下して消火作業をさせて、再度ナパーム弾を投下した方がより延焼範囲の拡大と消火にかかる時間を延ばせるのではないかという思い付きだ。
そのことをアイリスに話してみたら、面白いアイディアだと言われ彼女は即決で採用を決定した。
ピュルルルルル!
ハ・ルオの放つカブラ矢の音色が攻撃開始を告げてくれる。
それに合わせて、ナパーム弾を投下。
ただし、ナパーム弾を投げるの半数の25本だ。
『ナパーム弾、弾着。つる草の炎上はじまりました』
『見た感じ、炎の勢いは全弾投下したときの7割くらいに見えるわね』
『伊藤君が提案した、整列しての投下も効果がありましたね』
いままでは、各部隊の隊員達が思い思いの場所からナパーム弾を投下していたが、外交官の伊藤君が撮影した映像を見てナパーム材の散布会を広くするために全員が一列に整列して投げた方がいいんじゃないかという意見出た。
大して手間のかかる変更ではなかったし、一度に投げる人数が25人に減って整列も楽になったのでその意見も採用されることになった。
『ドロバクダン来ました。消火始まります』
地面がゴゴゴゴッ!と鳴動したしたあと、泥の雨が降り注ぎ炎のカーテンと呼べるほどに燃え盛っていたナパーム弾の炎が消し止められていく。
ドロバクダンはシロクズシも魔力とエネルギーの消費が激しいらしく、一度使わせてしまうと近接攻撃を行って間はほとんど使ってこない。
あの泥の雨が、近接攻撃を行っている部隊の上に降り注いだら、部隊が全滅しかねないので、もし日本政府がナパーム弾を提供してくれなかったらシロクズシ駆除作戦は実行不可能だった。
『ハ・ルオ、ナパーム弾、第2射投擲合図』
『はいッ!』
ピュルルルルル!
火が八割方消火されたのを見計らって、ハ・ルオが再びカブラ矢を空に放つ。
カブラ矢の合図を聞いて整列していた後続の25人が、ナパーム弾をシロクズシに投げつけた。
ドロバクダンによって消化されたつる草にナパーム材が降りかかり、再び目の前に紅蓮のカーテンが出来上がる。
『第2射弾着、炎上始まりました』
『炎の勢いは第1射目とほとんど変わりませんね。ミ・カミ様のアイディア大成功ですね』
『いくら泥の雨を降らせようと、燃えるモノはほぼ無限にあるからね』
近接攻撃時には厄介極まりない、無数のつる草だがナパーム弾を投げ込んだ時にはこれ以上ない燃料になる。
どれだけ泥を被せようとつる草を全て覆いつくすことなんて出来ないし、一度火が付けばナパーム弾の炎は燃料が尽きるまで燃え続ける。
自身の身体に火の手が上がったことを察したシロクズシがドロバクダンを使うためにゴゴゴゴッ!と鳴動し、土魔法≪ドロバクダン≫が発動する。
『こんな大規模な魔法使ってるのに≪天眼≫が役に立たないのが悔しいですね』
ハ・ルオは奥歯を噛みしめ悔しそうにつぶやく。
マモノ、マジン、魔導具使い、種別を問わず全ての魔法使いは自身の肉体を強化する魔法を使うことが出来る。
天眼は、そんな肉体を強化する魔法の一種で、自分の体内を循環する魔力の流れを感じる感覚、霊感を強化して他者が魔法を使うときの魔力の流れを感じ取れるようにする魔法だ。
使いこなせれば有効性は非常に高く、自分が対峙する敵が魔法を使うのを事前に察知する、マモノが魔法を使ったときに魔力器官の位置を特定する、といったことが出来るようになる。
ハ・ルオは天眼で魔力器官の場所を特定することが出来れば一撃で勝負を決められると思ったのだろうし、実現すればその考えはおそらく正しい。
『実は私、天眼使ってシロクズシの魔力の流れ探ってたんだけど魔力が流れてる範囲が広大過ぎて、魔力器官の特定はちょっと無理ね』
シロクズシは自分に繋がる全ての根から少しずつ魔力を集めて魔法を使っている。
この5日間で多少は生息域を削ったとはいえ、まだまだ魔力を供給する根の数が大きすぎて魔力が収束する魔力器官の位置を捉えられない。
『ハ・ルオ。第一部隊に突撃合図』
『はいッ!』
ピュルルルルル! ピュルルルルル!
ハ・ルオは、アイリスさんの指示に素早く反応して2本のカブラ矢を立て続けに空に放つ。
『うおおおおおおッ!』
ナパーム弾の使い方を工夫することで昨日より明らかに多くのつる草を焼き払ったのを目の当たりにした第1部隊のマモノハンター達は、意気揚々とシロクズシに向けて突撃していく。
『いま、面白い話を聞いたんですが天眼という魔法を使えば、シロクズシの魔力器官の位置を特定できるんですか?』
私とハ・ルオの会話を聞いていたアイリスさんが天眼の魔法について質問してくる。
『可能性があるってだけよ。ドロバクダンを使うときに、根っこから吸い出された魔力が収束する場所があって、そこがシロクズシの魔力器官よ』
シロクズシがどれほど広大な生息域を持っていても魔力器官は一つだ。
それを身体から引きはがせばシロクズシの活動は停止する。
『でも、今のところは魔力を供給する根っこの数が多すぎて魔力の収束点を特定できないの』
『なるほど、あくまで今はまだ特定できないんですね。なら、これまで通りシロクズシの生息域を削っていきましょう。それに、意外と早く勝負をかけるときは来るかもしれませんよ。今の攻撃でナパーム弾の燃焼時間は8分、しかもドロバクダンを2回使わせることに成功しました。このコスト、シロクズシにとっても決して軽くは無いと思うんですよ』
アイリスさんは、作戦が上手く行ったことを手放しに喜ぶのではなく、今回の攻撃でシロクズシがどのくらい魔力とエネルギーを消耗したのかを冷静に計算している。
ウルクの命運を託して指揮官に任命したのは私だが、彼女は恐ろしいくらいに優秀だ。
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