第62話 ミ・カミ様、この人は日本の外務大臣です。

――天原衛


 ブーッ! ブーッ!

 俺のスマホが激しく振動し電話の着信を伝えてくる。


「衛、多分由香から電話なのだ。無視すると後が怖いから話聞いておいた方がいいのだ」

「ですよねえ」


 カゲトラにうながされ、俺はイヤイヤ通話ボタンをタップする。


「まーもーるーさーんッ!! いま、そこにウルクの国家元首であるガーディアンが来てるって聞きましたけど、どういうことなんですかッ!? あなたも何年も社会人やってるなら“ほうれんそう”くらい知ってるでしょッ! なんで私に無断で勝手なことするんですか」


 予想通り、電話の主は由香だった。

 ミ・カミ様を無断でオントネーに連れて来たことについて非常にご立腹らしく、電話口で激しい口調でまくしたてる。


「アイリスを作戦指揮官に据えるにあたって、外部から妨害が来るのを避けるためだよ。シロクズシ駆除作戦の指揮官にアイリスを推薦するっていったら外務省から絶対にダメだって文句が来るだろ」

「当り前ですッ! アイリスさんは、民間人でしかもアメリカから出向して来ているゲストですよ。軍事作戦の指揮官なんてやらせたら外交問題になります」

「残念でした。ミ・カミ様が指揮官への就任要請出して、アイリスが了承したから、もう日本政府から圧力かけて断らせるのは無理だぜ」

「なっ!? アイリスさん指揮官への就任要請、了承したんですか」

「ああ、了承したぜ。だいたい由香だってわかってるだろ、シロクズシ駆除作戦の作戦の指揮官として能力的に最も適任なのはアイリスだって」

「それは……そうですが……」


 アイリスと共同で作戦計画を作っている由香なら、彼女の計画立案能力の高さは身に染みて知っているだろう。

 能力的には最高。

 ただし、政治的な理由で戦場に連れていくのは大きな問題があるのがアイリスの立ち位置だ。


「あの、天原さん。よかったら、テレビ会議を繋いでくれませんか。いま、外務省から直接話がしたいって環境省にオニ電がかかってるらしくて」

「直接話って外務省の抗議声明をミ・カミ様に聞かせてもいいんですか」


 初対面の国家元首に暴言吐いたらそれこそ外交問題になると思うのは、勘違いではないだろう。


「さすがに、ミ・カミ様相手に直接抗議声明は出さないと思いますが」


 まあ、外務省の誰が文句を言っているのか俺も興味があったので、皆に事情を話してテレビ会議システムを起動させることにする。

 テレビ会議システムを繋ぐと、画面が4分割され疲れた顔を環境大臣ともう一人、外務次官とは別人の初老の男性の顔が映し出された。

 なんか見覚えのある人だ。

 名前は思い出せないが、この初老の男性、どこかで見かけた記憶がある。


「みんな久しぶり。シロクズシを倒すために頑張ってるのは判るけど、地球には外交儀礼ってものがあるんだから無茶しないでくれよ。あまりに問題行動が多いと僕も君達を守れなくなっちゃうからさ」


 環境大臣は苦笑いをうかべながら注意の言葉を述べる。

 おそらく、外務省から環境省に相当激しいクレームがあったのだろう。


「ぼけっとしてないで、みんな挨拶ッ!」

「はじめまして、ニビル調査隊に参加している牙門十字です」

「同じく、天原衛です」

「私も調査隊に参加してる天原恵子です」


 由香にうながされて、公僕である俺達は初老の男性に自己紹介をする。


「初めまして、私は外務大臣の岸本です」


 ぶはあッ!

 俺は思わず奇声をあげそうになるのを必死にこらえた。

 恵子や牙門も驚いたらしく、目が完全に泳いでいる。

 国家元首を連れてきたら由香が怒るだろうなあとは思っていたが、外務大臣なんて政府内の超大物が出てくるのはさすがに予想外の事態だ。


「そちらに、ウルクという国の国家元首が来ていると聞いているのだが間違いないのかね」

「はい、こちらに座っている方がウルクの国家元首のガーディアン・ミ・カミです。ウルクでは、国の最高指導者のことをガーディアンと呼んでいます。ミ・カミ様は日本語がわからないので、ミ・カミ様に話があれば私が通訳します」


 恵子が、コタツに座っているミ・カミ様を外務大臣に紹介する。


「では、お願いします。はじめまして、私は日本の外務大臣です。今回、ウルクのガーディアンであるミ・カミ様の来日に私達は大変驚いているのですが、今回の来日の目的を良かったら教えて頂けませんか?」


 外務大臣もさすがに他国の国家元首には暴言を吐けないらしく、数々の問題行動には触れずに落ち着いた口調で質問する。


『ミ・カミ様、この人は日本の外務大臣です。外務大臣というのは日本が外国と約束事を決めるときの責任者です。あと、質問を受けていてミ・カミ様が今回日本に来日した理由を聞かれています』

『外務大臣ねえ。地球ではいちいち他国と約束事を決める風習があるの?』

『地球では、世界的に他国との交流を積極的に行っているので、細かく約束事を決めておかないと争いの原因になるんです』

『理解できないわね、争いになるのが嫌なら他国と交流しなきゃいいのに。まあいいわ、私の目的はアイリスさんにシロクズシ駆除作戦の指揮官に就任することをお願いするためよ』


 恵子はミ・カミ様の言った言葉を翻訳し外務大臣に伝える。


「ガーディアン・ミ・カミの来日目的は、ここにいるアイリス・オスカーにシロクズシ駆除作戦の指揮官就任を打診するためです」


 恵子の回答を聞いた外務大臣は露骨に眉をひそめた。


「私もウルクはシロクズシと呼ばれる強力なマモノの脅威にさらされているというお話は聞いています。シロクズシを駆除するために軍事行動を起こすのは致し方ないと思いますが、民間人であるアイリス氏を戦場に連れて行くのは辞めていただきたい」


 外務大臣もアイリスの指揮官就任には反対のようだ。

 まあ、日本政府は金と物の支援はするが人は出さないというスタンスだし、民間人を戦場に行かせるなんてありえないという地球の常識で考えているので、この反応は仕方ない。

 恵子が、外務大臣の言葉をミ・カミ様に伝えると、今度はミ・カミ様が露骨に不機嫌そうな顔になる。


『こいつ何様なの? もう決まったことなのに、横からゴチャゴチャ文句言ってくるなんてバカなの? 恵子、文句があるならシロクズシと戦ってから言えって伝えてちょうだい』

『いや、それはちょっと……』


 恵子がすごく困った顔をする。

 おそらくミ・カミ様がとても外務大臣に聞かせられないような発言をしたのだろう。

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