第56話 それだけの数を集めるとなるとハンター協会だけじゃ無理じゃな。

――天原恵子


 三日後、私達は無事ウルクにたどり着いた。

 フィールドワークの経験が全くない伊藤さんを連れての道中だったので、彼のサポートをするために当初の予定よりかなり遅れての到着となってしまったが、全員怪我無くたどり着いたので結果オーライだ。


「ヨ・タロさんの同族がたくさんいる!?」


 伊藤さんは、ウルクの街並みを見て驚きの表情を浮かべていた。

 ムリもない、街中を歩くウルディン、露店で物を売るウルディン、リアカーを引くウルディン、竜車の御者をするウルディン。

 そんな感じで、ホモサピエンスと同じように行動するウルディン達の姿は地球人が見ると衝撃的な光景なんだと思う。


「ここはウルディンの居住区だからね。対岸にあるクサリクの居住区には私達と同じホモサピエンスがたくさん住んでるわよ」


 人と同じように生活するウルディンの姿に驚いている伊藤さんに、ウルクの人口分布について説明する。


「同じ国の国民なのに、居住区を分けているなんて少し不思議ですね。ウルディンとクサリクは実は仲が悪いんですか?」


 伊藤さんは外交官らしい視点で、ウルクの内情について質問してくる。


「仲が悪いわけじゃないんだけど……喧嘩をしないように居住区をはっきり分けている感じかな。

 クサリクとウルディンって、身体の作りも生活様式も全然違うから一緒に暮らすと価値観の違いから喧嘩になりやすいのよ。

 だから、ハッキリ居住区を区切って相手のイヤなところを見ないようにしてるの。

 ただ、中央島の方ではクサリクとウルディンが一緒に暮らしてるわよ。

 良くも悪くも価値観の違いが気にならない人だけが中央島に住んでる感じかな」


 中央島に住んでるのはマモノハンター、公務員、そして工業製品を作る技術者が大半だ。

 形はちがえど、中央島に住む人はクサリクとウルディンの両方を相手に仕事をする必要があるので細かい価値観の違いを気にしない人が多い。


「とりあえずハンター協会に行きましょう。シロクズシを見つけたことをマスターに報告しなきゃいけないからね」


 私達がハンター協会の扉をくぐると、マスター・ヨ・コタは「わんわん」と大声で叫びながら私の足元に駆け付けてスカートの裾に噛みついて来た。


『すいませんマスター。ご心配おかけしました』


 マスター・ヨ・コタは私達の帰還を心の底から喜んでいるのわかる。

 まあ、帰りの日程が予定より3日も遅れたら、遭難したとか、マモノに殺されたとか思われても仕方ないだろう。


「なにがあったんだ? 帰りがあまりに遅いから今からお前達を探しに行こうと思ってたところなんだぞ」


 そう言ってきたのは、ハンター協会のカウンターに腰かけていた牙門さんだった。

 牙門さんの隣には、ハ・マナとハ・ルオ姉妹もいて私達の帰りが遅いので3人で探しに行く相談をしていたらしい。

 まずは、牙門さんとマスター・ヨ・コタに、私達の身になにが起こったのか説明する必要があるだろう。


『私達、シロクズシを見つけたの』


 その場にいる全員にわかるように私は黒板にそう書マスター・ヨ・コタに差し出した。

 黒板に書かれたシロクズシの名を目にして、その場にいる全員が目をまん丸にして口をつぐんだ。


 それから私は、私達がシロクズシとサクラノオキナに遭遇したこと、遭難を避けるために地球に避難したこと、日本政府からシロクズシを倒すための協力を取り付けたことを、牙門やマスター・ヨ・コタに説明した。


『あの、頭のいいお嬢さんが居ない理由はシロクズシを倒す準備をするためか。ここは、素直に礼を言っておこう』


 マスター・ヨ・コタは、私の手の甲に自分の掌を乗せて感謝の意を示す。


「しかし、シロクズシといったか。数百の国を滅ぼしたって伝説はおっかないが、放置すると一体何が起こるんだ?」

「このままシロクズシの生息範囲が広がると、ウルク周辺の耕作地も集落も建造物もシロクズシに破壊されてシロクズシ以外の動物も植物も生存を許されない『シロクズシの荒野』に変わるわね」

「なんだそれ!? 都市一つまるごと破壊した上で継続的に人が立ち入れない状況になるなんてまるで核兵器じゃないか!?」


 確かに広大な範囲を破壊したうえで、継続的に人が立ち入れない状況を作り出すという点で、シロクズシの害は核兵器に似ているかもしれない。


「だから、私達は絶対にシロクズシを駆除しなくてはならない。アイリスさんは、ナパーム弾を使ってつる草を焼き払うって豪語して、いまオントネーでその準備をしてるわ」

「ナパーム弾だとッ!? あの女、常識人ぶってたのに恐ろしいこと考えるな」

「正直、私もビックリしたわよ。でも、おかげでシロクズシを駆除作戦に光が見えたのも事実なのよね」


 私は、マスター・ヨ・コタにアイリスさんが発案したシロクズシ駆除作戦の概要を説明する。


『シロクズシと戦うマモノハンターに配る食料も、攻撃するための武器もくれるっていうなら、本当にありがたい話だ。ただし、シロクズシと戦う人員はこちらで頭数を集める必要があるってことじゃな』

『日本のスタンスはあくまで支援だからね。シロクズシの脅威が迫っているのはウルクだから、直接戦うのはあくまでウルクの国民がやらなきゃいけないわ』


 物と金は出すけど、人は出さない。

 地球における国際支援のスタンダードなやり方だ。


『シロクズシ駆除作戦に必要なマモノハンターの数は最低でも100人。簡単に集められる数じゃないと思うけど、ウルクの存亡がかかっているから』

『それだけの数を集めるとなるとハンター協会だけじゃ無理じゃな。ガーディアンに動員令を出してもらう必要がある』


 マスター・ヨ・コタが黒板に書いたのは私が想像を超えたアイディアだった。


『動員令ってそれじゃもう戦争じゃない』

『戦争だよ。お前さんが提案してるのは、ウルクとシロクズシどちらが生き残るかをかけた戦争なんじゃよ』

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