第52話 この方は外務省事務次官の下川さんだ
――天原衛
家に帰ってきて、人心地ついたタイミングで俺のスマホにピコーンピコーンと着信を知らせるメッセージが鳴り響いた。
電話をかけてきたのは、中島由香。
俺のやらかした無茶苦茶な行為について文句の一つも言いたいのだろう。
電話に出ると。
「この部屋に置いたテレビ会議システムを起動させてください。今すぐ、30秒以内にッ!!」
由香は、ものすごい剣幕でこの家の居間に配置したテレビ会議システムを起動させるように命令してくる。
テレビ会議システムは、異世界生物及びゲート監視部隊の立ち上げに当たって、札幌にある異世界生物対策課や、霞が関にある環境省と直接話をする必要があると見越して、カゲトラがぶっ壊した家の天井と床を修理するときに一緒に持ち込まれたものだ。
内容は、50インチの大型モニターとスピーカーとマイク、ハイスペックのタワー型パソコンのセットで、普段はもっぱら恵子がアニメや映画を見るために使われている。
しかし、由香の命令で今回初めて真の目的のために使われることになった。
「30秒って慌ただしいですね。俺、セットしたことないんだけど。悪い、恵子、前川さん悪いけどテレビ会議システムの立ち上げ手伝ってくれ」
俺は一応スマホを持っているが、メールと電話しか使用しないアナログ人間なのでパソコンの使い方がよくわからない。
けっきょく、パソコンの扱いに比較的慣れている恵子と前川さんに会議システムの立ち上げをお願いすることになった。
「遅いッ! システムの立ち上げに5分以上かかるってどういうことですか」
テレビ会議システムを立ち上げた途端、50インチモニターに憤怒の形相を浮かべた由香の顔がデカデカと映し出され、俺達はスピーカー越しに怒鳴られることになった。
「中島課長、怒るのは仕方ないけど怒鳴るのはヤメてください。強い言葉で罵倒するとパワハラで訴えられます」
直後に画面が2分割されて、見知った顔、環境大臣の姿が映し出される、
「すいません。大臣も時間が無いのにお待たせしてしまって」
「私はいいですよ。ニビル調査隊は、私の発案で始めたプロジェクトだからね。責任者を出せって話になったら私が謝るのが筋ですよ」
正直、大臣が出てくることになるとは意外だった。
「俺達、現地で遭難しかかって緊急避難ために帰ってきただけなんだけど、これって大臣が出てくるほどの大事なんですか?」
「いやあ、君たちが一時的に帰って来るだけなら環境省内だけの話だから、無事に帰ってきて良かったで済む話なんだけど、ニビル人を地球に連れて来たってのは、ちょっとねえ……」
大臣が奥歯になにか挟まったような物言いをしていると、今度はさらに画面が4分割されて俺の知らない人物が登場した。
「これで全員揃ったようですね」
画面に映ったのは、大臣よりも遥かに年上の初老の人物だった。
「紹介するよ。この方は外務省事務次官の下川さんだ」
「がッ!?」
突然現れたビッグネームの存在に俺は思わず言葉を失った。
「このオジサン偉い人なの?」
恵子は突然現れた見知らぬ人物の登場にキョトンとした表情を浮かべている。
「外務省の官僚で一番偉い人だよ」
「えっ、マジ!?」
さすがの恵子も目の前の人物が、外務官僚のトップと聞いて驚きを隠せない。
「俺達が、ミ・ミカを日本に連れて来たってそんな大事なんですか? 日本に帰ってきたのは遭難を避けるために緊急避難だし、水や食料の補給が終わったらすぐにニビルに戻るつもりなんですが?」
外務省はその名の通り日本と外国、国同士でどのように関係を結んでいくかを見定め調整するのが仕事だ。
あと、外不法入国者がいたらそれを追い返すのも仕事なのだが、ミ・ミカとヨ・タロは長くても明日にはニビルに帰るので問題になるとは思えない。
「私達が問題視してるのは、閣議決定で日本政府が正式に派遣したニビル調査隊が政府に無断で異世界ニビルに存在する国家に入国して外国人と行動を共にしていることだよ。君たちの勝手な行動が原因で、そのウルクって国と日本が国交を結ぶことが難しくなったらそれこそ大問題だからね」
どうやら、事務次官のオッサンは俺達が外国との接触という外務省のナワバリを荒らしたからあわてて怒鳴り込んできたようだ。
「それについては僕に方から謝罪します。ニビル調査隊がどれだけの現地調査が行えるのか未知数だったので、現地人に接触してはいけないという禁止事項は特に設けていなかったんです」
どうやら、俺達が都市国家ウルクまで辿り着いて、現地人と交流を持つまで調査が進むとは政府の偉い人は想像していなかったらしい。
「とりあえず、衛さん達は事務次官が想像するトラブルは起こしていませんよ。私達は、ウルクに住む人たちと極めて友好的に接触しています。私がアメリカに送る予定の報告書を日本政府にも共有するので詳細はそれで確認してください」
「あなたがそこまで言うなら問題は起こしていないと信じましょう」
部下である日本人ではなく、アメリカ人に言われて納得する辺り事務次官も典型的な日本人と同じ感性の持ち主のようだ。
「ところで、天原君が連れて来たという外国人2名はどこにいるんですか?」
「ずっとカメラに映っていますよ。ここにいる女性が、ミ・ミカ。そして彼がウルディンのヨ・タロです」
下半身をコタツに入れて寛いでいるヨ・タロを指差すと、事務次官の表情が露骨に変わった。
奇声をあげなかった自制心は大したものだと思う。
「その……お嬢さんはわかるのですが、そちらに居る犬のように見える方も外国人なんですか?」
「そうです。彼はニビルでウルディンと呼ばれていて、見た目は犬のように見えますがホモサピエンスと同等の知能を持つ知的生命体です」
「う、ウルディンですか……ニビルにはホモサピエンス以外の知的生命体が存在すると聞いていましたが、そういう人達とも交流を持つ必要が出てくるわけですね」
ウルクと国交を持つなら当然、ウルディンの存在を無視するわけにはいかない。
事務次官は、ジッとヨ・タロのことを凝視している。
おそらく、彼らを人類とみなし付き合っていけるかどうか考えを巡らせているのだろう。
「ところで、日本政府がウルクと国交を持ちたいと考えているなら、現在ウルクで発生している大きな問題を解決する手伝いをすると心証が良くなると思いませんか?」
「確かにウルクの国民が日本にいい印象を持っているに越したことはありませんね。なにか問題があるなら出来る範囲でお手伝いしますよ」
事務次官がそう言うと、アイリスはニンマリと笑みを浮かべた。
「ウルクで起きてる大きな問題って、まさかシロクズシの駆除を手伝ってもらうの?」
「はい、シロクズシを倒すために必要な物資の提供をお願いしたいと思います」
「ちょっと、待ってくださいッ!! 衛さん達、シロクズシを発見したんですか?」
シロクズシの名が出た途端、由香が議論に待ったをかける。
彼女も、数百の国を滅ぼしたと呼ばれる最悪のマモノのことは知っていたようだ。
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