第49話 地球に戻るって、どういうことよッ!?
――ミ・ミカ
『このまま何事もなく帰れますかね』
『ちょっと、大丈夫じゃないかも』
サクラノオキナと別れ、シロクズシの情報を持ち帰るために私達はウルクへ帰ることにしたのだが、その帰路は容易なものではなかった。
一番の問題は、シロクズシから逃げるときに食料や水を含む魔道具以外の装備を放棄してしまったことだ。
衛さんに至っては、装備どころか服まで放棄してしまった。
辛うじてアイリスさんが持っていたタオルで股間だけは隠してもらったが、裸のまま森を三日間歩き続けるのは例えマジンでも簡単なことではない。
「マモちゃん。服が無いのは仕方ないとして、別のマモノに変身してやり過ごすこととか出来ないの?」
「無理。変身するために必要なマモノの肉も全部捨てて逃げちまったからな」
「もう、役に立たないわねええ。少しは後先のこと考えなさいよ」
「はは、すまんすまん」
「私はザックを放棄していないので、水なら一人分はありますが」
「それは、アイリスが飲んでちょうだい。私達はマジンだから、人間よりは飢えや渇きに強いから」
恵子はアイリスさんに苦笑い交じりに言葉をかけた直後、ガクンと頭をたれた。
『ミ・ミカ、どうしよう? 水と食料確保しないと本気で帰れなくなっちゃうかも』
『せめて水だけでも欲しいですね。沢はこの近くに流れてないから、せめて泉でもあったらいいんですが』
『ミ・ミカも判ってると思うけど、泉を見つけても水は絶対に一度沸かしてから飲んでね。水たまりの水をそのまま飲むと確実にお腹を下すことになるから』
『それが出来れば苦労しませんよ』
常に流れている川の水と違い、水たまりの水は下痢を引き起こす病原菌がいるので煮沸消毒する必要があるのは知ってる。
しかし、水を沸かすための鍋類も私達は放棄してしまった。
「一度、地球にもどるか?」
私に知らない言葉で衛さんがポツリとつぶやいた。
「地球に戻るって、どういうことよッ!? ミ・ミカとヨ・タロも一緒なのよ」
「だからこそだよ。位置関係を考えてみろ、ウルクに戻るには徒歩で三日以上かかるが、ゲートのある洞窟はここから歩いて半日くらいの場所だろ、そのくらいなら強行軍でもなんとかたどり着けるだろ」
「ちょっと、待ってくださいッ! 地球に行くという事は、ミ・ミカさんとヨ・タロさんを地球に連れて行くってことですよ」
「そうしようって言ってるんだよ。このまま、水も食料もない状態で森の中歩き回ってたら全員遭難する。それに比べたら二人を地球に連れていくことくらい緊急避難の範囲内だろ」
私の知らない言葉で、衛さんと、恵子と、アイリスさんが口論を始める。
3人とも、危機的状況におかれて苛立っているのかもしれないがこんな時こそ冷静にならないといけない。
『喧嘩はダメですッ!』
私は三人の間に強引に割って入って口論をやめさせる。
『別に喧嘩してたわけじゃないんだけどね』
『私には喧嘩してるように見えました。こんなときだからこそ、仲良くしてください』
私がそう言うと、恵子は目をつぶってなにか考え始める。
「ミ・ミカとヨ・タロの命と、くだらない機密を天秤にかけるのか?」
「ソーリー……その通りですね。二人に地球のことを話して、ゲートに向かいましょう」
アイリスさんはため息混じりに頷いて、衛さん達は口論をやめる。
そして、私は衝撃的な真実を知らされることになった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
『ゲート!? ゲートって、どういうことですかッ!?』
『どうもこうも、私達の故郷に繋がってる空間転移ゲート。それが、ここから半日くらい歩いた場所にあるからそこに行こうって話になったのよ』
アイリスさんが、私達の現在地と、ウルク、ゲートの位置関係を説明する簡単な地図を地面に書いて説明してくれる。
『ここからウルクまで帰るには徒歩で三日かかりますが、空間転移ゲートなら半日ほど歩けばたどり着けます』
『そこに行けば、水や食料の補給が出来るのか?』
ヨ・タロも地面に文字を書いて会話に加わる。
『可能です。そこに行けば水や食糧だけでなく森を超えるための装備一式を買い揃えることができます』
それを聞かされたら、ゲートに向かうのがこの状況では一番いい。
しかし、気になることもある。
『私達が恵子の故郷に行っても大丈夫なの? 問題があるから恵子達は口論してたんじゃないの?』
ニビルでは長距離の移動はマモノに襲われる危険が高いので国家間の交流があまり盛んではない。
ウルクにやって来る外国人の大半は一攫千金を狙う交易商人か、ウルクの内情を探るための外国のスパイしかいない。
ウルクは犯罪行為を起こさないのであれば他国のスパイを黙認することにしているが、国によっては他国のスパイは即逮捕して処刑してしまうところもあるらしい。
『問題が無いとは言いませんが、今回は緊急避難ということで認められると思います』
一通りの説明を受けた私達は、恵子達の故郷へとつながるゲートに向けて歩き始めた。
半日ほど歩き続けて、空から降り注ぐ光が弱くなり始めたころ私達は、目指していたゲートにたどり着いた。
事前に衛さんが、ゲートの周辺の木に目印を打ちつけていたので、一つ目印を見つけたらあとはそれを辿るだけで特に迷うことなくゲートがあるという洞窟にたどり着くことが出来た。
洞窟は地下水が地盤を侵食することで出来た鍾乳洞で、中に入ると季節が変わったのかと思うほど肌寒い。
『ここから先は足元が濡れてるところばっかりだから、転ばないように注意して』
恵子が、全員に足元の状態を伝えて注意を呼び掛ける。
「あと、マモちゃんは裸足なんだから、手」
「心配するな。ちゃんと足の裏を魔法で強化してるから石とか踏んでも怪我なんかしないぞ」
「足の裏を強化しても、裸足なんだから滑って転ぶリスクは高いでしょ」
恵子は裸足で歩いているマモルさんが転ばないように手を繋いで歩きはじめる。
恵子とマモルさんが双子の兄妹なのは聞いているが、手を繋いで歩いている歩いている二人を見ていると、付き合いたてのカップルみたいに見えて思わずほっこりした気分になる。
先頭を歩くのは唯一明かりを持っているアイリスさんだ。
洞窟の中はとにかく暗いので、夜目の効かない私達は彼女が頭に装備しているヘッドライトの光が無ければまともに歩くことさえ難しい。
唯一の救いは洞窟内にも、周辺の木と同じく出口までの順路を知らせる目印が打ちつけられているのでそれを確認しながら歩けば迷う心配はないという事だろう。
30分ほど歩き続けたところで、私達は大きく開けた場所にたどり着いた。
同時に不思議なことが起こった。
私達が来ることを待ち受けていたかのように、部屋どこかでウインウインと何かが回転する音が鳴り響き、それに呼応するように部屋中に光が降り注いだ。
「ちゃんとセンサー生きてたか。工事するときは税金の無駄だと思ったけど、こうやって自動的に明かりが付くのはありがたいな」
「それに、この部屋は監視カメラでモニターされてるから私達が来たのを見たらすぐに迎えが来るはずよ」
恵子は部屋の隅に置かれた黒い箱を見つけると、箱に向かって手を振り始める。
「なんだか文明の利器がすごく懐かしく感じるわね」
恵子達は安全なところまでたどり着いたと安心してるようだから、私とヨ・タロさんはこの部屋で何が起こっているか判らず目を白黒させるしかない。
おまけに、ペタンペタンと足音を立てて何かがこの部屋に近づいてくる。
「やべえ、キュウベエの奴。今日は帰ってきてたか」
衛さんは、手をかざして私達に下がる様にうながす。
しばらくすると、この部屋に繋がる細い道の一つからマモノと化したゴウムが姿を現した。
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