第47話 このマジンなにか伝えたいことがあるんじゃない?

 ――天原衛

 

枯れ木のマジンが残した足跡の上を全力疾走で駆け抜け、一応安全と思われるとこまで辿り着いたところで俺は魔力切れを起こした。

 魔力切れ=俺の本来の姿である銀色のスライムに戻ってしまうことを意味する。

 問題はない、魔力が少しでも戻れば天原衛に変身すればいい。


「なんとか逃げ切れたな。全員無事に逃げ切れたようでよかったよ」

「よくない、ぜんぜん良くない」


 人間モードに戻った俺に、恵子が不機嫌そうな顔で詰め寄って来る。


「マモちゃん、服は?」

「服……ああ、そういえば俺裸だったな。グレンゴンに変身するときに脱ぎ捨てたから、俺の服シロクズシの目の前にあるわ」

「どうするのよ、回収しにいけないじゃないッ!?」

「そう言っても、荷物なんて気にせず逃げるしかなかっただろうが。全員生きてるんだし結果オーライでいいだろ」

「そうだけど、そうなんだけど――ああもう、これからどうすればいいのよ!?」


 恵子が嘆きたくなる気持ちもわかる。

 夜を徹して戦い続けたものの、肝心のシロクズシは倒すどころか大したダメージを与えることも出来なかった。

 得られた成果は、シロクズシを倒すためには1000個以上存在するであろう地下の根っこを一個ずつ潰し続けるしかないという事と、つるのムチだけでなくドロバクダンという強力な飛び道具でこちらを攻撃してくるという情報を得られただけだ。


「まっ、今回はシロクズシがいるってことがわかっただけで良しとしとこうぜ。調査依頼をうけた歩く木の方も危険なマモノではないみたいだし」

『衛さん、後ろ後ろッ!』


 気落ちする恵子をなだめていると、ミ・ミカが突然ウルク語で騒ぎ出し俺の背後を指差した。

 振り向くと、木と木の間でガサッ!ガサッ! という足音を立てながら枯れ木のマジンが近づいてくるのが見えた。

 ドロバクダンの直撃を何発も受けたので、身体を構成する枯れ木の幹は泥だらけになっていたが大きな損傷は見られない。


「すごいな、あのドロバクダン何発もくらったのに平然と歩いてるぜ」

「草とゴーストの複合属性のマジンだから土魔法に対して耐性が高いんだと思う。それより気を付けて、もしかしたら失った魔力を補充するために私達を捕食する気かもしれない」

「それは無いんじゃないかな」


 俺達をキュウケツで捕食するなら、ドロバクダンから俺達を守ってるときにいくらでもチャンスがあった。

 それをしなかったということは、俺達を攻撃する気はないという事だ。

 恵子は緊張を解いてオモイイシを枯れ木のマジンに向けた。


「№39592。目の前にいるマジンが何者なのか教えてちょうだい」

「前方にいるマジンに関する情報をお伝えします。名称:登録なし新種です。生体:マジン。原種:ヤマザクラ。属性:草・ゴースト。レベル60。体高10メートル、推定体重5トン。枯死したヤマザクラ霊体が魔力器官と結びつくことによって、歩行能力を得たものと思われます」


 オモイイシによって枯れ木のマジンは新種であると正式に告げられた。

 枯れ木に幽霊が宿って歩き回るなんて、とんでもないレアケースだと思うが、考えてみたらゴースト属性のマジンは全員が一人一種族のレアで貴重な存在だ。

 枯れ木のマジンはノソノソと歩いて近づいてくると、俺達の目の前で足を止めた。


「このマジンなにか伝えたいことがあるんじゃない?」

「そうだと思うけど、さすがに植物の言葉なんてわからないわよ。マモちゃんが草属性のマモノに変身したら意思疎通出来るじゃない」


 恵子に会って以降、イヌ、クマ、フクロウといろんな動物と話をする機会に恵まれたが、さすがに植物がどうやって話すかなんて想像もつかない。


「あと、目の前のマジンに変身するのは無理だぞ。こいつ、ゴースト属性だからな」

「あっ、その縛りがあったか」


 カガミドロの細胞は様々なマモノの遺伝子情報を読み取り変身することが可能だが、ゴースト属性のマモノに変身することが出来ないという縛りがある。

 理由はゴースト属性のマジンは、肉体が存在せず目に見えているのは実体のない幽霊なので遺伝子情報が存在しないからだ。

 さすがのカガミドロの細胞も、実体のない幽霊の情報を読み取ることは出来ない。

 枯れ木のマジンの目的を計りかねて俺達が困っていると、彼が枝を動かして俺も目の前に差し出してくる。


「触れって言ってるのかな?」

「それ以外考えられないだろ」


 彼がキュウケツを使えるのを知っているので、触るのが怖い気持ちもあるが、友好的態度でいきなり魔力を吸ったりはしてこないと判断し俺は差し出された枝をつかむことにする。

 枝をつかむと、手にバチンと電流が流れ込んでくる。


 雷魔法≪セイシンカンノウ≫


 以前、恵子から教えてもらったことがある。

 生物の本能も思考も感情も、全ては脳と全身の神経細胞の間を流れる電気信号によって作られている。

 その特性を利用して、神経細胞の間を流れる電気信号を直接他者に流し込んで、言葉を介さず意思疎通を行う魔法が存在すると。

 それが、雷魔法≪セイシンカンノウ≫。

 体験するのは初めてだが、確かに俺は電流と一緒に枯れ木のマモノ思考が脳に流れ込んでくるのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る